第2話
二人が教室に入ると、もう既に教室中が賑わっていた。グループごとに固まって、やれ小テストの勉強がどうだ、やれ今日の体育がどうだと盛り上がっている。
玲音はそのグループの中の一つに声をかけた。
「よーっす」
玲音が声をかけると、四人のうちの三人が振り向いた。一人は振り返ることも無く、足を組んでスマホを弄っている。玲音はニヤニヤと笑って、その一人の肩に手をかけた。
「あきにゃー、おはよ。従兄弟に冷たくないですかあ?振り向いてくれてもいいと思うんですけどお」
あきにゃーと呼ばれた男は、嫌そうな顔をして玲音を睨んだ。
「うっぜえ。んだよ、近寄ってくんなボケ」
「無理無理一人とか寂しくて俺死んじゃう!」
えーん、と玲音は泣き真似をして見せた。後藤は怪訝そうに玲音を睨む。
「あ?知らねえよ。いつものチビ連れてろや」
「なんだ?嫉妬か?らんらんはあげないぞ?」
「いらねえ」
「あ、いるのは俺の方?ごめんなそういう趣味は」
「ねえよ!」
声を荒らげた後藤に、ケラケラと玲音は笑った。それを見ていた三人は、やれやれと言わんばかりにため息をつく。
「毎日毎日……飽きないな、お前ら」
そういったのは、
「喧嘩するほど仲がいいってやつだね、ボーイズ」
ふっ、と長めの髪を耳にかけながら言うのは、
「須藤くんのメンタルがアルマジロなみなだけな気ぃするけどなぁ……」
関西訛りでボヤいたのは、中村冬真(なかむらとうま)だ。一年前越して来たのだと話す中村の訛りは未だ抜けず、とはいえ特にそのことを指摘されることも無く学生生活を謳歌している。
文芸部所属で、個性的な比喩表現を好む傾向がある。
「どうも、銃弾をも跳ね返せるメンタルで生きてます」
なお、その比喩表現を拾えるのは玲音くらいのものであるが。
「鬱陶しいの極みかよ。さっさとあっちいって彼女に乳でも揉ませてもらっとけ」
「その表現はどうかと思うよ、セニョール後藤?」
「あーうっせうっせ。知るかよ。俺はお前らとつるむ気なんかねえっつうの!」
後藤はしっしっ、と手を払った。そんな中、足音が彼らに近づく。
「あら、構ってもらってる身でなんと不敬なことを仰るのでしょう。有り得なくってよ!ねえ?星蘭さん」
そこに現れたのは、長い黒髪をストレートに下ろした、猫目の美少女、
玲音は一之瀬を見上げて、ひらりと片手を上げた。
「おーっす。れいにゃ今日も美人だな」
「あら、ありがとう。その呼び方やめてくださる?」
「あ、その髪留め初めて見たかも。可愛いなそれ」
「え?あ……ありがとう?」
一之瀬は頬を赤く染めた。星蘭は一之瀬の顔を見上げながら、あ、とポケットをがさごそ漁る。中から出てきたのは、キャラメルの箱だった。
「あげる〜」
星蘭はキャラメルを五つ取り出して、玲音に手渡した。
「甘かった?」
「んーとね、レオが好きそうな味してたぁ」
「甘かったんだな。なっちゃんは甘いもの苦手だったよな。杜子春ととまきゅんは甘いもの好きだっけ?」
「それなりに食べるよ」
「甘味は疲れた脳にいっちゃんええからねえ」
じゃあはい、と玲音は東条と中村にキャラメルを渡した。そして後藤の頭にちょん、と乗せる。
「乗せんな」
「あきにゃー甘いもの好き?」
「フツー」
「え、これ何味?蘭」
「ちょこれーときゃらめる〜」
「じゃああきにゃー好きだよ。ほれ」
玲音はキャラメルを明那に無理やり持たせた。明那は目線だけ逸らして、キャラメルを受け取る。
「珍しいな、スズランがこういうの買うの」
「んー?おねーちゃんがレオと食べな〜?ってくれたの〜。あと朱里さんとぉ、真凜さんとぉ、小暮姉妹に渡したらかんりょー!」
「俺とってくれたのにみんなに配ってんのな」
「はっ……!たしかに!」
星蘭はばっと手を口の前にかざして、目を丸くする。玲音と一之瀬は、思わず宙を見た。相澤は二人を冷めた目で見つめる。
「かわいい……!」
「わかる……俺の幼馴染み超可愛い……」
「お前ら鈴野の限界オタク過ぎないか?」
星蘭はきょとんとして首を傾げた。
後藤はきしょ、と吐き捨てる。
「なんだよ。お前らだって道端でりす見かけたら可愛いってなるだろ!」
「道端でりすなんか見かけたことねえよ」
「エスパニャーダでりす見かけたことないのか!?」
「なんで行ったことある前提なんだよ。ねえよ」
淡々と返す相澤に、玲音が目を伏せた。え、と軽く動揺を見せる相澤に、玲音は口を開く。
「あきにゃーの勢いのあるツッコミがほしい……」
「「しるかよ」」
君の隣で笑わせて 干月 @conanodo
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