補陀落渡海の伝承
@2321umoyukaku_2319
第1話
本当に補陀落へ辿り着けるのか? と疑問に思った者が昔いた。浄土へ行ってみたいものだが、行って帰ってきた者が誰もいないので事実かどうか分からない。自分が試してみようと思い立ち海へ向かった。水と食料を積めるだけ積んだ小舟に乗り沖へ漕ぎ出す。嵐が来て海は荒れた。せっかく積んだ水と食料が波に流される。そのうち小舟は引っくり返った。海に投げ出された男は懸命に泳いだが、やがて力尽きた。
気が付くと、男は浜辺に打ち上げられていた。立ち上がり、ここはどこかと辺りを見回す。自分がどこにいるのか、彼は分からなかった。金属の柵で囲まれた石の道をしばらく歩くと、棒を持った男の絵が書かれた看板があった。
落合博満記念館、と書かれている。
男は確信した。ここは補陀落だと。そして、この落合博満なる者が観音様の化身だと!
憧れの目的地へ辿り着いたことを男は大層喜んだ。落合博満記念館の看板に向かって手を合わせ、目を瞑って読経する。どのくらいの時間が経っただろう。ふと気が付くと、彼は自分の家にいた。いつのまにか帰ってきていたのである。
これは観音様の御導きであると思った男は、信仰を広めるため自分の体験を人々に伝えて回った。その話を信じ、男が船出した紀州熊野へ旅立った者が何人かいた。そして実際に落合博満記念館の看板を見て戻って来た。中には看板だけでなく、観音様の化身である落合博満その人に会ったと語る者もいたという。
中世の民衆に膾炙されていた仏教説話をまとめた古記録に残されている話である。
補陀落渡海の伝承 @2321umoyukaku_2319
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます