第4話 戦闘
ー ー ー
オグルが戦っている、ゲレゲンの廃鉱は作業用のSAが通るためにかなり広く掘られている。
無論、それはSAによって採掘、拡張された空間であるが、そんなことは今のオグルには関係ない。
成り行きで生きてきたオグルにとって、戦場というのは理不尽な死を与えてくる雨雲なのだから。
だがそれは同時に戦士としては素人丸出しの考え方とも言う。
何故なら廃鉱は暗く、そして複数の道がある。
攻め込むオグルとしては不利な状況なのだ。
もしも、彼のSAがギルムス・ダガーではなかったら後ろからの奇襲でやられていただろう。
「うわぁっ!?」
「グオァッ!!」
機体の背中に突き立てられるバイスピア。
バイブレイドと同じように、本来は切っ先の高振動ブレードによって装甲を貫入するのだがオークは力任せの突きで並のSAの装甲を貫く事がある。
故にダガーの装甲に助けられたオグルは衝撃に揺さぶられて内臓を軽くシェイクされながらも、攻撃された怒りをビームサーベルで振り払う事に転換させる。
「ガッ…!?」
「ダガーじゃなかったら本当に不味かったな…!」
発光する為、ライト代わりになっているビームサーベルを片手にオグルは今度は不意打ちをくらうまいと、熱感知レーダーに注意を向けつつ前に進む。
「ここは……集落?」
頭の中に叩き込んだ情報と照合しつつつ、通路より広い空間とたむろしているオーク達に機体を岩陰に隠す。
ビームサーベルも光刃を消すことで、辺りは完全な暗闇に覆われる。
「オークは夜目が良い。けれど、気が緩んでいるから奇襲……いけるか?」
エルリーネは人数の都合上、出口を見張っておりここにはいない。
サポートを受けれない中、オグルが取れた行動はこれしかなかった。
「奇襲からの正面突破……!やっぱりこれしかない!」
ビームサーベルをもう一度展開。
まず、岩陰にもたれて寝ぼけているらしいオークの頭にビームサーベルを突き入れて殺す。
ズシン、と倒れた音で何匹か異常に気付いたオーク達だが人間ほど素早い思考ができない彼らは確認するまで何が起きたのか分からない。
オグルはその間に殲滅を行わなければならない。
ダガーといえど、オークに全力でタックルされれば機体ごとミンチにされてもおかしくはない。
「グヒッ…?」
まず確認しに来たオークの一匹目の首を斬り落とす。
ただの肉となったオークが地面に叩きつけられる前に、ダガーを走らせ、壁に足をつける。
「ぐうっ…!?」
壁につけた足を蹴って強烈な加速にオグルは息をつまらせる。
咄嗟の判断とは言え、自身にかかる負担を考えなかったツケにオグルは苦痛混じりの苦笑を浮かべる。
バネのように跳んだダガーは、暗闇の中を人間の目に当たる光学センサーの補正とビームサーベルの明かりでなんとか驚愕のオークをぶった斬る。
壁キックで加速した速度が落ちて、地面を耕しながら着地するダガーに、流石に非常事態と理解したオーク一党が各々の武器を手にビームサーベルで照らされる白銀のロボットに総攻撃を仕掛け始める。
「だ、駄目だ!無理だわ!」
猛烈な攻撃にオグルは先程までの強気な姿勢から一転、撤退を決めたオグルは逃げに徹する。
「やっぱり借金してでもアサルトマシンガンでも買えば良かった…!」
そう後悔しても時すでに遅し。
情けなく逃げる姿にオーク達は失笑しつつ、寝床を荒らされた恨みを晴らすべくオーク達は追撃を仕掛ける。
来た道を駆け抜けるダガーと、それを追いかけるオーク。
立場が逆転した両者であったが、出入り口にまで走り抜けた時、オグルの耳にエルリーネの声が響く。
「伏せてっ!」
「!?」
どういうことなのか、何故そんなことを聞くのか。
そんな事を考える前に彼女の言う通り機体を伏せさせた。
もしも、彼が機体を伏せなければ蜂の巣になっていただろう。
「撃て!」
ダダダダダッ!と激しい銃声が廃鉱内を騒音で埋め尽くし、オーク達は銃弾に倒れていく。
「何が……何が起きている…!?」
オグルは混乱するしかない。
銃声と倒れていくオーク。
そして光に慣れた視界から得られた情報は、少し前にエルリーネを捕まえようとしていた黒いSAがいること。
故に呑気にいつまでも横たわっている暇はない。
「む?貴様の報告にあったギルムスか?」
「へい!奴ですぜ!」
立ち上がるダガーに黒いSA【ゴッドラ】のリーダーが記憶にあった情報を思い出す。
それにあの時の傭兵、ライ・ノークスは答える。
リーダー機故か、右肩には黄色の線が引かれているゴッドラが指示を出す。
「全機、熱探知から魔素探知に切り替えろ!」
SAは【マディック・コア】と呼ばれる魔素の塊……一般的には魔力と呼ばれるものの塊をSAの動力源としている。
マディック・コアは元々は魔獣や魔物の心臓となるもので、太古の昔から高価かつ有益な素材であった。
便利な道具のほとんどにはマディック・コアが用いられている、と断言してもいい。
魔素は空気中にも薄くあるが、魔素が多くあるのは人体、ひいては命あるもの達全てに魔素が詰め込むようにある。
目には見えないが、魔素はSAを動かすにも魔法を使うにも必要不可欠な存在。
