波、乾いてソルト飛ぶ

mimiyaみみや

波、乾いてソルト飛ぶ

 私がシャボン玉を吹くと、お客さんたちはみんなよろこんでそれを食べてる。


 そうえば、こどものころの私のおやつはふだった。


 東京に来て、ローソンで買ったみそ汁にふが入ってて、こうゆう食べ方もあるんだっておもったら、それがふつうだった。わたしはどっかの池で、鯉のエサでふが売ってて、おやつだから、鯉にあげるのはもったいないって思ったけど、鯉にあげてみたらみんな、口パクパクして食べてうれしかった。それを思い出した。


 食べれるシャボン玉らしいから、さっきこっそり食べようとして、上唇で割れてべたべたになった。舐めたけどおいしくなかった。でも、お客さんたちは口パクパクさせて食べてる。西島さんは欲張って、シャボン玉吸い込みすぎて過呼吸でキゼツした。


 おじさんたちは鯉じゃないから、銀歯とか鼻毛とか見えて気持ち悪い。こんなことしたくないけど、私はユウナちゃんみたいに上手く話せないしレアちゃんみたいに可愛くないし、シャボン玉ふくしかお客さん喜ばせられないから、もう死のうと思った。わたしはマーチンのブーツがすごいかわいいと思うから、ずっと履きたい。でも、買った時より今日はちょっと似合わなくなってたし、どっかのおばさんが電車でピカピカのマーチン履いてて全然かわいくなくて、可愛さが残ってるうちに早く死ぬべきと思った。


 赤羽に住み始めた最初は、地元のにおいが全然しなくていいところだなあって思ったけど、一年くらいすんだらもう地元のにおいがしてきた。もっと遠くにいかないとにおいは消えないと思って、パスポートも作った。でも外国で生きていく自信なくて、行かなかった。でも、お金払えば死なせてくれる国があって、そこはちょうどいいと思った。


 池袋でずっと働いてたから、飛行機代払ってもまだ二百万円以上残るし、死ぬのには五百万って書いてあってびっくりしたけど、それは四万円くらいだった。店長から電話きて嫌だったから、スマホも捨てようと思った。でも捨てたらその国の行き方わからなくなるから、行き方調べたやつとその国のホームページみたいなのをスクショして、写真屋さんでプリントしたいって言ったらしてくれた。スマホは電源切って燃えないゴミに捨てた。




 飛行機は二回目だから緊張した。ずっとホームページみたいなのをプリントしたやつを見てた。七時間くらい。それには死ぬためのでかいツボみたいなのの写真があって、テンション上がった。ほんとに遠くにいくんだって思ったら、うれしかった。となりには外人が座っててなにか言ってたけど、「アララララ」てしか聞こえなくて、もはや意味不明だ。


 空港から出て、次は船に乗ってずっと寝てたら起こされた。それはもう降りる時間だった。


 降りたら受付の女のひとに「アララララ」て言われて、ホームページプリントしたやつを見せた。飛行機降りるときもそれみせたらよかったから。でもそしたら困って「アララララ」て言われたけど、何言ってるのか全然わからない。でもわたしもよく何言ってるのか全然わからないって言われるから、大変だ。


「アララララ」

 真似してみたら、諦めたみたいに通してくれた。


 その国は海と土のにおいがした。 

 それは地元のむかつくにおいじゃなくて、いいにおいだった。海の近くだから、魚がいるから、猫の大群が寝てる。魚はいつも骨があるから嫌いだけど、ねこは可愛いから好きだ。


 どっちに行こうとキョロキョロしたら、自転車にのった所ジョージみたいなおじさんが右から走ってきて


「シナ?コレア?ヤパン?」


 声かけられて、


「やぱん。」


 て言った。それはジャパンの間違いだ。「ジテシャタクシ、ヒャク、ウーツ」

 自転車タクシーだった。お金払おうとしたら「ヤパニイエン、ダメ」とどっか連れてかれてお金がぜんぶこの国のお金になって、それはとても多かった。急に、アパート解約してないことを思い出した。

 でも、まあいい。


 所ジョージに死ぬツボの施設の写真見せて、自転車の後ろの荷台に乗せてもらったけど、座布団が結ばれていて、濡れていた。あと自転車のサビがすごかった。ブレーキをかけるとキャーて喜んだみたいな音がしてテンション上がる!


