第92話 白虎様のさじ加減
『龍虎大戦』と呼ばれる戦争を、「龍から人へ、大陸の主役が移り変わった瞬間だ」と記す書物は多い。
実際、この戦役で龍たちが失墜したのは確かだろう。創世から生きる第一世代は青龍と山龍のみとなり、第二世代は一柱残らず全滅した。『神』と呼ぶことができる、神性を宿した龍の数が、文明神の数を大きく下回ったのだ。彼らの眷属である分け身、下位龍とも言われるドラゴンたちは、その数を8割減したという。
楽園は崩壊した。
これをもって龍の時代が終わった、と表現するのは正しい。
しかし、これを成したのは人ではない。
龍と虎が織りなしたこの戦争において、人類はほとんど関わりが無い。
ならばなぜ、人の時代となったのだろう。
確かに、大戦のきっかけとなったのは人間の国だった。黒龍教の事件があったすぐ後に、白虎が楽園へと攻めこんだのだから、そこに因果関係があるのは間違いない。
しかし現代の研究では、きっかけ以上の意味は無かったとされている。
なにせ、当の黒龍は戦場に立ってすらいないのだ。
楽園の神で生き残った青龍の言によれば、かの神は白虎が間近に迫ることに怯え、恐れおののき、見るも無惨に取り乱していたという。
その果てに、何故か神性を次世代へと譲っていた赤龍と争った上、最後は名も無き下位龍に討ち取られて屍を晒した。
余談ではあるが、この「余計なことをして種族の危機を呼び込み、それに対して立ちあがるどころか乱心して、結局何の役にも立たなかった」という黒龍の逸話は、『人をつついて虎を出す』という故事として現代に伝わり、数々の創作の題材にされて『黒龍=愚者』という認識が生み出されるに至った。
そのことが、黒龍教そのものの自然消滅へと繋がっている。
話が少し逸れたが、要するに……『龍虎大戦』において、人と第一世代の龍神たちは、ほとんど関わりが無かったのである。
『土剣王』
『氷晶王』
『水渇姫』
『闇光王』
『風樹王』
『火煙王』
楽園の奥に潜み、それまで人に知れることのなかった、名前に『王』や『姫』を冠する龍たち。属性という枠を超えて、自然神に近い権能を操ったとされる新しい神であり、いずれ大陸を束ねるであろう、と楽園では噂されていたという。
『龍虎大戦』における主役は彼ら龍王と、第二世代の龍神たち。
そして、大陸南部の地形を変えるほどの激戦を繰り広げた末に、勝利した白虎である。
重ねて言うが、人類はほとんど関わっていない。
区別するなら魔獣と呼ぶ以外に無い白虎こそが、龍の時代を終わらせたのだ。
なぜ、人の時代なのだろう。
この疑問をこう言い換えてもいい。
「なぜ白虎は、人の時代を許すのだろう」。
◆
激動と言われたある時代。
大陸史に様々な物語を刻み込んだ、綺羅星の如き英雄たち。
彼ら彼女らは、口を揃えてこう言った。
「あの獣との出会いが、私の始まりだったのだ」
人間の希望であり絶望。妖鬼の絶望であり希望。竜種にとってただ一つの天敵。
いくつもの戦争において勝敗を覆し、神々の行く末すら左右した伝説の大魔獣。
かの獣は、『白虎』と呼ばれる唯一無二の存在は、なにゆえ歴史に関わるのか。
えこひいきと思えるほど、一つの勢力に肩入れしたのは何故なのか。
現代に至るまで、それを解明した者はいない。
獣である彼と言葉を交わすことは、誰にもできないのだから。
激動と言われたある時代。
様々な種族の優劣と大陸の勢力図が書き換わったこの時代を、後の歴史家は冗談交じりにこう表した。
曰く、『白虎様のさじ加減』と。
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お付き合い頂き、ありがとうございました!!!!
「今は勝てない、でもいつか……」って英雄たちが目標にする、ホワイトタイガーに転生した しはや乃太夫 @payati
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