第72話 【斬界一閃】機士の姉

 異形の巨体が羽ばたいて浮き上がってくる。

 巨大過ぎる翼の引き起こす暴風に吹き飛ばされそうになるが、こちらに突っ込んてきたおねえちゃんが俺の手を握って捕まえてくれた。


「『障壁の奇跡』!」


 浮き上がった巨体がものすごい勢いで迫ってくる。

 今度はローズの赤い機体が飛び込んできて、ローズに抱えられているエテルナが奇跡で風除けを作り出す。

 金色に輝く障壁の内側で体制を整える俺達へ、七つの首が次々と突進してきた。


 アルテの【反射】を警戒して光弾を放ってこないのは良いが、巨体での激しい攻撃を受けて障壁に段々とヒビが入り風が流れ込んでくる。


「あまり長くは保たないのだ」

「おっとと……予定外の事態だから、サブプランの出番だよ」


 俺を捕まえる為におねえちゃんが手を離したので、なんとかおねえちゃんにしがみ付いているベクターが、腰から例の信号弾を取り出すとバランスが悪いのにも関わらず上に向けて打ち上げた。


 勢いよく空へ飛んでいった信号弾は、空で炸裂して青い花を咲かせる。


 直後に銀色の機影がこちら目掛けてすっ飛んできて、魔導鎧の搭載無線に連絡を入れてくる。積載していたコンテナを置いてきたイーグルだ。


 =□今だけチェルシー勇者空軍のエース! イーグルの出番ですね!□

 =よろしくね~?


 力を最大限に発揮する為、おねえちゃんがイーグルの背中へ首にまたがって乗ると頭部のセンサーを緑色に光り輝かせて、おねえちゃんに許可を求める。


 =□敵大型生体兵器への対抗術式を検索完了! ユーザーにダウンロードの許可を申請します!□

 =いいよ~!


 おねえちゃんが許可した途端、イーグルの周囲を複数の色とりどりな魔法陣が覆い、緑のセンサーに縁どりされたクチバシとワシの頭部が上下左右に展開して魔法陣で造られた砲口が伸びてきた。


 =□自動詠唱完了。魔法陣投射完了。対艦光学術式撃てます!□

 =やっちゃえイーグル!


 おねえちゃんが乗ったイーグルは翼の生えた巨大な砲台のような姿と成り、その全身を覆っている魔法陣が回転し、収束した何かが弾けてスパークしている砲口から青白い光を放ち始める。


 青白い光は金色に輝く障壁を貫通しながら、その奥の七つ首ドラゴンの翼も焼き貫いて大地を真っ赤に溶かしていく。溶けた大地が爆発してまるで火山の火口みたいだ。

 根元で繋がっている場所への攻撃にドラゴンのすべての首から絶叫があがる。


 =こっちだよ~!


 光を放つのに集中しているイーグルの首をおねえちゃんが強引に動かした!


 その動きに連動した光は輝く障壁に開いた穴を切り広げてその奥にいる七つ首ドラゴンの首を刎ね飛ばしていき、大地は線状に割かれ火山の火口から流れる溶岩の川が出来ていく。


 全部の首を綺麗に刎ね飛ばして反対側にある翼まで切り落とすと、青白い光は細い光を最後に放出を止めた。イーグルのクチバシ周辺は真っ赤に赤熱していて大変熱そうだ。


 おねえちゃんも熱そうに手を振り、イーグルから飛び上がって脱出している。


 七つの首と両翼を切り落とされて十分割にされた異形の龍は、飛ぶ力を失って墜落していく。首や翼がボトボトと神殿跡地や湖に落下していき最後は巨体が落ちて大波を引き起こした。


 =おねえちゃん、凄いよ……!

 =凄いのはイーグルだよ~!

 =□当機の性能ではあの対艦術式は使用不能なのでユーザーの力ですよ!□


 無事そうなおねえちゃんに安心して、言葉が漏れる。


 装甲を叩く事で俺に水を差すのはアルテだ。ジェスチャーで首が生えていた巨体を指差すアルテは何かを振りかぶる動作をしていて、俺にそこへの槍投げ……多分ジャベリンレインを要請した。


 首を失った巨体は力なく


 ……アルテのお陰でドラゴンの親玉を倒せていない事に気が付いた俺は、巨体から垂れさがる様に残った首へ機械槍の負い紐を外して持ち発動句を唱えた。


「『槍よ輝け』!」


 最近使っていて愛着の湧いてきていた機械槍が黒く染まっていくと、自然に体が投擲の体制に入る。


 狙うのは巨体の前に垂れ下がっている原型の分からなくなった首だ!


 真っ黒に染まった槍を投げつけると、晴天の中では非常に目立つ闇の槍は巨体へ勢いよく飛翔して、俺達と巨体の間で分裂。無数の黒い弾丸となり巨体ごと首に突き刺さっていく。


 巨体に闇が染みわたって炸裂した。


 闇の炸裂により、死んだふりをしていた最後の首が失われて穴だらけになった巨体は消え去っていき、ダンジョンの構造体だった崩壊した神殿も消えていく。


 ドラゴンの親玉自身がダンジョンコアを取り込んでいたみたいだ。


 こちらに飛び掛かってはローズとベクターの機械槍で目つぶしをされていたウォータードラゴン達も消え去り、後には激しく波打つ湖が残された。


 落下したドロップを追って波打つ湖畔に着陸した俺たち全員が光り輝く。


 強大なダンジョンをブレイクしたのでドラゴンキラーであるアルテまでレベルが上がったらしく、意外なレベルアップに輝くアルテは、自分の手を見つめてニヤけている。

 

 バイザーを上げた笑顔のおねえちゃんは両手で異形の龍からドロップした頭より大きな宝石を軽々と持ち上げて喜んだ。


「やったねローズぅ! これで大戦士だよ~!」

「おめでとう! おねえちゃんとローズ!」

「マダイジュの依頼は達成ね。私もついに大戦士か、どこを開拓しようかしら?」


 レベルアップに煌めくおねえちゃんとローズを俺が祝福すれば、気の早いローズはもう開拓の事を考えている。


 俺達はレベル十の大戦士になった。


 大戦士はガルト王国の未開拓地を開拓してそこを自分の領地に出来るのだ。


 #####


 海側は戦艦が邪魔をしてきそうなので、皆で山を登りながら今後の事を話し合う。イーグルも降ろしたコンテナを掴んで運び上手に山を登っている。

 ごつごつした岩場ばかりの険しい山でもレベルアップして強化された体にとっては大した苦労では無くて、大戦士の力を早速実感している。


「皆はこれからどうするの~?」

「あたしは一旦報告する為、帝国に帰る予定だよ」


 ベクターは勇者であるおねえちゃんを守るために派遣されたので、一区切りしたことを報告する為に帰るらしい。一旦と言う事は開拓する予定の領地までついて来るんだろうか?


「僕は面白そうだから。三人の開拓を眺めに行こうかな! エテルナは?」

「私はエルフの村に帰るのだ。落ち着いたら様子を見に行かせてもらうのだ」


 ガルト王国のドラゴンキラーをやっているアルテはそのまま同行するらしいが、エテルナは目的が達成されたから帰るみたいで、また会う機会を楽しみにしておこうと思う。

 

 異形の龍から出た戦利品は大活躍をしたおねえちゃんの物となった。


 巨大な宝石を両手で持ち上げて持つおねえちゃんは嬉しそうに笑っている。


 振り返れば激しく波打っていた湖も落ち着きを取り戻し、戦いの痕跡は溶岩が固まって出来た線状の黒い大地しか残っていない。


 祖霊の加護も無い異国で俺達は勝利した。


 俺達は生きて故郷に帰る。


 帰ったらローズが目指していた開拓者として、ガルト王国の未開拓地を開拓する予定。


 今度はおねえちゃんと一緒に開拓だ!



 ――あとがき――

 クロたちの冒険はまだまだ続きますが、一旦ここで完結です。

『強すぎるおねえちゃんと一緒』を最後まで読んでくれてありがとうございました。

『強すぎるおねえちゃんと開拓』でまたお会いしましょう!


 以下のリンクから飛べます!

 https://kakuyomu.jp/works/16817330666263373480

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