『通りゃんせ』に潜む、やるせなさや救い。ちょっとした神秘を感じる物語

 題名の通り、本作はわらべうたとして知りとぞ知る『通りゃんせ』を題材とした作品。様々な地方の方言が入り乱れていてどこで生まれたのか不明だったり、そもそも歌がいつできたのかも諸説あるという…。そんな謎だらけの『通りゃんせ』を独自の解釈のもと掌編としてまとめ上げたものです。

 登場するのは母と娘。ある日、鳥居の前にやってきた2人は鬼の面を被った男と相対する。彼は言った。『贄をこちらに』と─。

 物語全体を包む、重く薄暗い雰囲気。ですが、ホラーのような気味の悪いものではありません。どこか救いようのない、退廃的な、と言いましょうか…。とにかく、やるせなさをかんじるさくひんでした。少なくとも「怖い!」というものではないので、ホラーやオカルトが苦手な方でも読みやすいかと思います。

 そんな薄暗い世界観であるが故に、親子の間にある絆が放つ、かすかな光と温かみのようなものが強く感じられた気がします。これ以上はネタバレになるので言えませんが、読めばきっと、本作の中できらりと光る“救い”を感じで頂けるのではないでしょうか…? また、ちょっとした神秘性も描かれていて、物語にアクセントを加えてくれていました。

 使われている単語も時代設定を意識したものになっていて、通りゃんせの歌が持つどこか暗い空気感と良く合っている。おかげで、さっと本作の世界に入り込むことが出来ました。

 そうして深く読み込めるからこそ、読み終わったあとに感じる余韻には考えさせられるものがあって「こういう解釈もあるのか…」と深い後味のある作品だった印象です。また1つ、通りゃんせの可能性を見た気がしました。

 暗く重い、救いようのないように見える出来事に落ちる、温かな救い。掌編なので空き時間に読みやすいですし、通りゃんせを始めとするわらべうたにはつきもののゾクッとするようなホラー要素もない。どんな人でも読みやすい作品だと思います。

 ちょっとした空き時間に。わらべうた『通りゃんせ』に潜む、数ある物語の1つである本作を覗いてみませんか…?

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