近寄ってはいけないよ。

村崎愁

第1話 手

心霊スポットとして有名な古びた小汚い、ビルの廃墟がある。


藤本と大学の先輩の大谷は男二人でそこに向かっている。

明日は合同コンパがある。面白いネタがあればと大谷が提案してきたのだ。

正直怖いものは嫌いだし、乗り気ではなかったがコンパは成功させたい。

「フジ、着いたぞ。何かあるとええな」大谷は心躍らせ車を廃墟の前に止めた。

そこにいるだけで鳥肌が立つ。

噂には聞いていたが、小さなビルにしては迫力がある。

「先輩、先歩いてくだいね」と車から降り立つと藤本はすぐに、まるでか弱い女子のように大谷の背中に隠れた。

ビルに入ると、もう何人もが過去に訪れたようで、スプレーでドアや壁に落書きや物を荒らした痕跡があった。

一つ一つの部屋に入り、懐中電灯で照らし確認していく。


鍵がこじ開けられた一つの部屋があり、覗くと幾分新しくそこまでは荒らされてはいない様だった。

中に入ると長年開けられていないのか、かび臭く埃っぽい。

「ここは穴場かもしれへんぞ」大谷は息を荒くし隅々まで見た。

大谷は暗さからよろめき足を取られ、そこにある物に手を着いたが、それも脆く崩れ倒れた。

起き上がり懐中電灯で、その崩れたものを見ると倒れた位牌と遺骨がある。


「これはあかん。すみませんでした。フジ、帰るぞ」大谷は手を合わせ、急ぎ車に向かった。


藤本は青ざめて運転をする大谷の腕に赤い物が見え、「先輩怪我しました?」と聞くと大谷は自分の腕を見て小さく悲鳴をあげる。


腕には赤く、大人の男の大きさと見られる手形が大谷の腕をしっかりと掴んでいた。

合同コンパは藤本と大谷に、何故か熱が出たため中止となった。


熱で朦朧もうろうとしながら線香と花を持ち、手を合わせに再びビルヘ向かうと不可解な症状は徐々に消えていった。


あれは一体何だったのだろうか。もしかするとのかもしれない。


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近寄ってはいけないよ。 村崎愁 @shumurasaki

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