第7話 C級ダンジョン―日陰の静寂―


 先日、はれてC級冒険者に成った俺は初のC級依頼を受ける為、珍しく朝早くからギルドにやって来た。

 普段はほどほどに日が昇ってギルドが混んでいない時間に依頼を受けるのだが、C級依頼からは基本的に依頼が掲示板に張り出される様になる為、こうして朝早くからギルドに足を運んだ。


「……これ、俺が入る余地ないな。」


 掲示板前には、少しでも良い依頼を受けようと冒険者と言う欲に素直な存在の群れが出来ている。依頼を見ようと近づくと、群れに飲み込まれる事に成るだろう。……ステータスに物を言わせれば見る事もできるだろうが、それで怪我させるのも嫌だし。


 ここは大人しく、もう少し人が減るのを待つとしよう。


「―あん? ケイトじゃねえか!朝に来るなんて珍しいじゃねえか!」

「お、ナゴスさん……って、朝から酒かよ。」

「はんっ、朝の酒は酒じゃねえ、調子が良くなる魔法の水だ!冒険者の朝はこれがないと始まらねぇのさ!」

「それ酔ってるだけだろ」


 適当に何か軽くつまみながら待とうと思い奥の酒場に行くと、知り合いの冒険者であるナゴスさんに手招きされ、同じテーブルに座る。……テーブルの上に詰まれたジョッキが、ナゴスさんの酒好き度を表している。


 俺と同じC級冒険者でファス支部一番の酒豪、ナゴスさん。エール酒みたいな薄い金髪で、少し強面の筋肉剣士。

 ララリ狙いの冒険者と酒飲み勝負をしてた時に乱入してきて、勝負していた相手の冒険者共々ナゴスさんに酔い潰された。それ以降、偶に酒を飲む仲だ。


「にしても、お前が朝からいる何て珍しい事もあるもんだ。んぐっ」

「俺もC級に成ったからな。E級みたいに全ての依頼が恒常依頼って訳じゃないし、掲示板戦争に参加して良い依頼を受けようと思って来たんだが……結果はご覧の通り。」

「ははっ!初めての掲示板戦争はどいつもそんなもんだ! C級になり立てのやつは大体があの群れを見て酒場に避難してくる。そして、そんなルーキーを見ながら酒を飲むのが俺の日常よ!んぐっ……ぷはぁ!」

「うっわ、幼気な初心者を肴に酒飲んでるよ、このオヤジ。」

「ハハハっ!…………いや待て、お前C級に成ったのかっ!?」


 少し遅れて反応が帰ってくる。やっぱり少し酔ってんな、このオヤジ。

 

「いやまぁ、お前の実力を考えれば妥当か。んぐっ……強さだけで言うならB級はあるもんなぁ。おめでとう、これでお前も一人前だな!……よし!昇級祝いに良い情報を教えてやるよ。―ねえちゃん、エールおかわり!」

「ありがとう。……良い情報?―あ、俺は果実水とつまめるもんでおねがいします」

「ああ、とびっきりのネタが最近入ってな。」


 内密の話なのか、対面で飲んでいたナゴスが横に席を移し肩を寄せる。


「これは昨日入ってきたばかりの情報なんだがな?実は―」



――ファスの近くに新しくC級ダンジョンができたんだ。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽



「――ここが、ナゴスさんが言っていたダンジョンか。」


―C級ダンジョン¨日陰の静寂¨


 ギルド調査隊にそう名付けられたダンジョンは、木々と霧に囲まれて薄暗く陰湿な雰囲気を纏っていた。

 広さはそこまででは無いが、所々に木々が生え茂っている。何の目印も無く奥に進むと簡単に迷うだろう。


「来てくれ、¨マルトロス¨、¨メルトロス¨、¨かぐや¨」

 

 今回は万全を期すため、我らのとっておきであり、要であるかぐやも召喚しておく。


「今回は頼むぞ、かぐや。」

「ええ、私が居る限り死はありえません。経験になるので、重症までは治しませんが。」

「……相変わらず、スパルタだな。けど、怪我する事は少ないと思うぞ? 何て言ったって、守りに関しては頼もしい仲間がいるからな。」


「―ウォンっ!」

 

 中型犬からかなり大きくなった大型犬まで成長し、その体に二対の盾を装備して凛々しくなったマルトロスが、俺の言葉に応える様に吠える。

 

「それに、メルトロスだって強くなったんだ。B級上位のモンスターでも無い限り、俺達が死にそうになる事はないだろ。」

「ワフ!」

「……まあ、それもそうですね。しかし、油断はしないように。」

「分かってるよ。じゃ、行くか!」


 マルトロスを先頭に、メルトロス、俺とかぐやと言った順番でダンジョンを進んで行く。


 時々木々が視界の邪魔をするが、そこまで気にするものではない。どちらかと言うと、霧の方が厄介だ。俺達は召喚術のお陰で主と配下の位置が分かるが、方角は分からない。

 一様、魔道具で帰り道を変わる様にしてるが、これもどこまで持つかどうか。念の為、かぐやに道を覚えて貰っている。……かぐやが有能すぎる。


『グルぅ!』


 マルトロスから停止の合図が送られる。姿勢を低くして、マルトロスの横に並ぶ。

 前を見てみると少し開けた場所があり、そこで二体のモンスターが居た。


「ガルぅ……」

「カアァっ!」


「……¨リトルタイガー¨に¨ブラッククロウ¨か」

 

