転生聖女の気ままな学園ハーレムライフ ~聖女の仕事はこりごりなので、今世は可愛い女の子を侍らせて楽しく生きようと思います~

おるたん

プロローグ

 ぼやける視界に映る自分の腹から流れる血を見て、私はここで死ぬのだと悟った。

 けれど、不思議と救われた気分だ。

 ようやく、私のつまらない人生が終わる。

 聖女として勇者たちに同行し、邪神を倒す旅がようやく終わるのだ。


 思い返せば、地獄のような日々だった。

 農家の娘だった私は12歳の頃、女神様に出会う夢を見た日から聖女の力に目覚めた。

 それを切っ掛けに私は家族と引き離され、教会で暮らすことになった。


 私の国は女神様への信仰が強く、そのため教会の力も強い。

 そんな国で聖女の力に目覚めた私は人々から現人神のように扱われ、崇められた。

 ただの村娘の生活から一変、貴族どころか王族のような生活を送り、時に負傷した騎士を癒すという聖女としての役割をこなしていた。


 そんな生活を送る事3年、女神様から勇者と共に邪神を倒してほしいと頼まれ、私は勇者パーティーに同行することになった。

 正直面倒だと思ったが、女神様から直々に頼まれ、さらに当時国民から慕われていた勇者に同行するのは光栄なことだ。しかし、私には荷が重すぎる。


 3年も聖女として人々――特に負傷した兵士を直し続けたとはいえ、私は血を見るのが苦手だ。それに、物騒なことも嫌い。

 それでも女神様からの頼みを無碍には出来ず、同行することに決めたのだ。


 けれど勇者たちとの旅は苦痛そのものだった。

 目の前で上がる血しぶき、極限状態で常にギスギスしたパーティーの雰囲気。

 そして、特に前線で戦い心も体も疲れた勇者から私は奴隷のように扱われ、次第に回復機能付きの玩具となった。


 本当に碌な思い出がない。

 唯一王族が食べるような豪華な食事は美味しかったけれど、優しい親と、私の事を慕ってくれている妹と食べる質素なご飯のほうが幸せで楽しかった。


 聖女という地位の代わりにすべてを失い、ただ苦痛だった人生もやっとここで終わる。

 邪神を倒すのもあと一歩だったけれど、私にはもうそんなことはどうでもいい。

 パーティーの中でまともに回復魔法を使えたのは私だけだったけれど、全員で全力攻撃すれば勝てるだろう。


 本当に、ここまでよく頑張ったと思う。

 だから、もし前世があるのなら、平穏で楽しくて、質素でもいいから幸せな人生を送りたい。



 気が付くと、私は懐かしい場所にいた。

 天使や神々がいる神殿。私が過ごしていた教会をさらに豪華にしたような場所で、奥の玉座のような場所には私に力をくれた女神様がいる。


「お久しぶりです。まずは、謝らせてください」


 そういって、女神様は私に頭を下げた。

 頭を上げてください、とでもいったほうがいいのだろうか。女神様の表情は本当に落ち込んでいるようで、私も何も言えない。


「確かに邪神討伐というのは人間には荷が重かったでしょう。それでも勇者たちの力があればと思っていたのですが――いえ、言い訳は良くないですね。本当に、ごめんなさい」


 慈愛と癒しの女神で、私にお告げを与えるときは常に笑顔で明るい印象だったけど、今は申し訳なさと絶望のような表情をしている。


「けれど、貴女のおかげで邪神は無事討伐されました。これは貴女の存在があってこそのものでしょう。しかし沢山辛い思いをしたようですし……お詫びと私からの褒賞ということで、何でも願いを叶えましょう。せめて、最後くらいは――」

