新潟県、南魚沼は小千谷地域に伝わっていた怪談(寝物語)
コロン=シャイン
新潟県、南魚沼は小千谷地域に伝わっていた怪談(寝物語)
はい、じゃあ
ひとぉつ、ふたぁつ、みぃっつ、よぉっつ、いつ~つ、むぅっつ~、ななぁつ~、やぁっつ~……
ここのぉ~つぅ~~……
とお。
電気消すよ~……
カチ
--(以上は寝物語直前の様子の回想、ここからテープ起こし開始)
はい、ぇ~~……
--
昔、ある
で、そこへ、まあ大体一週間ずつぐらい交代で、兄、弟、兄、弟と、代わりばんこにそこに一人ずつ住んでは、猟をして、獲物を撃って、それで稼いでいた。
今まで山の奥ぅの方に入った人間が何人か居たんだが、全然、戻ってこない。
山の奥に何か化け物がいるらしいと、皆想像はしていたけれども、なにしろ見た者は居ても皆殺されて戻ってこないわけだから、誰も見た者は居ないので、怖いけれども、どういうのが居るのかということはよくわからなかった。
そこは雪国で、であのぅ~、冬になると、冷たあぁ~~い雪が降って来て、一面に真っ白になって、ずっと冬中、雪だらけになる処なんだが、それでも二人は
--
ある時、兄さんが小屋に泊まる番で、そして、相当程度、獲物を見つけて、それを、あしたはここを出て、弟と泊まるのを交代しようという風に思って、そこへ泊る最後の晩に、ご飯を食べて、そして、さてこれから寝ようか、と思っていたところ……。
その晩の……
山ぁの方の奥から、女の人が歌う声が、はじめ小さぃ声で、だんだん近寄って大きな声になりながら、近寄って来る……
その日は良く晴れていて、だから
(こんな時に、奥の方から、女の人が来るなんておかしいなあ……)
と思いながらも、それを聞いていたところが、
(以下、歌部分は同一。 おおまかな抑揚を記す) (02分58秒経過)
[歌]
〽たかぁ↑いぃ↓ やぁまぁ↑ かぁらぁ↑ (「高い山から」)
〽あいつませ↑ こいつませ↑ どんどんせ↑ どんどんせ↑
という歌で、段々近づいてきて、やがてその女の人の声が、うちの前まで来ると、
トントン
と戸を叩く。
(今頃、こんな女の人が一人で来るなんて、おかしいなあ)
と思いながらも、親切なお兄さんは、鍵を開けて、戸を開いて、そうしたら、小さな小箱を持っていた、若い、美しい女性が入って来て、
「今晩、一晩、泊めて下さい」
と言うんで、
「サァ、じゃぁ、どうぞ、まことに荒れた部屋ですが、どうぞお入りください」
という風に、お兄さんは、その女の人をうちの中に案内して、そうして、ご飯を食べさしてあげたが……
そういう風にしているうちに……
だんだんと その女性が 様子がおかしくなってきて 小箱を床の上へ置いて
遂に化け物の本性を現して お兄さんの方に向かって近づいてくる
お兄さんは、
(しまった。こんな化け物を入れるんじゃなかった)
と思いながらも、必死になって、鉄砲の残った弾を、
どおぅーん
どおぅーん
と、女の身体に命中させてるんだが、全然死なないで……
気の毒に、とうとう最後は、その化け物に殺されて、食べられてしまった…………。
-- (05分40秒 経過)
さて、その翌日、弟が、今日はお兄さんと交代する日だから、というので、下からまた鉄砲や刀、そういった用の用具を持って来て、部屋を鍵で開けて、戸を開けて、中に入ってきたら、なんと
「ええっ、この骨の様子は、これはお兄さんの特徴のある骨だ。これは大変。お兄さんは化け物に食べられてしまったんだナ……」
と気が付いて、非常に危険を感じたけれども、とにかくそれから一週間、吹雪の日なんか外に出られないが、天気がわりと良い日はおもてへ出て、山の中を歩きながら獲物を探して、そういう山の中だから結構色んな動物が居るから、獲物は多い、それを
どおぅーん
どおぅーん
と命中させて、そしてある程度獲物が見つかって、さあ、
その日はやっぱりお月さんが
山の奥の方から
はじめは小さぃ声で、
[歌]
〽高い 山から
〽あいつませ こいつませ どんどんせ どんどんせ
暫く経つとまたもっと近寄って、もっと大きな音で
[歌]
〽高い 山から
〽あいつませ こいつませ どんどんせ どんどんせ
と、近付いて、来る。
遂に自分の
トントン
と戸を叩く。
親切な弟も、親切で戸を開けてやると、若い美しい女性が、
「有難うございます、今日は一晩泊めて下さい」
と言って、中へ入って来た。
それで、一緒に迎えながら、話をして、そうしてご飯などもあげたりしている、うちに──
その 若い女が 持っていた小さな箱を 床の上に置いて 立ち上がって本性を
