第8話 狂気①


ノステレア王国の戦況は防衛戦から追撃戦に変わりつつあった。

攻め立てていたゲテラトフ国軍は逆に追い立てられ、塹壕や盾を弾除けにしながら撃ち返していたノステレア王国軍のSAは次々と前に出ていく。


「全軍、あの無謀な固定砲台共を叩き潰してやれ!」


その号令もあってか、溜め込んでいた鬱憤を晴らすように兵士達は我先にと突き進む。

無論、ただ前に突っ走るだけなら敵にとっては当たりに来ているだけだが。


「坊主!ここからは競争だッ!」


「は、はい!」


「撃墜数で負けた方が今日の奢りだぜ!?」


「えぇ!?」


戦場の空気というのはおかしなものだ。

少し前まで話しかけづらい相手だった年上の男性とノリと勢いで同調し、話しているのだから。







































最前線にて、一機のSAが両腕の円盤を器用に操り敵を撃破していた。

ケーブルのようなものに本体のSAと繋がっている円盤は、SAの腕が振り回される度に円盤もまた少し遅れてそれに続き、敵を切り裂いていく。


「シェアッ…!」


そんな言葉と共に逃げていくゲノを蹂躙するその機体の名は【ド・カロプロス】。

そしてパイロットはティリアという、赤毛の猫獣人の女性だ。

齢19でありながら、幼少期からグロウと共に戦場にいた彼女にとって鈍足のゲノは獲物としては物足りないがそれでも仕事は仕事だ。


「ティリア、そろそろ休め。後は俺がやる」


「物足りないのにどうして引き下がらないといけないのよ」


「体力がバカみたいあるお前との付き合いは長い。だから休めと言っている」


強い口調でそう諌めるグロウに、ティリアは渋々従う。


「もうあの頃とは違う。戦い続ける必要はない」


「分かってる……!いや、結局は昔のクセが直らないってだけね」


「ゆっくり修正していけばいいさ」


まるでそこらの道で歩きながら話すように会話しているが、先程まで元気に抵抗していたゲノ達は既にガラクタと化している。


「…………」


グロウは考えた。

明らかに時代遅れのSA、そしてこの戦争が始まる二ヶ月前に起きたゲテラトフ国の象徴【白狼フェンリル】が行方知れずになったこと。

そして、つい最近では光の巫女と共に傭兵として活動するギルムスを駆る少年。

因果関係はないように見えるが、グロウの勘は既に同じ黒幕が行ったことだと答えを出していた。


「まさか、監察官をやって情報を得れるとは思わなかったな」


ソーラー教団、このクソダサい名前の教団が関わっている。


















ーーーーーー

























戦闘っていうのは、怖くて恐ろしくて、とても危ない、死と隣り合わせの行為だと思っていた。

前世から今に至るまで、僕はそう考えていたがモブの傭兵のように軍の一団に混じって戦って体感して、ようやく僕は【戦闘をする】という意味をハッキリ分かった気がする。

無論、それに気付いたのは戦場からゲレゲンの町に戻ってきてからだが。


「これで少しは垢抜けたか?」


そう言って笑いながらチビチビと安酒を飲むライさんに言われて、正気に戻った。

労ってくるエルリーネのことは既に頭になく、僕は自分のしてきた行動に嗚咽を堪える。

それでも我慢が効かなくて、格納庫の端っこで胃液を吐き出した。


「楽しんでた、戦闘を。あの場所は、狂ってる…!」


戦闘を楽しんでいた僕、その事実に今の自分が本当にオグルという自意識を持った人間なのか、疑った。

疑って、また気持ち悪くなって、吐いた。


「何も分かっちゃいなかったんだ。必死だから気付かなかっただけ……」


そう思うと、僕の後ろで安酒をゆっくり飲んでいるライさんのことが怖くなってきた。

彼は、あの場所から何度も生きて帰ってきた。

そして、きっと僕と同じようになっていた。

ああ、怖い。

傭兵をしている人達の事が【ちょっとした憧れの職業の人達】から【悍ましい事をしている人達】になっていく。









傭兵になった僕は、これを何度も繰り返すのか?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔動駆人スチームアーマーズ モノアイの駄戦士 @monoai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