君の隣で笑わせて
干月
第1話
「スズランちゃーん」
ご機嫌な
星蘭は髪とスカートをなびかせて、微かに首を傾げる。顔立ちの整った星蘭の姿は、芸能人ですと言われても不思議ではないほどに整っている。
玲音は星蘭を見つめて、眩しいほどの笑みを浮かべた。八重歯がちらりと見え、童顔だと形容されがちな顔は、余計に幼さを増しているように見える。
「おはよ、今日も美人だな」
玲音がそう告げると、星蘭は静かに微笑みを湛えた。
「おはよぉ、レオもかっこいいねぇ」
星蘭はのんびりとした口調で返した。玲音はありがとう、と明るく返す。
いかにも付き合いたてのカップルらしい会話だ。
もっとも、付き合っている訳ではなく、ただの幼馴染兼親友に他ならないのだが。
星蘭と玲音は生まれた日が二日違いで、二人の母親同士がもとより親しい友人だった。結果、家族ぐるみの仲として、十六年共に過ごしてきたのである。
玲音がこうして星蘭の容姿を褒め始めたのは、玲音が三歳になって少しした頃のことである。当時星蘭は「美人」の意味を理解しておらず首を傾げていたが、日が経つに連れこうした会話がテンプレート化していった。そのテンプレート化された会話が、今の今までも続いているのである。
「レオ、宿題やったぁ?」
星蘭は欠伸を零しながら、そう玲音に尋ねた。挨拶をした後に、なんてことの無い世間話に移るのはいつもの事だった。
「やったけど、なに?忘れた?」
「む……なんですぐそういう風に解釈するかなあ、レオは。僕、そこまで不真面目じゃないよぉ」
星蘭はぷく、とわざとらしく頬を膨らませて見せた。玲音は星蘭の頬をつついて、へこませては指を離しを繰り返している。星蘭はその動きに合わせて、口内の空気を左右させた。玲音は鼻で笑って、星蘭の鼻をつまむ。
「んぶっ」
「スズランは割と不真面目だろ〜」
「ぷっちーん」
「プリン」
「ゼリーがいい!」
玲音は星蘭の脊髄反射でしているであろう反応に、肩をふるわせた。そういうところだぞ、という言葉は飲み込んでしまう。
「結局やったの?」
「やったよぉ。偉いでしょ?褒めて褒めて〜!」
「おーえらいえらい」
「えっへん!ご褒美は紅茶でいいよぉ」
星蘭は両手を腰に当てて、ドヤ顔をした。玲音は欠伸をしながら、星蘭の頭を撫でる。星蘭はぎゅっと目を閉じて、嬉しそうに笑った。
「はい、ごほーび」
「えへ、わぁい!」
「……我が幼馴染ながらチョロくないすか、スズランちゃん」
これでいいのか、と玲音は呆れ顔を見せた。星蘭は満足気に、大人しく撫でられている。
「知らない人に頭撫でられてもついてっちゃダメだよー」
「ついてかないよぉ。僕のこと幼稚園児か何かだと思ってるでしょ」
「思ってる」
「がーん。即答ですかぁ……?」
星蘭は肩を落とした。玲音は星蘭の髪を梳きながら、ごめんごめん、と軽い調子で告げた。
「そこまでアホだとは思ってないって。スポーツという面においてだけは頭いいし」
「だけが余計だよぉ!確かにテストの点数は低いけど!でも欠点とったこと今のとこないもん!」
「それは本当に偉い」
「でしょぉ?」
星蘭はふふん、と自慢げに笑った。
偉いと言っただけでころっと機嫌を直してしまうところがまさにアホっぽい、のだが、玲音は敢えてそれは言わないでおいた。
「そんな偉いスズランちゃんは今日の小テの勉強はしてきたんでしょうね?」
「英単語はしたよぉ」
「……古文単語は?」
「んー?」
星蘭は首を傾げて見せた。玲音は呆れ顔で、ため息を着く。
「まぁ、スポーツ選手になるなら古文なんていらないだろうけどさ」
「古典学者にならない限り古文なんて使わないよぉ」
「いやいや、歴史学でも神学でも魔法学でも使う」
「どのみち僕は使わないもーん」
「そんなんじゃ大好きなれいにゃに怒られるぞ。れいにゃ古典好きだろ」
「それは困る!」
あわわ、と星蘭は焦りを見せた。れいかっち、とは、星蘭と仲のいい、二人のクラスメイト、藤堂麗奈の愛称である。もっとも、玲音しかそう呼んでいないのだが。
「麗奈さん怒ると怖いからなぁ……」
星蘭はんー、と唸り声を上げた。いや、れいにゃはれいにゃでスズランのこと好きだから別に怒られないとは思うけど、と、玲音が心のうちで付け足す。
「スズランまださん付けしてんの?」
「ん?だめ?」
「ダメじゃないけど、距離あるように見える」
「……レオが近すぎなだけじゃないかなぁ?」
玲音は、知り合いの大半をあだ名呼びしていた。クラスメイトにもご丁寧に全員にあだ名をつけている。童顔とはいえ顔は整っている方にはいるので許されているが、そうでなければ間違いなく浮きそうでもある。
「距離は近くてなんぼだろ」
「レオってざ、たらしみたいな感じなのに彼女いないよねぇ。作らないの?」
「俺にはスズランがいるから」
「精霊ちゃんがうるさいって」
「辛辣」
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