いやあ大変だっ、と、じりじり後ずさりしながら、
どおぅーん
どおぅーん
と鉄砲を撃って命中させているんだが、全然、化け物は死なない。
遂に、最後の一発だけが残って、さァそれで、
(なんとか、急所に
と、思って撃とうとした時に──
亡くなった、あのお兄さんの懐かしい声が聞こえて来て、
(弟よ、そんな、あの若い女の本性みたいに見えるそれを狙っても、あれは妖怪のただ化けてる姿だけで、全然本性じゃない、本性はあの床に置いてあるあの小箱だ、小箱を狙って撃て)
とお兄さんの声が聞こえてきた。
それで、そちらの方に急に鉄砲を向け直すと
どおぅーん
と小箱を目掛けて、弾を撃った。
途 端 に 、
ぎゃあ~~~~~~~っ
と物凄い、響きが聞こえたと思うともう、鍵かけてある戸をガラッ! と力の限り開けて、外へ、化け物が逃げ出した。
その妖怪が小箱を、急所を撃たれて逃げ出した時に、急に、今まで晴れていた、お月さんが
(んん~~……お兄さんのお蔭で、助けて貰った…… 有難う)
と思いながら、もうとにかく化け物は逃げたんだから、今晩は大丈夫だろうと、それで、すぐ戸を閉めて、鍵を掛けて、その晩は、一晩ぐっすりと、眠った。
-- (12分46秒経過)
翌日、また天気が晴れて、そうして、あちこちに点々と血が垂れた痕が残っている。
それで戸を開けると、雪の上に、赤い血の痕が、点々と山の奥の方へ向かって付いているから、そこでまだ刀もあるし、もう恐らく急所にあてたんだから、もう化け物は向かってくる力はないだろうと、思いながらも、警戒しながら、山の奥へ奥へと入っていって、今まで山の奥ぅの方に入った人間が何人か居たんだが、全然、戻ってこない、そういう山奥の方へ入っていったら──
今まで見たこともない大きな洞窟があって、その前に、尻尾を三本も生やした大きな狐が、急所を撃たれて血を出して死んでいた。
(ああ、これが、悪い化け物になっていたのか)
ということで、それでスコップで穴を開けて、化け物を、大狐をそこへ埋めて、塚を作って、お墓も建てて、これこれの事でこのような化け物を退治しましたと、ちゃんと書いて、そうして、兎に角、化け物であってももう死んでしまったんだからと言う事で、一応
獲物を持って、そしてお兄さんの骨も無論しっかりと箱に包んで、
(これはやっぱり村の墓場にちゃんと埋めなくちゃならない)
と、思いながら、戻って来て……。
さあ、それからは、そんな山の奥の方へ入って行っても、化け物にやられて死ぬような人は無くなって、皆平和に暮らす事ができました、とさ。
--
ということで、おわった(笑)
終わると、その家によって違う文句があって、S〇館だとどういうかはちょっと忘れてしまった、ド忘れしちゃったけど、それで話の終わりということになった。
// 以上、父から聞いた録音の(テープじゃないけど)『テープ起こし』終わり。追補修正済。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これで、もう私がいつ死んでも、この懐かしい物語がこの世から永遠に消滅する惧れが少し減ったかと思うと、少し気楽になりました。
歴史を学んだ人間として、史料を残し得る立場の者として、たった一つの昔話と雖も、これは恐らくほぼ何処にもこれまで記録されていないと思うので、自分の死と共に消失させてしまうとなると責任を感じてしまい、心に引っかかっていたので。
まあ、類話は多数あると思うので、それほど責任は感じてませんでしたが、念の為というものです。
(追記:歌い方について 27th/Jul/2023)
あいつませ迄はずっと同じような細い感じで歌ってくる。
「こいつませ」からは、声量・強勢ともに、句毎に段々迫って来る感じ。
特に「どんどんせ」に入ってからはやや脅かすような感じで。
あいつませが小・細とすれば、こいつませは普通、どんどんせ1で迫りだし脅かし始め、続くどんどんせ2が愈々脅威が剥き出しになる感じ。
(話者によって異なるが、父を真似た兄の場合、漫画みたいに派手に「どんどんせっ!」とやるのが、過剰演出で逆に怖さが薄れる…… やはり父のように、いかにも雪国の人間らしく、辛抱強く、控えめに、抑制してやるのが良かったと覚えている)
新潟県、南魚沼は小千谷地域に伝わっていた怪談(寝物語) コロン=シャイン @colon-shine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます