第69話 【巨船激突】迎撃の姉
縮尺の狂ったような大きな船が、こちらへ舵を切り離陸し始めているように見える。異変を察知した白色や黒色の衛兵が、小舟に乗って何やら騒いでいるけど、完全に無視されて、巨船の起こした波で小舟が転覆している。
完全に浮き上がった巨船は、こちらに向かって突っ込んでくるみたいだ。
「これは……。ラムアタック狙いかしら? 街中で特攻なんて面倒なことをしてくれるわね」
「一体どう対応するべきなんだ?」
「街の中で倒しちゃダメなんだよね~?」
ローズは冷静に見極めているけど、あんな船が突っ込んできたら俺達は兎も角として、宿は全壊すること間違いなしだ。
おねえちゃんなら、船を真っ二つに出来るけど、それだと街中で敵を倒す事になって、無関係な人が犠牲になる。一体どうすれば……?
「ベクター、どうせ戦艦は待機してるんでしょ? 質量には質量よ。木造船なんて、押し返してしまいなさい」
「速力が計算されてしまうからもう少し隠しておきたかったけど、仕方が無い。出し惜しみ無しだよ」
ローズが赤い流し眼をベクターに向けると、青い眼を閉じて両手を上げたベクターは、先端に棒の付いた手の平程度の機械槍を腰から引き抜いて空へ向けると、引き金を引いた。
すると、先端の棒が火を噴いて空へ飛んでいき、高空で赤い花を咲かせる。
突然なベクターの奇行におねえちゃんと一緒になってベクターを見つめてしまう。そんな俺達に気が付いたベクターは頭を掻き、棒の無くなった機械槍を振りながら赤い花火を打ち上げた理由を教えてくれた。
「これは信号弾と言って、遠くの人に合図を送る道具なんだよ」
「なるほど」
「遠くの人って誰~?」
おねえちゃんが聞いた次の瞬間に海が盛り上がって、とんでもなく巨大な剣の切っ先が現れた後、みるみる浮かび上がりその姿を晒していく。
「なにアレ~!?」
「アレが戦艦ね。帝国の実力を拝見しようじゃない?」
突如海上に現れた灰色の超特大片刃剣はその刃を海と平行にしたまま静止して、ゆっくりと切っ先の向きを変える。
こちらへと突っ込んでくる巨船へとその切っ先が向いた瞬間、爆音が響いた。
特大剣の柄頭に当たる部分から火が吹いていて、あれは魔導スラスターだ。
遠距離のここからはゆっくりに見えるが、巨船と見比べればその速度差は一目瞭然で、慌てて回避しようとする巨船が人をぽろぽろ落としながら斜めに上昇するけど、完全に追従されている。
「船に船をぶつけるのか!?」
「面白そうなことになってるね! もっと早く来ればよかった! 呼んでよ!」
「やっぱり人間の考えることはとんでもないのだ」
目の前で起ころうとしていることに驚きの声を上げると、爆音に気が付いたエルフ二人組が小部屋から飛び出してきて色々言ってくる。
エテルナの言ってることには、完全に同意だ。
巨船も追われるばかりではなく、反撃としてジャベリンレインらしき攻撃を甲板にしがみついている者たちが放っている。ここから見ると糸筋みたいな攻撃に見えているけど、実際はかなり激しい攻撃のはずだ。
それに対して剣の戦艦はくるりと回転する事で回避して見せた!
回避しても一部は当たっているみたいで突き刺さるが、剣の戦艦は見た目のままに金属製のようで何の支障もなく突っ込んでいく。捻りの加えられた剣の一撃はこの距離からでも風切り音が聞こえて恐ろしげだ。
「耳を塞いでおくのがお勧めだよ」
「ベクターの言うことに従っておきなさい」
「は~い!」
ベクターが警告してくるので部屋に意識を戻す。両耳を塞いだベクターに、ローズも追従するように耳を塞いで助言してくれる。おねえちゃんは既に両耳を塞いでるみたいだ。
それに倣って耳を塞いだ後で、また空の様子を見ようとすれば、耳を塞いでいても聞こえる破滅的な破砕音と音波による振動で体がビリビリと震えた。
空では巨船が剣の戦艦に貫かれていた。
巨船は強靭なフレームが災いして、逃れること叶わずにそのまま海面の方向へと押し込まれていく。貫かれた船の上で戦闘が起きているみたいだけど、明らかに帝国側が押し込んでいて、恐らくはベクターと同じ帝国の精鋭シャドウナイトが攻撃を仕掛けているんだろう。
ベクターが今までに見せた実力からすると、巨船側の戦士はご愁傷様だ。
「船を貫いても戦いは続くのか?」
「むしろ、そこからが本番ね。キッチリ黒幕を確認しておかないと休めないわ」
「尋問は専門家が居るから大丈夫だよ」
遠方からでもわかる激しい戦いに疑問を漏らすと、指に金髪をからませたローズが推測を披露してきて、人差し指を立てたベクターがそれを物騒な言葉で裏付ける。
こんなことが起きてもまだここで休むつもりなローズは、やっぱり大物だ。
そんな話をしているうちに、巨船上の戦いは収まりを見せているみたいで、両手を上げた者たちが次々と拘束されている。
「ブハハ! 来た直後に襲撃! 良いモンも見れた!」
「同盟圏を出たとたんに襲撃なんて先が思いやられるのだ」
宿に船が突っ込んでくるという珍事にアルテは大喜びで転がっていて、白鎧のエテルナは幸先の悪さに肩を落としている。
こんな調子で休めるのか俺も不安だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます