「どこから出したんですか?」と尋ねるしのに「え? ポケットだよ。ほら、ここに……」と自分のズボンのポケットをポンポンと叩いていた。

「いや……それはない」

「えーー!! なんで!?」

「なんでって……普通ポケットに入りきれないでしょう」

しのが呆れてそう呟くと、えりなは大袈裟に驚いた後少しシュンとした様子で口を開いた。

「ふたりも食べる?」

「……いただきます」

しのは少し困った様子でえりなからフランスパンを貰う。すると今度は空が口を開いた。

「本当におれ達どうなるんだろう……このままこんなところに閉じ込められたままだったら……もしくはあの化け物の餌になったり……」

「大丈夫だよ、空くん!」

「えりな先輩……」

「大人しく待っていたら、いつかきっと流架さん達が助けがくるよ! だから、ね?」

まだ不安そうな顔をしている空にえりなは優しく微笑んだ。その微笑みを見て空は「はい」と少し元気になったのか笑顔で頷いたのだった。

「そうですね。とりあえず、えりなの言う通り大人しく待ちましょう」

しのの言葉に空は頷きながらパンを頬張る。

「美味しい!」とふたりが夢中になってパンを食べている中、しのは天井を見上げていた。


(お父様……)


しのは不安そうな瞳でそう呟いた。



◆◆◆



「何? まだ静夜が戻ってきてないだと!?」

コテージに戻るなり哉太からそう聞かされた流架は驚いた様子で大きな声を上げた。

「そうなんです……いなくなってからかなり時間が経ちます」

「僕、シズのスマホに何度も連絡したけど繋がらないみたいなんだ……」

「くそっ!! 騙された!!」

「騙された……? それってどういうことなんですか?」

流架は苛立ちを隠せないままコテージの机をドンッと拳で叩くと、そのまま話し始めた。

「実は静夜を探していたら男に会ったんだ。そいつはとても人間とは思えない氷のように冷たくて鋭い瞳を持っていた……奴に静夜に着いて聞いたらもうコテージに戻ってると聞いたから戻ったらこれだ……」

「流架」

名前を呼ばれた。無論、振り向かなくても、呼んだ相手はわかる。

「輝」

輝が立っていた。両手を赤いパーカーのポケットに突っ込んだまま、赤水晶みたいに鮮やかな赤い瞳で流架を見つめている。

「輝、俺もう一度森に行って静夜達を探しに行く。お嬢と枢任せた」

「待てよ」

素早い動作で、輝が腕を掴んでくる。

「何勝手にひとりで突っ走ってんだよ」

「これは俺の問題だ」

流架がそう言った瞬間、輝の殺気が溢れ出た。思わずそちらを見ると先程までの冷たい眼差しとは打って変わりギラついた目でこちらを見ていた。その様はまるで獲物を見る肉食動物のようだ。そして感情が極限まで昂ぶった時よく見せる怒りに満ちた表情だった。

「この……馬鹿が……」

そう言うと、輝は流架の首に腕を回しグッと顔を近づけてきた。突然のことに驚き離れようとしたが流架よりも力が強い輝に力で敵うはずもなく、ビクともしなかった。

「輝……?」

「……何のための櫻鈴相談所だ。おいらとおまえ、そして李と枢がいて初めて成り立つだろ。だから頼れよ」

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