第7話 黒鐘
オークの退治から3週間が経過した。
イレギュラーに巻き込まれたということで報酬金は減額なしで貰えたが、結局ソーラー教団に関しては全くの進展なし。
そしてオーク退治で貰った金も、生活費とエルリーネのとある趣味であっという間に消えていった。
そのエルリーネの趣味というのは……
「はぁ!?骨董品集めぇ!?」
「何よ!希少価値を考えればあと数百年もすればお金持ちよ!私の趣味!」
「いやなんでキレてるんですかい、嬢ちゃん…?」
何やら極東から来たらしい刀やらSA用のめちゃくちゃ凝った装飾のされたフリントノックピストルの形をしたピストルなんかを格安だったからと買ってきたらしい。
おかげでオーク討伐で稼いだ生活費も維持費もパーッである。
流石エルフ、価値観が違う……なんて言ってる間もなくライさんに連れられるまま、傭兵ギルドでノステレア王国軍の防衛戦に参加することになり、今こうして戦場に身を置いている。
未だ、その実感は湧かないけど。
「とにかく敵を撃ちゃ良い。せっかく軍の方から支給してくれんだ。無駄にするなよ」
「は、はい!」
SA用に掘られた塹壕……敵の銃弾や砲撃を防ぐための穴から地道に支給されたアサルトマシンガンを撃てばいい。
自分にそう言い聞かせながら、僕は銃声が響き渡る戦場に機体のカメラを向ける。
そこには、機体の色を黒で統一されたチーム【
障害物もないかつては緑一色だった平原を滑るように移動する機体を包むマントを纏った機体に、僕は注視する。
「凄い…」
ーーー
「………」
オグルが見ているマントの機体の主、ヴァリアル・グロウはその視線に気付いていた。
だからと言って
「……ナカイさん、敵は?」
「団長から見て右だよ。あと、ティリアが前に出過ぎてる。それとナカイで良いって」
はぁ、と溜め息をつくナカイだがこれでもう数百回は繰り返しているのだ。
流石にいい加減、やめておこうかとナカイが考え始めるが平原で動く影を見たナカイはSAの右腕に装着されたスナイパーライフルを構える。
「おっと、逃すところだった」
その言葉と同時に発砲。
ズドォォン、という音と共に吐き出された弾丸はゆったりとした坂から登ってきた4脚のSAを撃ち抜く。
ボルトアクションのスナイパーライフルなので、しっかり弾の装填を行いつつ、周囲を警戒する。
ナカイのSA【ド・シルトベルト】は、索敵・狙撃を中心とした後方支援を行う機体である。
しかし、そのスペックは例え後方支援する機体と言えど各国の量産SAより上だ。
右腕をスナイパーライフルにすることで、反動を大きく抑え、撃の精度を上げているうえにスナイパーライフルの
まあ、代わりに近接戦闘に持ちかけられれば右腕のスナイパーライフルが邪魔になるのだが。
「ゲテラトフの野郎共も、そろそろ4脚SAだけじゃ駄目だって分かると思うんだけどねぇ……」
「ティリアを引き戻す。援護を頼むぞ」
「あいよ」
グロウのSA【ガンギエル・ギルムス】は双眸を輝かせて背中のサブアームが懸架していた手斧を左手に持たせて突撃する。
右手にはアサルトマシンガンを腰撃ちで構えつつ、突撃を敢行するグロウ。
「障害にもならん」
ノステレア王国に侵略行為を行っているゲテラトフ国は脚を4本持つ4脚SAを主に運用している国である。
4脚SAは安定性と脚部の負荷を2脚よりも軽減できるが、代わりに2脚の運動性、機動性を失っており、尚且つ近接戦に向かない機体になっている。
その為、武装も両腕には
無論、パイロットの腕次第では近接戦を軽くこなせる猛者もいるし、本来4脚は一番現実的な巨大ロボットの脚でもある。
だがしかし、安定性に重視された脚であり2脚のSAにはとてもではないがそのスピードに追い付けない。
「あ、当たらん!?」
「地面を滑っている!?がっ!?」
4脚SA【ゲノ】は両腕に装備されている速射砲を撃ちまくるが、ガンギエルはまるでスケートリンクを滑るように移動してゲノのパイロット達の予測を外れさせる。
まあ、当たった所で速射砲程度はギルムスの装甲で弾けるのだが。
「フンッ…!」
手斧の刃の部分が柄の所で展開された魔法陣によって赤く発光し、赤熱化する。
俗に言う【ヒートホーク】はゲノの胴体を横に斬り裂き撃破。
アサルトマシンガンで撃ってくる他のゲノを牽制しつつ、ヒートホークを投擲。
牽制していたゲノのコクピットに突き立てられたヒートホークは沈黙し、爆散。
「やっぱり斬れ味が落ちているな。使えん」
ここまでに何度か使ったヒートホークだが、使う度に斬れ味が落ちていく為、提供してきた商会へのレビューは最低評価を付ける事を決めるのと同時に肩部から筒状のものを取り出す。
無論、それはお察しだろうが……
「ビームサーベルで十分だ」
黄色の光刃を放つ【ビームサーベル】が、ゲノをまた一機、ガラクタに変えていく。
ーーー
一方、オグルは塹壕からアサルトマシンガンを撃って確実に敵を倒していた。
まるで気軽に小旅行にでも行くような軽い感じで、ライに指示されて。
「…………」
集中して撃つ時間がとてつもなく長く感じる。
時折、身を乗り出し過ぎて被弾するノステレア王国軍のSA【ノース】や無理に突撃して平原に転がるガラクタと仲間入りする傭兵もいたが、タッグで敵を倒し続けるライとオグルはお互いに情報を共有しつつ塹壕を移動し続けていた。
先導するのはゴッドラに乗るライが行い、それについていくだけでオグルは申し訳なく感じるがライは「いちいち細かい事を気にしてると後でぶん殴るぞ」と脅してきたのでなるべく気にしないようしている。
敵を撃ち、撃破していくうちにオグルは操縦桿を握る手が震え始めるがその事も気付かず撃ち続ける彼は、彼が後になって振り返るとあの一時だけとはいえ、キリングマシーンにでもなっていたのか?と、感じ怖くなるのだった。
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