第2話 赤獅子の宝石獣

突如訳が分からないまま異世界の宮殿に召喚された宝石商…もといコソ泥の藤原ノ貞春。


「勇者?何だそりゃ??」


貞春も彼女の目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。


「ゆ、勇者様!!」


ジャンヌは頬を赤くし立ち上がると貞春も立ち上がり腕を組む。


「だから勇者って何だよ?」


「貴方はこの世界を魔族より救う為に私達が召喚した強いマナを持つ魔族を狩る者故に世界の救世主、勇者様です!!」


熱弁するジャンヌに貞春は…


「ぷ、ぷははは!」


腹を抱えて大笑いした。

貞春の態度に呆気に取られるジャンヌ達。


「俺が救世主?馬鹿を言うなよお嬢ちゃん!俺はしがない宝石商人だぜ」


一様な!


「宝石商人??」


「知らないのか?宝を探して売り捌く仕事さ!」


「貴方はトレジャーハンターなんですね!」


「トレジゃ?はんた?」


貞春はちんぷんかんだ。

平安時代にそんなカタカナ言葉がある訳がない。


「宝石を探すハンターの事ですわ」


「へぇ、此処にも居るのか?宝石商人?」


「はい、それは行きのいい宝石獣を探す凄腕揃いです!」


「は?」


今何て言った?宝石獣??

またまた分からない言葉が飛び交う。


「あのさ、俺今の状況からして全く頭が追いつかないんだよ。悪いけど一から話しと何か食いもんない?」


図々しくも食べ物をどさくさに頼む貞春。


「はあ?」



とりあえず腹が減った貞春は宮殿の食堂で見た事もないご馳走に食い掛かっていた。

しかも意地汚い…


「うめぇな、これ!あんむ。おかわり!」


貞春は上品のかけらも無い本当に汚い食べっぷりだ。


「姫様、本当に彼が世界の勇者なのですか?」


「うーん…私も急に心配になってきたわ…」


目の前で意地汚く食べまくる奇妙な服の男なんて胡散臭い以外の何者でもないからだ。


「んべ?んぐ。俺が呼ばれた理由は何なんだよ?ていうかどうやって呼んだ?」


「あ、はい。先程も話しましたがこの世界は魔族の攻撃を受けています」


「魔族?」


「魔族とは我々人間以外の種族のひとつであり最も人間に害を齎す野蛮な蛮族どもですよ。貴方の様に品が全く無いのと同じです」


「ちょっとジル!」


「私は本当の事を申しただけにすぎません、ジャンヌの様に優しくはありませんから」


「御免なさい。彼はジルドレイ。私達ガネット解放軍の一員で優秀な発明家なのよ!」


「ふーん。芋っ鼻。お前凄いんだな!」


「誰が芋っ鼻かっ!無礼者が!」


芋みたいな大きい鼻をした若者はジルドレイ。ジャンヌの仲間であり魔術と更に発明を得意としている優秀な軍師だ。

そして後に問題を起こすジルド教の教祖である。それはまた別の未来での話しである。


「ジルドレイ!」


「私はこの男は好きません!」


「全く…と言う訳で魔族に脅かされていて私達の世界は今滅亡の危機なんです」


「滅亡って物騒な話だな」


「はい。だから勇者様にこの世界を救って頂きたいのです」


「ぶっ!げほ、げほ!」


貞春は咳き込んで咽せた。


「うわ、汚い!!」


「勇者様ったら!」


「まさか俺に世界を救えと言うのか?まさかその為に俺を呼んだのか?」


「はい」


「ご馳走様でした!でわ失礼します!」


貞春はハヤテの如く逃げ出した。



「え…」


「に、逃げ出した…」


「ちょっ!待ちなさーい!!」


ジャンヌ達も慌てて追いかけて行く。


冗談じゃねぇよ!!何が世界を救えだ。俺はしがない宝石商人だっつーの!!


逃げ出した貞春は走りながら周りにある装飾品を手当たり次第手に取り葛篭に仕舞い込む。


「ん?」


その途中で何かに呼ばれた気がして廊下の角の扉を見つけると中に入った。この部屋から何かに呼ばれた様な気がしたのだ。


「この部屋は?宝物庫か!?やりい!」


中には色んな装飾品が飾られていた。

その中にツヤツヤな黒い石の塊で出来た石剣を見つけた。


「ん?何だこの石の剣は?値打ちが無さそうだな。ま、いいや珍しいし貰っちまえ!」


貞春は石剣を腰に携えて葛篭にいれられるだけ宝を入れて扉を出て出口へ向かう。



「もう!何処へ行ったのよ!!」


「とっくに逃げたんじゃ?」


「いえ彼はまだこの世界に来たばかりだから右も左も判らない筈よ迂闊に外には出られない筈よ。とにかく探すのよ!!」


ジャンヌはそう言うが貞春はそんな奴じゃない。


「いたぞ!装飾品を沢山持って出口へ向かってるぞー!」


「な、何ですって!!」


「ぷぷぷ。アレは泥棒だったみたいだね!」


ゴチン!とジルドレイの頭を殴るジャンヌ。


「ううう…」


腫れ上がったたんこぶに痛がる。


「呑気な事言ってんじゃないわよ!追いかけて!!」


「は、はい!」


ジルドレイ達は急いで向かう。


「さてとさっさとこ御さらばよ!」


貞春は蹴りで扉を開けると外へ飛び出し停めていた馬を見つけると乗り込み手綱を上手く使い宮殿の外へ走らせた。


「こ、こら待ちなさーい!」


ようやく追いついたジャンヌ達は間に合わず貞春は馬を奪い宮殿の外の原っぱに出てしまった後だった。


「逃げられた!!」


「いえ…逃がさないわよ…絶対に!!」


ジャンヌは怒り狂う。

ジャンヌは空間の裂け目から持ち手に宝石がついた杖を取り出した。


「じゃ、ジャンヌまさか!!」


「我、ジャンヌ・フォワ・ガネット一世が命ずる、呼びかけに答え我の前に姿を現したまえ!秘儀「聖獣召喚の術」!現れよ猛き紅き獅子の宝石獣…」


ジャンヌが詠唱を唱えると宮殿の玄関前に魔法陣が現れるそこから炎が吹き出す。


「レオンハート!!」


吹き出した炎から真っ赤に輝く宝石で出来た巨大なライオンの魔物が現れると雄叫びを上げた。


希少宝石獣レオンハート

ベルギーブルーガネットの身体を持つ希少宝石獣と呼ばれる最も強い宝石獣の1体である。


「何の用だジャンヌ?」


「レオンハート。召喚した勇者が逃げたわ!追いかけて!」


「はあ?そんな理由で私を呼んだのか?」


「私の尊厳に関わるのよ!いいから追いかけなさい!」


「わ、わかったよ…」


レオンハートはジャンヌを背に乗せ中にいれるとプリズムで出来た空間の中央にある水晶に手を翳し宝石獣を操る。


「行くのよ!」


レオンハートは雄叫びを上げながら貞春を追いかけた。






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スーツアクターだった俺が異世界で戦隊初めました!外伝 平安時代宝石商彼の地にて奇妙な冒険伝 桐生連 @yusuke0907

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