最終話 あさがくる❤
ツキミちゃんが、深々とお辞儀をした。
「それでは、
正門側の玄関口にいる私は、つられてお辞儀をし返す。
「あ、ども……ってすぐ外、正門の前で待ってるけど? 三人一緒って約束したし」
「察してやれククリ。お嬢は
私の隣にいるナツメが、小声でお小言をいいつつ私を睨んだ。空気を読めと顔に書いてある。
ツキミちゃんは頭を上げると、にっこりと笑う。
「ちょっと待ってて。すぐ終わらせるから」
ツキミちゃんは、とてとてと元気いっぱいに
「ボクのお役目だからって、帰り支度も手伝わせてくれないしさー。責任感あるっていうか、ツキミちゃんは、本当にいい調娘さんだよねー」
「いい調娘というべきなのかニャニャミャイにはわからぬが、まあ、図抜けたお人好しの変わり種であるのは間違いないな。マヨイ殿も大変だ」
うーん……そのツキミちゃんに関してなのだが……。
ナツメもツキミちゃんも、もはや三人一緒に
これ、不思議に思ってるのは私だけなんだろうか?
「でもさ、ツキミちゃん。迷家から出て
「ふむ。それだがな……『迷家を
お嬢の話から察するに、調娘がちゃんとした手順で正門を抜ければ、迷家はリピートモードとでも言うべきものに切り替わるようだ」
「リピートモード?」
首を傾げる私に、ナツメは説明を続けた。
「結界が形成されている状態を繰り返しループし続ける。調娘が再び
調娘の存在が、迷家が
なるほど。常夜は繰り返す世界だから、結界が張られている状態が繰り返させ続けることが出来る――ということなのか。
「よって……今回の場合、迷家が
その緊急事態を素早く収めるために、丁度その場にいた能力の高い
やっぱ
迷家が迷家になるには調娘が必要。そして、迷家がなければ調娘といえどただの人。
ニチアサ風に言うならば、ふたりはマヨヒガ的な?
「ふーん。でもそれって、迷家は
ナツメは、感心したように私を見た。ナツメの目がキラキラと輝き出す。
「ふむ……ククリは時々、本当に面白いことを言うな。ただそれを言うなら
早口でまくし立て始める。
「記紀によれば、
ナツメははっとした表情を浮かべる。
また我を失いかけ話が大きく逸れていっていることに気づき、慌てて平静を取り繕いつつ、話を戻す。
うん、かわいい。
「まあそんなわけで、調娘が裏門から常夜側に入ってしまうことを禁じていたわけだな。調娘は
そんな話をしながら、私達は迷家の屋敷の玄関から外に出ようとした。すると……。
「稀人様……」
突然、天から声が聞こえた。中性的で少しハスキー。セクシーなヅカボイス。ツキミちゃんのお姉ちゃん、ユヅキと同じ声。
つまり、マヨイちゃんの声だ。
そして何よりこの声は――私を天神様の細道に導いてくれた声である。
「もしかしてマヨイちゃん? マヨイちゃんって、ツキミちゃんがいなくても話すことあるんだ」
「通常は話しません。ですが、これだけはどうしても言わせていただきたく」
「な、何? かな?」
私は、思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。
「時に、前進は痛みを、停滞は安らぎを生みます。マヨイが活動を初めて千年。その長き年月の中で、たとえ自分がどう見られようとも進み続けようとしたあなたは……」
マヨイちゃんは、一呼吸置いてその言葉を噛みしめるようにして言う。
「まぎれもなく、最高の冒険者でした」
「うん。……私を呼んでくれて、ありがとね」
屋敷の玄関から外に出て、思わず目を細める。
外はもうすっかり日が昇っており、朝日が目に眩しい。ずっと暗い場所にいたために、周囲の景色が一変して見えた。
太陽に祝福されているように、大地は明るさを取り戻している。
木々や建物――風景が日の光で照らし出され、新しい一日の始まりを告げている。
気持ちのいい朝だった。私は、うーんと伸びをした。
「うーん……もう完全に朝だね」
ナツメにそう呼びかけたが、返事がない。
「ナツメ?」
「ああ……朝だ。朝だな。本当に……夜明けが、来た」
ナツメは、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、朝日を見つめていた。
私はなんだか見てはいけないものを見てしまった気がして、そっと視線をナツメからそらした。
「ククリィ……ありがとう」
「こちらこそ。何度も助けてくれてありがとね。相棒」
帰り支度を終えて玄関から出てきたツキミちゃんが、手を振りながらこっちに走って来る。
そして、正門の
おめでとう。ダンジョン、クリアである。
令和の時代の、往きて還りし物語。
大冒険、できたかな?
――あとがき――
最後までお読み頂き本当に、本当にありがとうございました。
当初の予定を大幅に超過し、13万字を大きく越える長さになってしまいました。
それにもかかわらず、最後までお付き合いくださった方には、到底感謝の言葉を伝えきれるものではありません。
途中、書き続けるのが苦しく感じる時期もあり、何度か挫折しかけましたが、皆様の暖かいお言葉のおかげで、書きたかったことを最後まで書き切ることが出来ました。
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ギャル☆ネコ☆ダンジョン~猫も杓子も❤恋せよ乙女~ 音々🎵 @otooto
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