「それじゃあもし次の人生があるのなら、勇者なんて必要ない平和な時代に生まれたいです」


 願いと言われても、それくらいしか思い浮かばなかった。

 地位のある人間の生活というのも思ったほどいいものではないし、金があるからと相応の地位があれば好きに使う余裕もあまりない。

 あの人生でわかったのは、平和であることが一番ということ。


「もう一つかなえられますが」

「とにかく平和なら、それでいいです」

「……そう。それじゃあ、そのようにしましょう。輪廻を司る神にそのように言っておきます。来世の貴女に、祝福があらんことを」


 最後に女神様は私の額にキスをして、姿を消した。

 それから少しして、私の死かいも徐々に白くなっていき、意識も薄れていった。


※ ※ ※


「ユナ、手を切らないように気を付けてね」


 ユナ、それが生まれ変わった私の新しい名前だ。

 容姿は母に似て綺麗な金髪に物静かな印象の顔つき。名前も見た目も、完全に別人だ。


 家族は王国騎士団で剣術指南役を務める父と、元宮廷魔術師の母。そして、教会に所属する聖騎士のお姉ちゃん。

 貴族ではないが裕福な家に生まれ、それから6年、何不自由なく楽しく過ごしている。


 ほぼ貴族のような家だが、生活はお金に余裕のある平民という様な感じだ。

 家の庭の畑で野菜を作ったり、森に遊びに行ったり、そんな本来私がしていた何ともほのぼのとした生活を送っていた。


 今日は天気がいいので、育った野菜を収穫している。

 家の手伝いをして、畑いじりをして、たまに帰ってくるお姉ちゃんと遊ぶ。

 親からはもっと遊んでもいいと言われるけど、こういう生活が性に合う。


「ママ、見てください! すごい美味しそうなの取れた!」

「そうねぇ。ふふっ、せっかくだし、今日の夕飯はちょっと豪華にしちゃおっか」

「ほんと⁉ 私も手伝う!」

「それじゃあ、一緒に作ろっか。パパも喜ぶわよ」


 そんな、ありふれた家族のやり取りをしながら野菜を収穫して、終わったら母に教わって魔法の練習をする。

 私は聖女だったものの、まともに使ったことのある魔法は女神の加護があって初めて使える聖属性の魔法だけで、他はからっきしなのだ。


 ちなみに、今でも聖属性の魔法は使えるけど、聖女なんて碌なものじゃないので隠している。

 私が生まれた今の時代は至って平和なので、たとえ聖女だからと特別な使命を与えられることなんて無いだろうけど、警戒しておいて損はない。

 聖女なんて、死んでもやりたくないし。



 魔法の練習を終えた私は、ママと買い物に出かけた。

 王都の一等地に家があるので商店が集まる商業区までは少し距離があるのだが、散歩にちょうどいい程度の距離なので、意外と気に入っている。


 事件も少なく平和で活気にあふれた街を見るだけでも楽しいものだ。

 ただ、一つ文句があるとすれば、商業区に入る前にある広場の銅像のことだろうか。

 1000年前人間の脅威であった邪神を討伐した勇者たちの銅像がある。勇者、剣聖、賢者、そして聖女。


 勇者と賢者、ことあるごとに私を犯していた二人。銅像を見るだけで吐き気がする。

 最初は強くて優しくて頼りがいのある好青年だったのに、常に死と隣り合わせの極限状態ではああも人を変えるのだと思い出すと、同時に少し悲しくなる。

 あの二人も、英雄になることを強いられた被害者なのだ。


 何度も何度も腕や足を失うような傷を負い、ギリギリの戦いで邪神の手勢に勝利し、死んだ方がマシだとしても私の魔法で完治してしまう。


 今だからこそ言えるが、あの場に居たのはいわば神の奴隷。誰も悪くない。ただ、運が悪かっただけなのだ。


 嫌な思い出だけれど、それももう前世の事。

 彼ら、そして常に私の味方であってくれた剣聖――ユーちゃんのおかげで今のような平和な世になったのだから、その時代に生を受けた私はせめてその平和な世を存分に楽しもうじゃないか。


 そうして笑顔で暮らしていれば、多少なりとも英雄となったみんなも救われるだろう。

 それに、私のあの人生も無駄ではなかったと自分自身が誇れるようになる。


 だから、私はこの時代を存分に楽しむ。そう心に決めた。

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