02.マジで出て行きやがった!
レイクはリビングを出たその足で自分の部屋に向かい、あらかじめ用意してあった荷物を手に取った。いつもの冒険で使う大きな
背嚢を背負い、トランクを引いてアパートを出ると、そのままレイクは冒険者ギルドへと向かった。
この街、エトルリア連邦北東部にある都市フリウルでも一二を争う大規模冒険者ギルド、〈
酒場兼食堂も併設されている〈隻角の雄牛〉亭は、もう昼の食堂営業が始まっていた。そこへレイクは大きな荷物を抱えて入っていく。入口には三段ほどの小さな階段があるため、そこは頑張ってトランクを抱え上げた。
扉を押して中に入り、食堂スペースには目もくれずにギルドの受付カウンターを目指す。
「あら、いらっしゃい……って何その荷物!?」
「ああ、“雷竜の咆哮”をクビになったから手続きしてくれ」
受付カウンターの中に座っていたのは、馴染みの受付嬢ルーチェだ。
「えぇ……ホントにクビにしたのソティンのやつ」
「まあ近々やるだろうなとは思ってたけど」
「ホントにやるとは思わなかったわ。⸺で、パーティの脱退とソロ手続きよね?」
「ああ。それと部屋も引き払ったから空き部屋に入れてくれ」
「ちょうど二階が一室空いてるから手続きしておくわ」
「助かる。あと」
レイクはそこで言葉を切って、意を決したように告げた。
「ジュノに連絡を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「チクショウ!レイクのやつマジで出て行きやがった!」
レイクを探してメンバー全員の、彼の部屋から他の女性メンバーの部屋まで全部こじ開けて改めた挙げ句に彼の部屋にもう一度飛び込んで、レイクの私物が綺麗サッパリなくなっているのに気付いてソティンは吠えた。
まあマジでもなにも、追い出したのはソティン自身なのだが。だが彼は、追い出されれば行く宛などないレイクが、見捨てないでくれと平身低頭懇願してくると思っていたのだ。それで寛大な心を示して受け入れてやれば、今度こそあの生意気なレイクを黙らせられると思っていたのに。
だというのに、ヤツはとっとと荷物をまとめて本当に出て行きやがった。全くどこまでも、言うことを聞かない生意気なチビめ!
「リーダーぁ?出てったんならもういいじゃないですかぁ」
レイクにクビを宣告した際に見せつけるように侍らせていた、少女探索者イオスが甘えた声で言う。17歳だというがまだ
前々からこの女には目をつけていた。〈隻角の雄牛〉亭の酒場で飲んでいた時に彼女のパーティが揉めて、「ふざけんな、もう解散だ!お前らとなんかやってられるか!」とか何とか騒いでいたから、解散するならウチに入れよ、とソティンから彼女に声をかけたのだ。
「バカお前、アイツが残ってりゃお前は仕事しなくて済むんだぞ」
そう。ソティンはイオスに
イオスにそんな仕事を任せて、この魅惑的な肢体にキズでもついたらどうするんだ。そんなのはあの役立たずに全部やらせればいいのだ。もっとも、レイクができない戦闘時の魔術を用いたサポートだけはやってもらわなくてはならないが。
というかそんな事より、イオスには探索者なんてやらせてる暇はない。彼女には
「あー、そっかぁ。リーダーあったまいい〜」
「おいおい、そんな褒めんなよ」
「じゃ、逃げられないうちに捕まえないとねぇ!カレってばギルドで脱退手続きするはずだから、ギルド行った方がいいわよ!」
「…………あっ、そうか!」
集落からフリウルに出てきて“雷竜の咆哮”を立ち上げて以降、解散も脱退もしたことがなかったソティンは、脱退届を出さなければパーティを抜けられないことをすっかり失念していた。となるとレイクは〈隻角の雄牛〉亭に向かったはずである。
「チックショウ!急がねえと!」
レイクの脱退届が受理されてしまえば、連れ戻すにしても少々面倒なことになる。ギルド預かりなんてことになってしまえば、“魔力なし”を理由に不当に追い出したこともバレてしまう。
そうしてソティンは取るものもとりあえず、慌ただしくギルドへと向かった。
「…………くふふ。リーダーダメですよぉ、プライベートエリアに
ソティンが出て行ってひとりになったイオスが、意味ありげにニヤリと笑う。ちなみに他のパーティメンバー、魔術師フェイルと法術師セーナはどちらも所用で出かけていて、この部屋にはいない。
彼らのうちの誰かが戻ってくるまで、イオスはパーティの根城であるこの部屋でひとりきりで、そして自由だ。
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