 マルトロスより少し小さな体に、額に小さな角が生えた虎の様なモンスター、リトルタイガー。

 少し大きくスラっとした体に、夜の様な黒い羽のカラスの様なモンスター、ブラッククロウ。


 その二体が、お互いに唸りながら睨み合っている。


――――――――――――――――

『リトルタイガー』 1歳 オス 種族:リトルタイガー

クラス:『魔小虎』

スキルポイント:0

レベル:23 

HP:158/158

MP:223/223

筋力:169

耐久:134

俊敏:216

魔力:207

幸運:80

スキル:『風魔法:C級』『雷魔法:C級』『魔法強化:C級』『虎爪術:B級』『悪路走破:D級』

祝福:

称号:

――――――――――――――――

――――――――――――――――

『ブラッククロウ』 2歳 オス 種族:ブラッククロウ

クラス:『夜黒鴉』

スキルポイント:0

レベル:24 

HP:110/110

MP:182/182

筋力:178

耐久:109

俊敏:285

魔力:167

幸運:100

スキル:『飛行術:B級』『闇魔法:D級』『気配察知:C級』『気配遮断:D級』『黒羽鴉法:B級』

祝福:

称号:

――――――――――――――――

 

「うむ、欲しい。」


 未だ膠着状態の二体をこっそりと鑑定してみると、配下として欲しくなった。

 丁度昨夜、かぐやたちとC級に成ったので配下を増やそうと話してところだ。


「そうと決まれば、二体とも無力化するぞ。マルトロスとメルトロスはリトルタイガーを抑えてくれ。その間に、俺とかぐやがブラッククロウを捕まえる。」

「ウォン!」

「ワォンっ!」

「了解しました。」

「かぐやの強化魔法を合図に飛び出すぞ」


 いつでも飛び出せる様に準備して、二体の様子を窺う。

 二体は今だ動いてはいないものの、互いに魔力を高めて即発一歩手前だ。


「私は月の跳躍者―【全能強化】!」

「―行くぞ!」


 強化魔法が掛かると同時に、マルトロスたちがリトルタイガーに、俺達がブラッククロウの前にでる。


「カぁっ!?」

「押さえつけろ―【闇ノ手ダークハンド】【光ノ手ライトハンド】!」

「カカっ!」


 飛び出して直ぐに魔法を発動させ、相手が驚いている隙に二種類の魔ノ手で掴みかかる。

 が、そこは流石C級モンスター。魔ノ手が当たる瞬間に回避して、束縛を逃れる。


「カァっ!!(『鴉法―黒羽弾』!)」

「っっと、ぶねぇ! 羽の弾丸とは、カッコイイじゃないか!ならこっちも―【闇弾ダークバレット】【光弾ライトバレット】!」


 回避後、翼を力強く羽ばたかせ、羽を弾丸の様に撃ち出す。それを魔ノ手でガードして、同じ様に闇と光でできた弾丸を相手に撃ち返す。


「視界を封じるつもりか? なら、辺りを掃え―【突風衝波ウィンドインパクト】!」

 

 羽に何か仕掛けていたのか、羽の弾丸と魔法の弾丸が激しくぶつかり合う度に黒い煙が舞う。完全に視界を囲まれる前に、風の衝撃をぶつけてぶっ飛ばす風魔法【突風衝波】を地面に向けて放ち、煙を掃う。


「……どこだ?」


 煙を晴らすも、一歩遅かった。既に敵はその姿を隠しており、気配も煙と同じ感じで察知しずらい。

 

「―カァァァっ!(『鴉法―黒刃天殺』)」

「―っ、上か!」


 ブラッククロウは、その翼を黒い光に包み体を回転させて凄まじい速度で突撃する。 

 

 『鴉法・黒刃天殺』……敵の視界から逃れ、不意を突いて天空から最高速度で突撃して斬撃属性を付与した翼と嘴で相手を貫く技。


 この技こそブラッククロウの必殺であり、最大の攻撃。



―ならばこそ、こちらも真正面から打ち破らなければ無作法と言うもの。

 


 光の魔法と闇の魔法を組み合わせ、魔力の半分をつぎ込み二色の魔法陣を創造する。

 B級光魔法【螺旋光閃ライトヘリックス】とB級闇魔法【闇鋭百花ダークハンドレット】。光の螺旋を相手に放つ魔法と百に分かれた鋭い闇を相手に放つ魔法を組み合わせ、A級にも迫る魔法を創造する。

 

「耐えてくれよ? 闇光混合―【双旋ノ流星波デュアルエンドバースト】!」



―内と外、二つの螺旋を描き、光と闇は一条の流星となる。



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転生召喚士は最強を目指して 智之助 @raito17

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