もっと強い奴。

天皇は俺

もっと強い奴。

ピン球が跳ねる音。

額の汗。

やけに遠く感じる女子たちの歓声。

そのどれもが、俺の内臓をチリチリと焦がしていく。心地良い。

俺、伊藤怜恩は口角を上げながら、冷静に来たボールを返して行く。

ラケットがボールを打つ音が、コンクリートにこだまする。


ここは、闘技場。

コンクリートの床だけの簡素なステージの四方を、人で溢れた観客席が囲んでいる。中華風の飾り付けがなされた観客席は、さながらアテルイが住んだとされる伝説の神殿・首里城だ。


観客席には、老若男女、多種多様な人種が見える。

特に目立つのは、俺の追っかけをしている低俗な女どもだ。

俺の顔がデカデカとプリントされたTシャツを着ているため、嫌でもすぐにわかる。

訳がわからん矯声をあげ、俺の一挙手一投足に頬を赤ている。


馬鹿な女どもだ。

俺の官能的中卓球を見ることで、性ホルモンが過剰に分泌され、即死する女の数は年々増している。

そう、奴らは命懸けで俺のプレイに歓声をあげている。


人の命とは、卓球ボールより軽いのだ。


そんなことはどうでもいい。

今は、目の前の相手に集中だ。


戯れに出場した「卓球日本代表選手決定戦」。

今、俺が戦っている準決勝の相手は、中国拳法を応用した卓球を繰り出す凄腕プレイヤー・遜仲仁だ。


遜は二丁拳銃を駆使した卓球をプレイする。

これは周知の事実だが、中国拳法はアメリカ西部で生み出された護身術。銃火器による強力なスマッシュと正確なコントロールが武器の卓球流派の一つだ。


百聞は一見にしかず。

その実力は見ればわかる。

俺は、試すように遜にスマッシュを打つ。

周囲の風が荒れ、唸るボールが遜の目前に迫る!!


しかし、遜は精密な射撃でこれを破壊。

ボールが悲鳴めいた音を発して破裂。

さらに、もう一方の拳銃を、寸分違わず先程の射撃と同じ方向に発砲した。


実際、これはかなりの頭脳プレイだ。

相手は、俺のスマッシュ後の僅かな硬直を突いたカウンターを狙ったのだ。


ボールの破裂音と発砲音を重ね、飛来する弾丸を破裂したボールの断片に紛れ込ませることで、もう一方の銃を撃ったことを全く相手に悟らせない。 


勝利につながるベストプレー。

相手が俺じゃなければ...の話だが!!!


俺は、冷静な現状把握能力と卓球的瞬間判断能力によって半ば意識的に、そして半ば無意識的に飛来した弾丸を、右手のラケットを垂直に振るって叩き落とした。


正面が凹んだ弾丸が、コンクリートの床に落ち、深くめり込む。


「小細工は尽きたか、遜!!」


俺は興奮に目を見開き、口先を引き攣らせながら、奴の顔を見上げた。


西日に照らされた奴の顔。

辮髪。長い髭と三白眼。

俺の注意はそれらより、口元の僅かな機微に吸い付いた。

笑った...だと!!?


「一人じゃないんだ。」


奴は不気味な口調でそう呟いた。


直感的に、俺は奴の頭上を見上げる。

奴の後方、観客席四階からこちらを覗く、黒光りした銃口を!!

スナイパー!!!!


DANN!!!!

三発目の銃弾が空気を捻り切って、俺の眼前へ一気に迫る!!!!


俺は咄嗟のブリッジでこれを回避!!!!

顎の二センチ上を銃弾が通過!!!!


そのままコンクリートの床に激突し、痛々しい銃痕を作って停止した。


もう0.2秒気付くのが遅かったら、眉間に風穴が空いていただろう。


俺はブリッジの姿勢のまま、短く溜め息を吐き、そのまま後方に回転すると、素早いバク転を3回挟んで、両足で地面に着地した。


「やぁ、らめぇ…っんんん…っ!ああぁっ♡」

「はぁーッ…やめ、あ゛ぁっ♡」

「おかし゛く゛な゛る゛ッッ…♡♡」

「もっとぉ…♡きもひ、ぃッ♡あ゛っ♡♡」


俺のアクロバティックな一連の動きに、観客席の女子たちはそろって喘ぎ、絶頂した。

会場の湿気が上がる。


「今度こそ小細工は尽きたか、遜!!」


俺は衝動と優越感にニヤつきながら、奴の顔を見た。

実際、ここまでの力量差を見せれば相手も怖気付き、失禁するだろう。

そう考えたうえでのニヤつきだった。


しかし、奴の顔は以前として不気味な笑みを湛えたままだった。


「言っただろ。一人じゃないんだ。」


Oh!!!!Look!!!!!!!!