 所ジョージは自転車を漕ぐのが早い。前を見ようと思って顔を出したら砂粒があたって痛い。そしてそれはなめたらしょっぱかった。


「ガト、ウミ、チカイ。ナミ、カワイテ、ソルト、トブ」


 ガトはこの国の名前だ。でも、この国ではこの国をメオと呼ぶとホームページに書いてあった。ガトは差別用語と書いてあったけど所ジョージはガトと言った。


 所ジョージは色黒だけど肌がきれいだった。だから私は痛いの我慢して顔で塩を受け止めた。それはたぶんスクラブみたいなもんだ。


 塩は白いほうがいい。昔ママがピンクの塩を買ってきて、これはパワースポットの塩だから健康にいいとたくさん買ってきた。でもその会社は詐欺だった。ママは泣きながら他の人に謝っていた。だから私はピンクの塩が嫌いだ。所ジョージのパーカーのフードに溜まった塩は白いから、いい塩だ!


 右側が海で、それはゆっくり通り過ぎる。左側が家で、それはすごい速さで通り過ぎる。不思議なことだ。土の道を走っていた。道は土だったけど、自転車のタイヤがブカブカだから、それは乗り心地が悪くない。でも、荷台の座布団が濡れていていたけど、もうなれた。


 家は全部土の壁だった。道と統一感があって、いいと思う。屋根はカラフルでつやつや光っている。地面はところどころ光ってた。それは屋根が割れたやつとか貝とかが踏まれたやつで、おしゃれっぽかった。また猫の大群が溜まっている。この国は本当に猫が多いから、いいところだ!


 海にえんとつみたいのがあって、それが死ぬツボだった。ホームページでみた。海の水が減ったらみんなでそれに入って中で火を炊くらしい。あったかくて、酸素がなくなって、楽にしぬから人道的であると書いてあった。楽なのはいいことだ。あとはツボの蓋を開けて魂が空に行って、体は波で運ばれて海にかえると書かれていたけど、それはまあ、どうでもいい。でも、生まれ変わりませんって書いてあって、それはちょうどよかった。


 そしたら着いて、私は所ジョージにお金を払った。どうせ死ぬから全部あげようとしたら断られた。


「モライスギ、ゼイタク、コレワルイコト。ガトノヒト、ワルコト、キライ、ハタライタブン、ダケ、モラウ」


 私がツボの方に歩くと、ずうずうしいことに所ジョージもついてきた。


「ツウヤク、ロクジュ、ウーツ」


 お金を払った。


 地べたに座って石でオセロみたいなのしてる十四歳くらいの子供たちに声かけると(所ジョージが)、それは管理人らしかった。そういえば、すれ違う人はみんな子供か二十代くらいで、おじさんは所ジョージしかみなかった。おばさんは一回も見ていない。子供がなにか言って、それはテストを受けないと中に入れないと所ジョージが言った。


「イイヒトシカ、ナカニ、ハイレナイノヨ」


 その時だけ、所ジョージは笑ってなくて、お腹痛いかおをした。


 1)あなたは満腹食べない

 2)あなたは怒らない

 3)あなたは自慢しない。

 4)あなたは、悪□言わない

 5)あなたは嘘つかない

 6)あなたは不倫しない

 7)あなたは人のもの盗まない

 8)あなたはお酒飲まない

 9)あなたは暴力しない

 10)あなたは動物を殺さない


 私はいつも読むのがゆっくりだから、テストはチャイムまでに終わらない。でも、はいといいえに丸をつけるだけだから、そんなに待たせなかった。私の書いた紙をみて、こども二人と所ジョージは悲しい顔をした。


「アナタ、イイヒト、アリマセン、ナカ、ハイレナイ」

「マンプクダメ、オコルダメ、ジマンダメ、ワルクチダメ、ウソダメ、オサケダメ」


 そんなこと、知らない!私は動転した。


「アナタ、シュギョウ、ヒツヨウ」


 所ジョージが慰めてくれた。


 所ジョージの自転車で、町の中の方に行った。屋台みたいなのが並んでて、人がいっぱいいた。ものを叩いたり、金属がカチャカチャしたりする音が混ざってガヤガヤした。あ!鳥!って飛んでるの見たら洗濯物だった。それにしても若い人ばっかりで気まづい。


