山寺の岩 第17話

 和尚はそれらの石像を離れの部屋に並べさせ、これからも今まで通り、この離れの部屋には入らないようにときつく言いつけました。ですから、若い寺坊主たちは物の怪が彫った石像だということを強く信じました。そしてやはりこれを奇妙に思い、度々この離れの部屋を覗きに行ったそうです。

 和尚は毎夜、この離れの部屋に閉じこもり、石像たちに向かって仏道を説きました。其れをみた彼らは和尚の気がおかしくなってしまったのではないかと噂しましたが、このことを除けば和尚は全く普段と変わらずにいたため、しばらく経つと誰もこのことを木にしなくなりました。

 和尚がこちらを去る少し前、彼は後代を呼びつけると、この泥蓮の話を言い伝えたそうです。そして、あの離れの部屋にはお前の後代の他、誰も入れてはならないと言いつけ、後代はそれをずっと守っていたそうです。程なくして、和尚は病にかかり、息を引き取りました。するとひとつ、不思議なことが起こりました。また谷の方からあの音が聞こえ始めたのです。ガーン、ガーンという岩がぶつかり合うようなあの音、泥蓮が岩を彫るあの音です。誰が鳴らしているのか、何がその音を起こしているのか、それを知るものは誰ひとりおりません。しかし、音は今この時も鳴り続けています。


 さて、これが私だけがこの話を知っている理由です。つまるところ、皆さんに件の部屋をお見せすることはできません。しかし、実際にそこにはそれがあるのです。それがこの伝説通りのものなのか、それともただの石像なのか、それは確かめようのないことです。もしかすると、ただの作り話に背びれ尾ひれがついてこんな大層なお話になったのかもしれません。もしかすると、石像も本当は存在することはなく、この話自体が私の大法螺なのかもしれません。これにつきましては皆さんのお好きな方に捉えていただき、お楽しみいただければそれで良いのではないかなと私は思います。




 あの音についての言い伝えはこれでおしまいです。おもしろいと思っていただけたなら冥利に尽きますし、くだらない妄想だというのもそのとおりでございますから、同じ表現になりますが皆様のお好きなようにお考えいただければいいのかなと思います。最後にひとつご忠告いたしますと、どんなに気になったとしても谷に降りようなどと考えられませんように。私も近頃耳が遠くなりまして、助けを求める声が聞こえなくては大変ですからね。

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聶史 @Nabeshima_Goshaku

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