四方の観客席から、30弱の銃口がこっちを向き、一斉に砲撃!!!!


しかし、俺は一切動じなかった。

スケールが僅かに違うだけで、やってることはさっきと一緒だ。


「どうやら、小細工は尽きたみたいだな!!」


俺は、その場で独楽めいて高速回転!!!!

足元のコンクリートがみるみる抉れていき、回転に合わせて竜巻が吹き荒れる!!!!


四方八方から飛来する弾丸!!!!

しかし、俺は回転の勢いをもって、全てラケットで打ち返す!!!!!!!!

強靭!!!!強靭!!!!強靭!!!!


銃声が断末魔に変わり、とんぼ返りしてきた弾丸に喉を貫かれ、スナイパーが死体に変わる。


「はぁーッ…ひっ…!!あっ…♡あぅ…ッもうやだ……っ!!!♡やら゛あぁッ♡♡♡な、なん゛でぇっ!♡あ゛、ぉ…っ!?♡♡やっ…あ゛ァ!!♡♡まッ…ま゛ッて゛え゛ッ♡♡♡キち゛ゃう゛う゛ッ♡♡♡」

「はぁーッ…ああぁっ♡んんん…っ!ひっ…!!やめ、あ゛ぁっ♡おかし゛く゛な゛る゛ッッ…♡♡あ゛ーッ♡とまッでえ゛えぇ…ッ♡♡ふぁ、あ゛あっ♡♡や゛らあぁッ♡♡ひッあ゛ああァッ♡♡♡♡あ゛ッ、んああ゛あぁッ!?♡な゛んれ♡♡イ゛ッて゛る゛のに゛ッ♡♡♡」

「あぅ…ッやぁ、らめぇ…っひっ…!!あっ…♡もうやだ……っ!!!♡やら゛あぁッ♡♡♡ひ…っ!♡やら、あぁッ♡おくッや゛めてぇ!♡ふぁ、あ゛あっ♡♡や゛らあぁッ♡♡ひっ♡♡らめぇええ゛っ♡きっ♡あァ♡き、ち゛ゃうぅ゛う゛ッ!!!!!♡♡♡♡♡」

「んんん…っ!…っ!あぅ…ッああぁっ♡あ゛ーッ♡とまッでえ゛えぇ…ッ♡♡もぉっ♡ぁッ♡きもち、いのい゛ら゛な゛い゛ぃッッ♡♡♡ひっ…!?♡うあ、ぁああっ♡♡んッ、あっ、あんっ♡♡ひっ♡♡らめぇええ゛っ♡きっ♡あァ♡き、ち゛ゃうぅ゛う゛ッ!!!!!♡♡♡♡♡」


女たちは、俺の鮮やかな切り返しに興奮。

絶頂に次ぐ絶頂を繰り返し、過剰な性ホルモンの分泌によって心肺が停止。

恍惚の表情を浮かべながら力尽きていった。


遜の笑みが一気に崩れる。


「ばっ...馬鹿な!!!?」


「お前が馬鹿だよ!!!!楽しい勝負をあんがとな!!!!」


俺は一瞬で遜との間合いをつめると、右手に持っていたラケットを顎から突き刺した。

ナイフめいて遜の顎にラケットが突き刺さると、遜は血反吐を吐き、もがいた。


「グヴゥゥゥゥゥ!!!!!!!!

これで、勝ったと思うなよ!!!!

お前は世界から狙われている!!!!

俺もそうだ!!

刺客の1人として送り込まれた!!!

決勝では"あのお方"が待つ!!

調子に乗るな!!!!

お前の敵は誰でもない、世界なのだ!!!!」


「フ〜ン。世界か。骨がある相手か、俺が確かめてやるよ。お前にはなかったみたいだがな!!」


俺は力を込めてラケットを捩り込む。

遜の眼球、耳、鼻から一斉に血が吹き出す。


ラケットが顎から頭上に貫通!!!!赤いラバーが鮮血と共に頭上から這い出る!!!!


遜はマンドラゴラめいた叫び声をあげると、爆発四散し、無数の肉片となって辺りに転がった。


俺は強い。

俺は強い。

俺は強い。


確かめるように右手を握ると、決勝への期待に体を振るわせた。


ざわめく会場の中、太陽だけがこの惨状を黙して眺めていた。


陽はまだ沈まない。

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