後編

 地球さんの周りを歩きながら、太陽さんから借りた光を、夜空からお届けする。それがわたくし、月の役目です。何十億年も前から、ずっと。わたくしは地球を覆う全ての空を、可能な限り満遍なく照らします。地上の方々にとっては、明るいとは決して呼べない、微かな光を。


 真夜中から、暗闇が消えることはありません。暗闇は誰かの視界を奪います。借り物の光では、誰かを照らすのは難しいのです。


 しかし、街灯さんは違います。街灯さんの光は、地上に暮らす方々を照らす光です。真夜中から、暗闇を消す光です。時間を灯す、素晴らしい光なのです。わたくしには、そんな光が出せません。わたくしが照らせるのは、夜空だけ。


 彼女の周りに住む方々にとって彼女は、わたくしの光が霞むぐらい明るいのです。羨ましい限りですよ。本当に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月と街灯 ソブリテン @arcenciel169

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