広い海の上で。

夕日ゆうや

金華サバ

 朝、日の出もない時間に漁船は出港する。

 宮城県沖。金華山きんかさんのそば。

 いつもはとれる金華サバを目当てに漁船が集まっていた。

 父ちゃんと一緒に投網でサバを次々ととっていく。

 その様子は豪快で、一切の躊躇いはない。

 他の猟師からは乱獲していると言われていたが、気にした様子もない父。

 そんな姿を見て育ったせいか、ルールは破っていいものと思っていた。

 ふと海鳥が静かになり、波も穏やかになった。

「ん。サバがとれんな? 何かに引っかかっておる」

 父ちゃんがそう漏らし、船底を見やる。

 そこには大きな魚が一匹。

「ほうほうジンベイザメじゃないか。わしが捕まえちょる」

 投網でグイグイと引き合うと、ジンベイザメはゆっくりと浮上してきた。

 周りに漁船はない。魚もいない。空には海鳥一羽いない。

 いつの間にか遠くに見えていた金華山も見えなくなっていた。

 消えていく。

 すべてが消えていく。

 俺と父ちゃんは漁船に乗ったまま、どこか遠くへ行く。

 気がつくとジンベイザメもいない。

 今頃になって気がつく。

 あれがジンベイと。

「なにが起きたんだ?」

 父は寝ぼけたような顔で、周りを見渡す。

 三百六十度、海面である。

 計器も狂っており、自分が今どこにいるかも分からない。

 もしかしたら異世界かも。

「ええい。このままではいけん。はらわた煮えくり返るわい」

 食糧はある。

 捕ってきた金華サバがいっぱい。

 でもいつまで経っても、腐らない。

 父の運転する船は島一つ見えない。


 たった二人。

 この世界から弾かれたような気がした。

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広い海の上で。 夕日ゆうや @PT03wing

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