ある日Webに出現した怪談の正体は……

オカルト系Webライターがブログに書き記した怪談『ミルナの怪』。本作はそれに対するWeb上の反応を時系列順にまとめたモキュメンタリー調のフィクションです。

まず、『ミルナの怪』の中に出てくる「違法アップロードされた動画の中に出現する幽霊」という設定がいかにも今風でいい。「私は違法動画を毎日見ています」とおおっぴらに言う人はいないでしょうが、「違法動画なんて一度も見たことありません」って断言できる人もなかなかいませんからね。そんな人間の小さな罪悪感を突いてくる設定が良い。

 ですが、本作の真骨頂は怪談を紹介した後に描かれる世間の反応。SNSではポジティブな形で話題になる一方で、匿名掲示板では怪談の内容だけでなく、ライターの素性まで調べられて叩かれるという落差。この両極端なネットの書き込みの描写がめっちゃ上手い。さらに言うなら、記事がバズったことでライターが調子に乗るそれっぽさも凄い。

こうした生々しいWeb上の書き込みを通して怪談の外堀を埋めていく構成が実に絶妙で、話が進むにつれて『ミルナの怪』に隠された真実が二転三転していく展開はミステリーのようでもあります。そして秘密が明らかになった後でもまだ残る不可解な物、それこそがホラーなのでしょう。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

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