故にSAの動力源であるマディック・コア周辺は魔素の濃度が高く、魔素を探知する魔導器などを使えば容易く探知できる。
では何故、隊長機が魔素探知に切り替える事を指示したのか。
熱探知の魔導器は未完成で寒冷帯などでしか使えないのだ。
コクピットにある探知系の計器はとある事情で魔素探知の技術のみが向上しており、熱探知は古いままのものを長い間用いられているのだ。
熱探知に関しては完全におまけ程度である。
熱探知が発展しなかった理由についてはまた別に語るとして、魔素探知に切り替えたゴッドラ達はダガーに向けて発砲を開始する。
「うわぁぁっ!?」
真正面からの戦いなんて格闘戦特化のダガーにできるはずもない。
相手が正々堂々、剣で勝負なんて事がなければダガーにできることなど避けるだけである。
「なに逃げてんの!」
「エルリーネ!?」
思考が既に逃げる事に染まっているオグルに、エルリーネが通信機越しに怒鳴る。
「なんのためのギルムスよ!あれくらいの豆鉄砲、耐えられるわよ!?」
「そんなことを言われても!マシンガンないんだぞ!?」
怒鳴るエルリーネに及び腰のオグル。そんな彼に痺れを切らしたエルリーネが更に怒鳴る。
「ッ…!アンタは守る力を手に入れても逃げるの!?そんなんじゃ自分も、ましてや私のことだって守れないわよ!男なら黙って突っ込みなさいよ!」
「無茶言うなよ!?」
「その無茶を押し通せるのがギルムスなの!その機体を信じなさい!臆病者!」
「…!」
そうだ、そうだった。
オグルは気付いた、いや気付けた。エルリーネのおかげで、臆病になっていた自分を自覚できた。
「そうだ、僕はもう逃げるだけの
幼少期から生きるために習性のように染み付いた臆病者の心。
その心にオグルは今あるありったけの勇気で自分の心を奮わせる。
「倒す……倒してみせる!」
操縦桿を握る手の震えは止まらない。
だが、オグルの目は怯える弱者の目ではなく、敵を見る戦士としての目になっていた。
「なんだ?逃げるのをやめた?」
未だ、どこの所属なのかも分からない黒いSA。
しかし、その機体に自信を持っているらしい。
それは自分達の組織が作り出した故のものか?それとも腕に自信があるのだろうか?
どのみち言える事は一つ。
「ギルムスと言えど、この数ではどうにもなるまい!」
リーダー機のその言葉に、一見、無謀な突撃に見えるダガーに嘲笑しながら彼等は迎え撃つ。
「……嫌な予感がするぜ」
そんな中にいるライ・ノークスは、自身の第六感に嫌なものを感じていた。
とはいえ、秘密裏とは言え傭兵として依頼されたからには付き合わなければならない。
そして目の前の駆け出したダガーはビームサーベルを手に、敵陣に突っ込む。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「早い!?」
走る時の踏み込みから加速した【スプリントダッシュ】は、SA特有の機能である。
SAに限らず、ロボットや現代社会では身近にある車の脚部、もといタイヤの根本にはショックアブソーバーと呼ばれる、落下などの衝撃を和らげる機能がある。
スプリントダッシュはショックアブソーバーを改造したもので、それはほぼSA全ての脚部に積まれている。
無論、機体によってはないものもある。
それと同時にそのショックアブソーバーは戦闘や移動に耐えられるのか?という疑問があるだろう。
その疑問は全て魔素が解決する。
ショックアブソーバーに特殊な素材を使用して、瞬間的にバネの役割をこなせるように魔素と電気でコントロールしているのだ。
さて、ここまで説明したがスプリントダッシュを使えば体にかかる負担は大きい。
機体によっては訓練されていない生身の人間が耐えれる6Gの圧力を超える出力を出す。
安全面からリミッターのかけられたスプリントダッシュでは、ダガーからゴッドラまでの十数m離れた距離でほんの3秒かかるかかからないかの速度など出せない。
通常のスプリントダッシュと比べるなら走らせたほうがまだ早いまである。
普通に走るか、普通より少し高いジャンプしながら移動するかの簡単な違い。
「あぁ!?」
しかし、ギルムスシリーズが後世に残るには少なくともそれなりの理由はある。
今回のスプリントダッシュの話はその一つとも言えよう。
「ゲホッゲホッ……むせるけど、なんとかなる!」
ビームサーベルで下半身と泣き別れしたゴッドラの上半身が地面に沈む。
爆発の光がダガーの背中を照らすが、ダガーの無機質なゴーグルの光は次なる獲物を求めていた。
ダガーと組織だった動きをしている集団との戦場から離れた森の中。
蒼く光るバイザーの目を通して戦いを見ている鎧ともロボアニメによくあるパイロット用の宇宙服にも見える男が、無言で見ていた。
「時代の風を吹かせる、光の戦士か」
溢れるように漏らしたその言葉を最後に、紫黒色と漆黒で彩られたSAがSAサイズのスナイパーライフルを構える。
いつでも敵を撃ち抜けるように。
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