04.冒険者ジュノ
冒険者ジュノは孤高の女戦士と呼ばれている。だが彼女自身は決して、孤独を愛する人となりではなかった。それがなぜ頑なにソロを貫いているのかと言えば、新人時代に所属していたパーティに理由がある。
今となってはもう存在しないそのパーティは、
メンバー構成を見ればお分かりのことだろう。
そう。そのパーティは男探索者のハーレムパーティだったのだ。
まだ16歳だったジュノは、リーダーに言い寄られて寝込みに夜這いをかけられたり、ところ構わず身体を触られたりして、冒険どころではなくノイローゼになりそうになるほど悩まされることになった。それどころか、すでにリーダーと男女の仲になっていた他のメンバーから執拗な嫌がらせも受けた。しまいには罠に嵌められてリーダーに手篭めにされそうになり、とうとう我慢の限界に達して剣を抜いたのだ。
結果、ジュノひとりの手にかかって先輩冒険者たちが壊滅した。リーダーの男探索者は死亡、サブリーダーだった女戦士は利き腕を斬り落とされて廃業、女魔術師は魔術の攻防でジュノに敗れて自信喪失し逃げるようにフリウルから消え、女法術師は恐怖のあまり失禁した挙げ句、恥も外聞もなく泣き喚いて命乞いしてようやく見逃された。
ジュノ自身もこの件で責任を取って廃業するはずだった。だが元々、勇者候補を育成することでも有名な、アルヴァイオン大公国の誇る最高峰大学〈賢者の学院〉の“力の塔”を17席という優秀な成績で
そんなジュノがパーティとトラブルを起こして廃業すると言い出したため、ギルドは慌てた。〈隻角の雄牛〉亭フリウル支部長すら出てきてギルドの総意として慰留にかかったのだ。
結局、ギルドは彼女を被害者と認めてその行いを不問としただけでなく、すでに所属パーティで規定を満たして“
以来、ジュノは人間関係で嫌な思いをすることもなく、自分のペースで心穏やかに冒険者活動を続けている。パーティ壊滅事件から5年、21歳になった彼女は順調に“
だが、そろそろほとぼりが冷めたと思ったのか、ギルド支部長は“凄腕”昇格のためにパーティを組むことを条件にしてきたのだ。しかしどうしてもトラウマが消え去らずにパーティが組めないジュノの冒険者ランクは、事実上頭打ちの状態だったのだ。
そんな中、ジュノが知り合ったのがレイクだった。
レイクは元々“雷竜の咆哮”の
パーティのために敢えて危険を冒してまで単独行動をしているというレイクの献身に、ジュノは感動した。自らの手で斬り殺したあのリーダーとは、同じ男性探索者なのに大違いである。しかもレイクはそれまでの多くの男性冒険者とは違って、ジュノの美貌を見ても口説くこともなく、共に夜営しても彼に夜這いをかけられることもなかった。そのことがまた、ジュノの心証を良くした。
さすがにこの時はまだ彼とパーティを組むつもりなどなかったが、その後もたまにクエスト先が近かったりすればジュノの方から率先して声をかけ、何度か同行する形にもなった。
そしてジュノはまた、レイクの作る食事にも感動した。プロの料理人にも引けを取らない美味さだったのだ。
実を言うと、冒険者としては超一流のジュノは、炊事洗濯掃除などの家事が壊滅的に苦手であった。冒険中の食事なども塩を振って焼けばまだいい方で、自分で作れないのを分かっているため、あらかじめ用意しておいた調理済みの保存食しか食べなかった。食い物がなくなれば、ジュノの冒険は終了である。
そんな彼女は、レイクの手料理を味わって以降は好んでソロ行動中のレイクと同行するようになっていた。というかルーチェから聞き出して、レイクの向かう先と行き先が近いクエストしか受けなくなっていた。
「なんで毎回ついて来るんだよ」
「まあいいじゃないか。旅は道連れって言うしな」
「そんな事言って、メシ代節約したいだけだろうが」
「材料費なら払うと言っているのに、レイクが受け取らないんだろう?」
毎回同道して、そのたびに同じやり取りが繰り返される。レイクとしては自身の事前行動の費用もパーティの活動資金から出しているから、ジュノの食費の支払い提案を勝手に受け取れなかっただけなのだが、そんなところも奥ゆかしいとジュノは好意的に捉えていた。
ふたりの関係を詳しく知らない第三者の目には、どう見ても
そうしてついに、ジュノはレイクとならパーティを組んでもいいと決意して、勇気を出して彼に提案してみたのだ。そうしたらなんと彼は、ここ数年で頭角を現してきた“雷竜の咆哮”のメンバーだというではないか。
すでにパーティを組んでいるものを、わざわざ引き抜いてまで……とはジュノは考えなかった。どう考えても“雷竜の咆哮”の躍進はレイクあってのものだし、それを引き抜いてレイクの幼馴染だというソティンや他のメンバーとトラブルになって胃を痛くするくらいなら、ソロの方が全然マシである。だがそれでも、レイクとの二人パーティは諦めがたい。
だからジュノはダメ元で提案してみたのだ。
「なあレイク……もし、もしもだが、君がパーティを抜けるような事がもしあれば、その時には私と組んでもらえないだろうか」
「ん?ん〜、そうだなあ。まあ万が一そういう事になれば俺も困るし、その時にはそれもいいかもな」
「ほ、本当か!?約束だぞ!」
思えばこの時にはすでに、レイクはソティンに追い出される将来を予感していたのかも知れない。
こうして、ふたりの「いつ果たされるかも分からない約束」は結ばれたのだ。
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