 所ジョージはコーヒーを買ってくれた。それは驚くことに、コーヒー豆を袋に入れて棒で叩いた!おっきい鍋に入れて、煮出してた。お玉でコップにすくって、そしてバターが入った!(おいしい)


 あと芋の串焼きも奢ってくれた。見た目はじゃがいもかなって思ったけど、中がねちょってしててちょっと違う。それにはしょっぱい粉チーズがザラザラしていた(おいしい)あと、ヨーグルトゼリーはうっすら魚の味がした。イチゴジャムとか合うと思う。この国には牛がいるな、と、私は推理した。


 私は魚と砂糖を水で煮込んで、海水入れてまた煮込んで、魚をほぐしたスープみたいなの(おいしい)売ることになった。それはそうしたほうがいいと所ジョージが言ったからだ。ここの店の人がモンクシャ(それはツボから行く天国だ)に行ったから、そこで働くといいよと所ジョージが言った。


 空き家ももらった。お金をはらおうとしたら、「ノー、コレハ、ワタシノ、タメデス。ワタシ、ムカシ、パン、ヌスンダ、ワルイヒト。


 イイヒトナッテ、モウスグ、モンクシャ、イク。ヌスムハ、サンジュネン、シュギョウ。


 アナタ、イパイワルコト、シタ。マンプクサンネン、オコルサンネン、ジマンサンネン、ワルクチゴネン、ウソハチネン、オサケサンジュネン、ゴジュニネン、シュギョウ」


 それはもはや自業自得だ!


「デモダイジョブ、ヒトニシンセツシテ、ワルイコトシナイ、ゴジュニネンデ、モンクシャイケル。アナタ、マダワカイ」


 所ジョージが言うなら、本当だ。




 それから私は一生懸命魚スープを売った。朝運ばれる魚を切って、鍋に入れて、ずっと小骨を取ってる。小骨は早く取らないと、だんだんトロトロしてくるから、それは大変だった。


 でもこの国の人はみんな親切だから、私は言葉もちょっと覚えた。みんな三十歳くらいでモンクシャに行く。所ジョージもすぐに行ってしまった。所ジョージは自転車を私にくれた。


 だから私は魚スープ(ポ・ク)の店と自転車タクシーもしてる。とっても疲れるから、暗くなるとすぐ寝るから、朝早く目が覚める。昔からすると信じられないことだ!


 風が強い日は、塩がいっぱい飛んで、それがチクチクするから大変だ。そういう日は猫たちはどっか行ってしまう。道はずっと一緒だけど、猫はいつも違うかっこうをしてて、自転車で走るのは楽しい。


 あと、牛を育ててるこどもと仲良くなった。(牛がいるってゆう私の推理は当たってた!)そうえばこの前、二人の日本人がきたから通訳もした。それは五十歳くらいの夫婦だ。


「自転車タクシーです。百ウーツ」ていったけど、二人は同時に乗れないから、歩いた。大きい人のときも二人乗りできなくて歩くから、よくあることだ。


 案内はいつもドキドキする。だって、それがいい人かはまだわからないからだ。中に入れなかったら可愛そうでドキドキする。


「いい人しか入れません」というと「パンフレットにかいてあった通りね。テストもこの問題の通りかしら」と奥さんのほうがいった。そしてパンフレットを見せた。


 でも私がテストしたのはずいぶん前だから、今も一緒か分からなくて、困ったら、「無理言ってすいませんねえ」と旦那さんのほうがいった。


「それにしても日本語が上手ですね」と言われて、そんなこと言われたのは初めてだったから嘘だあ!と思ったけど、この二人はツボの中に入れたから本当のことだったのだ!驚くべきことだ!


 そういえば、マーチンはぼろぼろになった。白くこすれたあとがいっぱいついてて、ガピガピしてる。でも、私の足は太くなったし、日焼けして黒くなった私がそれを履くと可愛く見えた。不思議なことだ。


 まあ、まだあと四十七年も修行しないと、いい人にはなれないけど、今は結構毎日楽しい。

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波、乾いてソルト飛ぶ mimiyaみみや @mimiya03

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