第5話 卑怯とは言わせない


この戦いで生き残ったパイロット達はこの日以上の恐怖を味わうことはないだろう。

白銀の煌めきが視界に入れば、緑の閃光が味方機のゴッドラを斬り捨て大破させて、次にはもう一機の腕が盾ごとバッサリ斬られる。

兎のように素早く、死神のように確実なる死を。


「なんだ……コイツ…!?」


戸惑うゴッドラのパイロット達だが、ライ・ノークスは傭兵としての経験があったのもあってダガーの移動が視えていた。


「少し前まで戦闘経験もなかったガキがこうもやる…?まさかコイツには…!」


思い当たる事があったのか、ライは隊長機に声をかける。


「旦那!コイツは依頼主の言ってた光の戦士じゃあないじゃないですかい!?でなきゃ、ほんの数日動かしてるだけのガキがあの加速で戦闘を継続できる筈がねぇ!」


そう進言するライだが、隊長は他のパイロットと違って恐れではなく怒りを抱いていた。

故に、ライの言葉は届くことはなく味方を鼓舞する言葉が出る。


「ええい!我らゴーンド部隊がソーラー教団のこれから続く同志達の先達となるんだぞッ!これは試練だ!神が我々に課した試練だ!」


「なっ…!?ば、馬鹿言っちゃいけねぇ!」


「傭兵如きが口出しするな!貴様は黙って私の指示に従うのだ!」


ライは苛立っていた。

依頼主からの情け脅しで依頼主の私兵の訓練を引き受けたライとしては、ここで彼らを失えば依頼金どころか命が狙われるのだ。

我ながら危ない組織に雇われたものだとライは思うが、それでも傭兵としてのプライドがあるのだ。


「ゴッドラの性能が良くてもパイロットがいけねぇんだよ!民間人上がりのお前らが敵う相手じゃねぇんだ!」


「黙れと言ったはずだ!」


こうして言い合っている間にも、ダガーは動揺して動きを止めたゴッドラ達を斬り裂いている。

そして遂には一人のパイロットの行動が悲劇を起こす。


「こ、このっ!!」


このまま殺られるよりは、そう思ってダガーの動く先を狙って撃つが一番被弾しやすい前面の装甲は厚くされている。

弾丸は防がれて逆に自分が狙われる結果となる。


「ヒィッ!?」


無機質なゴーグルがこちらを見ている。恐怖の感情も合わさって野生の獣と出会ったかのような濃密な死の気配に、男は乱射する。

人間、怖いものに対して逃げるか、暴力を振るうことで解決しようとする2つのタイプがいるが、彼の場合は後者だった。

しかし、狙いも定めず撃った弾がどこに行くか。

無論、近くにいて尚且つ射線上にいる味方だ。


「ぐあっ!?何をする!?」


「か、カメラが!?」


被弾した2機の内、視界を得るために必要な頭部のメインカメラを破壊されたゴッドラのパイロットは思わず引き金を引いてしまう。

少し驚いただけでも引き金を引いてしまう事例などは現実でもある話だ。それが訓練された民間人といえど、所詮は間に合わせ。

常にトリガーに指を置く素人は、真っ暗闇のコクピットの中で訳も分からず恐怖を振り払うために引き金を引き続ける。


「バカ!やめろ!?」


あらぬ方向に向けて発砲するゴッドラに、味方は抑えようとするがダガーが胴体を真っ二つにしてそれを止める。


「卑怯とは言わせない。言わせない、ぞ…!」


間もおかずの連続加速。

それに耐えきれたオグルの身体は疲労と痛みで本来ならすぐに倒れていてもおかしくない状態。

脳内麻薬たるアドレナリンが痛みを緩和しているとはいえ、全力のスプリングダッシュの連続使用は身体をしっかりと鍛え上げていなければ早々耐え切れるものでもない。


「あと……5機、いや6機!」


加速スプリングダッシュ

それと共にビームサーベルが振り払われ、隊長機の左腕が肩から失われる。


「あ、はぁ…?」


素っ頓狂な声を上げる隊長にダガーはヤクザキックで吹き飛ばし、すぐそばにいたライ機の頭を刈り取る。


「だ、駄目だッ!コイツは才能の塊だ!」


ライはトドメを刺される前にコクピットを開けて、持っていた小さな白旗をあげる。


「こっ、殺さないでくれ!!」


それが見えたのか、ダガーはライを一瞬だけ見たあと、すぐに残りのゴッドラを斬り刻む。

爆散せず、コクピットが焼かれなかったパイロット達は既に脱出し逃げ出す中、それを小さな岩陰から見ていたエルリーネはようやく終わったことに安堵していた。

































「痛い痛い!?」


「我慢しなさいよ!ほら、オッサンもオグルの手を抑えて!」


「へ、へい!」


ライ・ノークスはオグルの暴れる両腕を抑えながら、どうしてこんな事になったのかと狐につつまれていた。




少し時間を遡ると、最後の一機を破壊して動きを止めたダガーにライは腰が引けつつ近付いた。

もしかしたらダガーを奪えるチャンスなのではと、内心笑みを浮かべて。

だがダガーに近づいたのはライだけではない。


「アンタは逃げないの?」


「ヒョ!?」


エルリーネもまた、彼の安否を確認するために近付いていた。

先程までの思惑をライは誤魔化すように慌てながらも弁解する。


「い、いやぁ雇い主に最後のチャンスを与えられたんだけど、それもパーになっちまったからな……アイツらの所には戻れねぇよ」


「そう」


ライの弁解にそう返しつつ、エルリーネは通信機で呼びかける。


「オグル!さっさと動きなさい!マニュアルじゃ報告しないといけないんでしょ!」


しかし、エルリーネの耳に届いてくるのは呻くオグルの声だけ。

しかし、機体を仰向けに横にする事はできたので操縦は問題なさそうだが……


「体が痛い……」


コクピットから這い出てきたオグル。

平民が着ている服では防御力はないに等しく、肌が見えるところに赤い痣が目立っていた。


「オッサン!ちょっと手伝いなさい!」


「お、オッサン…!?」


こうして先程までのシーンに戻るわけである。







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