第70話 【海外謀略】浜球の姉
海には戦艦に貫かれたことで半壊した巨大な船が着底している。
破壊された船からこぼれ落ちた残骸が浮かぶ海はそれでも日差に輝いていて、その海を眺めることのできる砂浜で俺達は休暇中だ。
この場所は白い砂浜の続く場所で、白波の打ち寄せる砂浜は太陽に照らされて輝く良い場所だったのだろうが、現在はかなり台無しになっている。
波と一緒に押し寄せる残骸を回収する白と黒の衛兵達を眺めながら、おねえちゃんとローズに俺の三人は、ビーチパラソルというらしい木の骨組みに白と黒の布を張ったモノの下で、ベットを起き上がらせたような椅子に背中を預けて寛ぎ、椅子のアームレストに置いてあるグラスへ注がれた搾りフルーツをいただく。
二人共、俺の予備サングラスを引っ張り出して装備している。
先ほどの事を忘れるためにも眼前の光景から目を逸らして寛いでいると、こんな場所でも黒装束なベクターがやってきて告げる。
「彼らの目的がわかった……。あの襲撃はドラゴンダンジョンの攻略を妨害するのが目的だったみたいだよ」
ドラゴン装備の青いワンピースを着たおねえちゃんは、もう何回目なのか分からないおかわりを飲み切った後にファンキーなサングラスに隠された視線をベクターに向けて聞き返す。
「海外の人はドラゴンダンジョンが残っていて欲しいの~?」
「面倒な事に、そういう話らしいんだよ」
危険なダンジョンに残っていて欲しいだなんて海外の国家は一体何を考えているんだろうか? ウォータードラゴンは兎も角として、炎を吐いて空を飛ぶ翼竜は海外から貿易目的でやってくる人々にとっても脅威なはずだ。
「ドラゴンのダンジョンをガルト王国への牽制だと考えているのかもしれないわね」
話を聞いていたドラゴン装備である所々が透けた蒼いコート姿のローズが、サングラスを下げて覗かせたその赤い眼を細めて推測を述べる。
何故二人がドラゴン装備で過ごして居るのかといえば、現在位置の砂浜のある街モヌクルは大陸の最南端にあり、とても暑いからだ。白い砂浜も美しいが、それもこの暑さを高めてしまっている要因である。
俺自身も黒色なドラゴン装備のマントを着ていて、傍から見ると熱い場所で厚着をしたおかしな集団になっている。
でも快適だから仕方ないんだ。
「お~い! この場所でだけ出来る面白い遊びがあるから! やらない?」
「休暇の軽い運動には良いものなのだ」
俺と同じく黒色のマントを羽織って両手を振り回すアルテと、流石に白鎧は脱いで白い半そでとハーフパンツというラフな格好になったエテルナが白黒模様のボールを持ってきて、遊びに誘ってくれた。
「いいね~!やってみよ~!」
「この場所でだけ出来るなんて楽しみね。やるわ」
「俺も参加するぞ」
「あたしは暑いから見学だよ」
北国育ちで暑いのに慣れていないらしいベクター以外の俺達は、気分転換に遊びの誘いに乗ってパラソルの日陰から太陽の照り付ける砂浜に進み出ると、ボールを叩いて弾き合うアルテとエテルナに遊びのルールを説明される。
「ほいっと! こうやってボールを弾き合って」
「よいしょなのだ。落とさないようにする遊びなのだ」
二人とも上手にボールを上に打ち上げていて、軽快にポンポン打ち上げ合っている。しばらくすると俺へ飛んできたので、マントを素早く払って腕を出し打ち上げる。
「っぐ! しまった……」
ちょっと力加減を誤って高めに飛んで行ってしまったが、飛び跳ねたおねえちゃんがボールを軌道修正してローズへ山なりに飛ばしてくれた。
「おねえちゃん、ありがとう」
「いいよ~」
弾ける笑顔のおねえちゃんに礼を述べた後、自分の全身を覆う長い黒マントを見つめるが腕を出す為には一旦マントを払わなければならない。
この遊び、マントは不利じゃないか?
同じくマントを着ているはずのアルテを観察すると、先んじてマントを持ち上げた状態で固定していて、俺の目線に気が付いたのかニカリと頬を上げて歯を見せてくる。
「なるほどね。足場が悪いから、少しやりにくいけど!」
足元を確かめるようにしているローズがボールを掬い上げる様に打ち上げてエテルナの方に返すと、片腕を構えていたエテルナはそれに対して腕を叩きつけて今度はアルテへ地面と平行に飛ばして見せる。
「大丈夫そうだから勢いよくやるのだ!」
「ほいきた!」
即着弾したボールを俺の方へニヤリとはじき返してくるアルテに大人気なさを感じつつ、今度は早めにマントを払って、迫り来る白黒の球を上にはね上げた。
自分で跳ね返すのは難しいので二人に任せる作戦だ。
浮き上がったボールに対して、落下位置を予測したらしいローズが軽く腕を差し出すことでおねえちゃんへ山なりに弾くと、ボールを真剣に見つめるおねえちゃんが一気に踏み込んでアルテへ勢い良く返す。
「とぅ!」
「ほいさ! やるね!」
それをアルテが高く打ち上げた所で、ベクターが同じくシャドウナイトと思われる黒づくめの人物を引き連れ、急ぎこちらに近づいてきて緊急の事態を告げてくる。
「さっき破壊した巨大な船の持ち主を尋問した結果、まずい事実が判明したんだよ。ドラゴンのダンジョン攻略を妨害する為に戦艦の艦隊が派遣されているらしい……」
巨大な船の次は戦艦の艦隊!?
緊急事態に跳ね上げたボールをキャッチしてこちらに近づいて来るアルテとエテルナはそれぞれに意見を出す。
「今度は戦艦の艦隊か~! まいったね! ワクワクしちゃうぞ!」
「恐らくは周辺の私猟船として使っている戦艦が、かき集められたのだ」
いったい何を思って、そこまでの戦力をこちらへ差し向けてくるんだ!?
海外の国家がこちらにとってくる苛烈な対応に寒気を感じるが、おねえちゃんとローズに顔を合わせてから、ベクターに聞いてみる。
「こっちには艦隊は無いのか?」
「帝国は凍り付いた北の大地の国家。あの戦艦は皇帝が趣味で建造したんだよ」
戦艦の艦隊には、戦艦の艦隊と考えたがベクターの話だとそうはいかないみたいで、確かに帝国は海も凍り付いた北の国家だ。1隻隠し持っていただけでも不思議なことだろう。
「最悪の事態として、戦艦でダンジョンの入り口に突っ込まれて物理的にふさがれたら、……一時的に攻略不能になるわね」
「いずれ溢れたドラゴンが吹き飛ばすでしょうけど」と面倒くさそうに、その後の展開を語るローズ。そんなことをされたら内部はドラゴンで詰まってるだろうから攻略の難易度が高まってしまうぞ……!
「そうなんだ~? じゃあ先に倒しに行こうね!」
「複雑な戦略には単純な力で対応するのが一番ね。惜しいけど休暇は中断して、やるわよ」
おねえちゃんの単純な作戦により短すぎる休暇は終了して、急遽ドラゴンダンジョンの攻略へ出向く事が決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます