速攻即決の決戦
数多の龍の巣窟
第71話 【先手必勝】速攻の姉
目の前を雲が流れていく。
ドラゴンダンジョンの攻略を妨害する為、戦艦の艦隊が集結しているという情報を得た俺達は、敵が集結してしまう前にダンジョンブレイクを狙うべく帝国の秘匿戦艦の甲板である平たい刀身の上に魔導鎧を起動したまま待機している。
この灰色のフネは横に構えた剣のような形状をしていて、刃の根元辺りに操縦系統の集まった艦橋が見える。
艦橋が三回ほど光ったので作戦開始の合図だ。
俺達を乗せたまま戦艦はゆっくりとその船体を傾け始めて、下の景色が見え始めた。下からは空飛ぶ戦艦に興奮したドラゴンたちがその巣窟のドラゴンダンジョンから突っ込んで来ている。ドラゴンダンジョンは古いダンジョンだからか、予想とは違いエリンの森と同じく外に展開していて、巨大な湖の中心に白い神殿とそこへ繋がる白い橋が複数かかった構造になっているみたいだ。
俺達は空から突入して、神殿内に居るであろうダンジョン守護者であるドラゴンの親玉を撃破する作戦。
俺とおねえちゃんにローズは残りの三人を抱えて、かなり急に傾いている戦艦からのダイブを開始する。
=じゃあ行くわよ。二人共! 戦士達に栄えある戦いを!
=わかったよローズぅ! 戦士達に栄えある戦いを~!
=了解だ! 戦士達に栄えある戦いを!
航行中の戦艦上は話の出来る状態じゃないので、魔導鎧の搭載無線を使って聖句をお互いに送り空へと踏み出した。
そのまま潜航するために海へ向かって突っ込んでいく戦艦に巻き込まれないよう、魔導スラスターを全開にして急降下する。
ドラゴンたちは目立つ戦艦に気を取られて追いかけていくみたいだが、その動きはこちらと迷っているのか戦艦と比べれば遅めなので大丈夫だろう。
二手に分かれたので減ったドラゴンがこちらにも向かって来るがその戦列には隙間が多い。
俺達は手薄になった空を引き裂いて一気に降下していく。
迎撃にブレス攻撃が迫るけど地面に足を着けていないせいか、その火炎は地上で吹きかけられたのとは違い断続的で魔導スラスターを軽く吹かせば避けることが可能だ。迫り来る火炎弾幕を回避して落下していく。
十五メトル近い大きめのドラゴンが直接攻撃の為に正面から突っ込んでくるのに対して、一緒に降下しているおねえちゃんが蒼い剣を振り上げて光り輝かせる。
=任せて~!
おねえちゃんが収束した斬撃の嵐を振り下ろし、正面から近付いてきたドラゴンは両断されてバランスを失い墜落していく。
その二つに分かれた巨体に俺達は取り付いた。
俺達は両断しても消えないで墜落していく頑丈なドラゴンを盾にして、そのまま本丸の白い神殿へ突っ込む。
生きているドラゴンシールドに次々と火炎が着弾するけど、半分こになったドラゴンはそれらに対しても頑丈さを発揮して消えることなく受け止めている。
自由落下するドラゴンシールドと共に降下していると、神殿が光り輝いた。
こちら目掛けて撃ち込まれる光弾!
神殿から連打される閃光が生きているドラゴンシールドをみるみる削り取ってしまうので、危険を感じた俺達は盾を捨てて神殿の周囲を周回し始める。
=ドラゴンの親玉の攻撃なのか!?
=ドラゴンが消えちゃったね~
=正攻法だと、もっとひどい目に合いそうね?
俺達を追って連打され続ける閃光によって、親玉が居るはずの白い神殿が崩壊していく。
神殿が崩壊して出てきたのは白色の巨大な竜が首だけを出している姿で、首だけでも十メトルはあって全体像を想像する事も出来ない。
巨大すぎる白竜は鹿のように枝分かれした角から、光弾を連打していてその威力は流れ弾の当たったドラゴンを一撃で打ち砕くほどだ。
その攻撃方法を見ていた俺の抱えるアルテは、良いことを思いついたように頬を上げると指を差すジェスチャーで俺へ無茶な注文をしてくる。
そのジェスチャーの内容は白くて巨大な首だけドラゴンに突っ込め、だ!
経験豊富なドラゴンキラー殿のジェスチャーを二度見した俺は、装甲を叩いて急かす彼女に従って真っ白な首だけドラゴンへと突っ込んでいく……!
今までの事から、ドラゴンについては信頼するべきだと判断したからだ。愉快犯的な所はあるが戦いで変な事をしたことはないし、こんな相手に膠着状態になればいずれ被弾して酷い事になるのは目に見えている。やるしかない!
俺は湖から次々と飛び出してくるパピーではないウォータードラゴンの群れが、口から神殿や橋の石建材を両断する威力の水を吐きかけて突っ込んでくるのを水面ギリギリを水のカーテンを作りながらの飛行で回避すると、一気に飛び上がって弧を描く動きで崩壊した神殿から伸びる白い首へ突っ込んでいく。
=援護するわ!
接近する俺へと完全に集中しようとした首だけドラゴンへ、ローズの銃撃がここぞとばかりに突き刺さって目玉を撃ち抜いた。
=行くよ~! あれれ?
白い煙を上げて即座に再生して俺に焦点を合わせてくる白竜の目玉に絶望を覚えるが、俺へ迫る光弾の弾幕を白竜の後ろに迫っていたおねえちゃんが角ごと纏めて斬り開いてくれる。頭を狙っていたみたいだけど、首を動かして回避されたのだ。
でも、俺が近づく時間を稼ぐことには成功して。
ある程度近づいた時点で妙に響くアルテの声が発動句を宣言した。
「『返す』よ!」
次々と連打されていた枝分かれした角からの光弾は、逆再生するように発射元へ帰っていって片方の角を失った首だけ白竜は自らの光弾に滅多打ちにあい、砕け散っていく。
噂に聞いたことがある東のドラゴンキラーの固有スキル【反射】だ……!
原型が分からないほどにボロボロになった首だけ白竜は力を失ったように崩壊しかけの神殿に叩きつけられた。
その衝撃に神殿が揺れている。
その衝撃以外の理由で神殿が揺れている!
=なんだ!?
=……かなり面倒なタイプの相手みたいね
=わぁ~! 首がいっぱいだ!
神殿を砕いて現れた巨体は湖から複数の首を持ち上げて立ち上がった!
=なんだこいつは……!
力なく垂れさがる首以外にも七つの首を備えた異形の龍はその巨体にふさわしい湖以上の大きさの翼を広げて飛び上がろうとしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます