トンネル

3.14

トンネル

「ザーザーザーザー…」

外は、大雨。

そこに僕は立っていた。

数メートル先は、雨により真っ白。もし誰かがそこに居たとしても僕のことは見えないだろう。勿論それはお互いに。

僕の後ろにある大きな山、うっそうと生い茂る森たちは、忙しそうに葉を途切れなく揺らす。

そしてその木々の奥に大きなトンネルがあった。しかしそのトンネルは重厚な鉄格子によって塞がれていた。縦に並ぶ鉄の棒、その周りには古いレンガ、それらは自然の力により少しずつ緑色へと変化していた。


「ピチョンピチョン…」


トンネルの奥からは水が垂れる小さな音。

そしてほのかに香る鉄の匂い。もう鉄格子の殆どが茶色で錆びてしまっている。もう何十年とそこにいたのが分かる。

僕はそのトンネルの入口の前に立ち濡れたカッパを脱ぎ背中にあるリュックの中にしまい込んだ。

雨は、変わらず降り続く。


僕はゆっくりと鉄格子に手をかけた。

知っている、僕は、。

体を横に、背と腹を格子の隙間に這わせるように、そのまま、ずっとゆっくりと…ゆっくりと…。

トンネルの奥へと体を動かした。

しかし突如、体が動かなくなってしまった。

着ていた服のボタンが格子に引っ張られていたのだ。

「僕」はそれを取ろうと無理やり体をトンネルの奥へとねじ込んだ。


「パチンッ」


その瞬間ボタンはあらぬ方向へ飛んでしまい僕もまたあらぬ方向、トンネルの地面へと叩きつけられた。


「なぁなぁ、あのトンネルの話知ってるか?」


「ん、なにそれ?」


「俺らの学校の上に〇△高校ってあるだろ?」


「うん」


「その高校の裏手に細い道が在ってそこをずっと行けばトンネルが見えてくるらしいんだ」


「へー、それで」


「なにやらそこのトンネルの出口が無いらしいんだ!」


「へ、へぇ…でもそれって普通に出口が封鎖されてるかなんかなんじゃない…?行き止まりとか…」


「いや、それが違ぇーらしんだよ!まっ俺も知らねぇけどよ!」




「ゲェコ」


顔の横には濡れたコンクリートの地面、目の前にはカエルが居た。


「うあっっ」


僕はすぐさま立ちあがりここがトンネルだと気づいた。そして友達とした話を思いだしていた。

今僕はそのトンネルに居る。

床に放り出されたリュックを背負いまたトンネルの奥へと進んで行った。


「ピチョンピチョン…」


歩くこと数時間…とも感じられたしはたまた数十分とも感じられたり。

目の間に薄っすらと光が見えだした。


「ゲコッ…ゲコッ…」


横に居たカエルを無視し、その光の方へと歩いていった。


そしてやっと出口が見えてきた…!


と思ったら。


どこかで見たことのある風景、目の間には錆びた鉄格子とその周りにある古いレンガ。


そして何より、トンネルの隅に僕が入るときにちぎれたはずのボタンが落ちていた。

それは何かに思いっきり擦れた跡がある。


僕は急いでまた同じように体を横にしその鉄格子に背と腹を這わせた。


「ギュッ…グググッ…」


体が擦れてトンネルの外へと出れない。


僕はそれから体を外し、また反対側のトンネルの奥へと走っていった。


そして反対側の入り口に着いた。

が、そこにもまた同じ風景と鉄格子があった。勿論そこからは出られない。

また反対側へと走った。

しかしそこにはまた同じ鉄格子、同じ風景があり出られない。


そこでやっと僕は気づいた。


「そのトンネルには出口が無い」


入口しか無いトンネルだったということを。






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