第6話 ソーラー教団


「だ、大丈夫かい?」


「なんとか……」


エルリーネに体の傷を治療する治癒魔法をかけられて、体中の痛みがなくなったオグル。

しかし、それまでの過程がオグルを肉体的にも精神的にも疲労させていた。

理由を上げるのなら、治癒魔法の使い方だろう。

魔法は魔力魔素を使い、現象を引き起こす事のことを言う。

そんな魔法の中で治癒魔法は怪我を治療するための魔法で、使用する際には患部に触れなければならない。

軽傷などでよく使われる低級治癒魔法【ケア】は、患部を強く触れていればいるほど効果が上がる。

故に、エルリーネは強めに握ったりまるでツボを押しているかのように指を押し込む。

後はお察しの通り、と言ったところだろう。


「で、アンタのいたところはなんなの?」


座るのに丁度いい岩の上に乗った彼女は、そう傭兵の男はライ・ノークスに聞く。

それに男は答える。


「本当は依頼先の事を話すのはあんまりよろしくないんだけどなぁ。まあ、良い。まずは自己紹介かりだ。俺はライ・ノークス、傭兵だ」


彼の自己紹介にエルリーネもまた名乗る。

そうでなければ失礼だろう。


「私の名前はエルリーネ・ルオンラ。ギルムスのパイロットはそこのオグルよ」


自己紹介くらい自分でさせてよ、と非難する目でエルリーネを見るオグルに無視を決め込みながらライに話を進めるよう視線を向ける。


「では……まず俺が雇われていた組織は【ソーラー教団】つってな、まあ新手の宗教組織みたいなモンだな」


ソーラー教団、その言葉にエルリーネは何か心当たりがあるのか考える様子を見せるが、ライは淡々と語っていく。


「俺がどうしてエルリーネちゃんを狙うかは知らねぇが、依頼主が言うにはお前さんは【光の巫女】らしいじゃないか」


「っ!なんでそれを!」


「光の巫女…?」


初めて聞くワードにオグルは首を傾げる。

エルリーネは少し悩んでから、オグルに説明する。


「光の巫女、それは古の時代から続く運命因果律から選ばれた二人の英雄のうちの一つ、光の戦士に仕える巫女。今代は私って事だけど……狙われる理由が分からないわ」


彼女が言うには、巫女は人類の中で獣人や蟲人ムシビトなどと呼ばれる亜人種の女性から選ばれるという。

そして、肝心の選ばれる戦士。

性別人種関係なく、巫女が選ばれるのと同時に戦士もまた選ばれる。

歴代の巫女が残した記録で判明している限りそう書かれていると、エルリーネは語る。


「二人の戦士が何故、光と闇なんていう区別の仕方になったのかは分からないけど、少なくとも二人の戦士と巫女は歴史の節目や大きな出来事に何かしらの形で関わっている事が多いのは確かよ」


そう締め括ったエルリーネに、オグルは質問する。


「じゃあ僕が光の戦士だったりする?」


「そんなわけないじゃない」


即答で否定され、オグルは「なんだよ…」と呟いて俯く。

が、エルリーネは続けて言う。


「今は無理だけど満月の日に調べてあげても良いわよ」


「ほんとか!?」


エルリーネの言葉にバッと顔を上げて目を輝かせるオグル。

余りにも分かりやすい態度にエルリーネとライは思わず苦笑いを浮かべる。


「詐欺にでも会いそうね……」


「同感だぜ」





























廃坑からゲレゲンの町に戻ってきたオグル達。

帰還後すぐにオークの討伐時、組織だって動いている者達に襲われたことを傭兵ギルドに伝えるが……


「ご報告ありがとうございます。こちらでも捜査しておきます。報酬金は後日、支払われますので今日はお疲れ様でした」


淡々とそう言われ、ギルドから追い出されるように出たオグル。

出迎えたのはライとエルリーネ。

オグルの話を聞くと二人は適当に流されたな、と彼に言う。


「まあ、一応魔獣退治には監視官がいるから捜査はしてくれるだろ」


そう傭兵経験が豊富なライが言うのならば……と、オグルとエルリーネは一先ず納得する。

だが、ライは内心では難しいだろうと考えていた。


「監査官次第で何もなかった事にできるからな……」


ソーラー教団がどれだけ策謀ができるか分からないが、少なくともこの乱世では金で問題を解決することは多々ある。




一抹の不安を抱えつつ、オグル達について格納庫に行くのだった。




















ーーー










オーク退治に行って戻ってきて。

僕は疲れ果てていた。

オグルの体が特殊な体であろうがなかろうが、疲れたものは疲れたんだ。

早く寝たい気持ちはあるけれど、でもその前にやることがある。


「ライさん、これで大丈夫ですかね?」


「間に合せにしては上出来だ!」


現在、格納庫のベッドに横たわるのはライさんの乗っていたゴッドラというSAスチームアーマー

今はそれの修理だ。

明日にしても良いけど、狙われているエルリーネを守れる戦力が大いに越したことはない。

今日、襲撃される可能性だってあるのだ。

僕一人でエルリーネを守れると思えるほど、僕は自分が強いとは思わないし、ライさんは依頼の失敗続きで彼が教えてくれたソーラー教団に関しては未だその存在を秘匿する組織。

口封じのために殺しに来るという予想は当然出るわけで、例え敵対していた傭兵であっても今は協力しなきゃいけない。

そんな状況だからこそ、僕は思う。


「傭兵って、とんでもなく怖い仕事だ……」


鉄狩り屋メタルバルチャーをやってたときにはきっと分からないだろう。

いつ撃たれるのか、いつ殺されるか分からない世界に足を踏み入れたからこそ、そのプレッシャーが半端なく怖く感じる。


「ま、そりゃそうだよな。特にヒヨッコには」


「あ……」


どうやら口に出たいたらしい。

恥ずかしい気持ちでいっぱいだけど、ライさんは笑って言う。


「俺も傭兵始めたての頃は人を殺した後に怖くなって逃げたくなったぜ」


ゴッドラの新しく取り付けたジャンクパーツの頭部を磨きながらそう言うライさんの言葉に聞き入る。


「でもなあ、傭兵以上に金が入って成り上がれる職もねぇんだよな。そう考えれば吹っ切れたもんさ」


「あっ、はい」


結局、私利私欲に負けただけじゃないか、と僕は内心突っ込んだけど、同時に納得もしていた。

人の欲望は僕の世界の科学や美味しい食べ物を作り出しているのだから、欲望で動く、というのは傭兵にとって普遍的な考えなのかもしれないと。


「傭兵は狂ってなきゃやれない、ってことなのかな……」


今度は僕の独り言は誰にも聞こえなかったようで、ライさんが脚立から降りてくる音だけが格納庫に響く。

黒い機体の頭には、外装はなく剥き出しになった鈍い鋼色の頭がある。

その鋼にある青い単眼モノアイの瞳は、次の戦場できっと同胞たる黒い機体ゴッドラに向けられるのだろう。



















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