Sista sidan これでいいのか?

 進級して三年次となった春。

 すでに桜は散ってしまい葉桜全盛だが、新たな顔ぶれがまだまだ初々しい。

 目の上のたん瘤みたいな諸先輩方が居なくなり、これから我が世の春を謳歌できる、なんて考えるわけでもない。いつも通りだ。


 春の風は強く幾ら髪をセットしてもな。一瞬でオールバックならまだましだ。実際には頭上で踊り狂う毛髪に手を焼く。実に自由奔放だ。

 強風でスカートが捲り上がりそうな女子。ケツを抑えながら歩いてる。見えそうだだの、見たいとか思わないからな。


 昨年の秋より学年一位を維持したことで、成績順のクラス替えで三組の内、上位に組み込まれた。難関校突破は確実とされる集団だ。

 中間に位置するクラスとは異なり、学力レベルは少し高いのだろう。だが、それが人の質を示すとは限らない。勉強できるバカはどこにでも居る。

 頼むからバカはこっちを見るなよ。バカ程、他人を気にするからな。


 同じクラスに見慣れた顔。心陽だ。

 俺が留学中に頑張ったんだろうな。一緒のクラスになって親密になって、なんて目論んでいたかもしれない。全てご破算となったが。

 目が合うと微笑んでくるが、以前のような明るさは無い。綾乃と正式に付き合うことになってるし、やることやっちまったし。後戻りできないし。

 心が痛む。でも、こればかりは仕方ないと割り切る。

 人の縁は時に残酷な結果をもたらすものだ。


 授業と授業の合間。十分ほどの時間。

 傍に来るのは心陽だ。真剣そうな表情をしているわけで。


「佑真君。今日、行っても大丈夫かな」


 今日か。今日は直帰して勉強する予定だったな。陽奈子さんは来ないし、綾乃の家に行く用事も無いな。


「いいけど」

「じゃあ一緒に帰ろうね」


 今夜か。触れ合いタイムって奴か? 幼い肉体を蹂躙してください、って申し出だと困るな。欲望に忠実であれば、向こうから来てくれるということで、遠慮は要らないのだろうけど。

 まだ綾乃に何も言って無いんだよな。言いづらいし、言えば言ったで邪魔してきそうだし。陽奈子さんとは一度だけ許す、とは言ってたっけ。


 昼休みになり学食へと出向くと、しっかり綾乃が席を確保してる。

 傍に寄ると椅子の座面をぽんぽんと叩き、着座することを促されるわけで。


「許可出たんだ」

「いきなり何の?」

「高校卒業したら佑真君と一緒」


 俺の部屋で生活することになるから、ベッドをダブルに替えておけと。ついでに卓袱台をやめて机と椅子をワンセット。箪笥をひとつと押し入れを片付けて、綾乃の服を収納できるように、だそうだ。

 すっかり住み込む気満々だ。


「あのな、綾乃」

「何?」

「あの部屋にダブルベッドと机と箪笥を置いたらな」


 足の踏み場が無くなると言うと。


「広い部屋、無いの?」

「あるわけ無いだろ」

「じゃあ、あたしの家」

「いやだ」


 ならば家を買ってもらうと言い出した。家?


「家を買ってって」

「文字通り家」

「いや、分譲?」

「そうだけど」


 賃貸物件は何かと煩いから嫌なのだそうで。無茶苦茶だ。

 金持ちの考えることは分からん。ただ、綾乃はとにかく四六時中、俺の傍に居たいってことで。

 親に相談しておくと言っておいたが「お金は全額出すし、生活費の心配も要らないよ」だそうで。俺の負担は一切無しで、甘い新婚生活を営む、と湧いたことを言う綾乃だった。


「本当は今すぐ一緒に生活したいんだけど」

「無茶だっての」

「無茶とは思わないけど、お父さんに高校卒業まで待てって」


 だろうよ。その辺だけは最低限、常識があって何よりだ。

 ああ、そうだ。例の件を切り出さないと。


「あのだな」

「いいよ」

「は?」

「掛川さんでしょ」


 一回は仕方ないとして譲るそうだ。一時期俺の気持ちもあった。向こうも真剣だったってことで、最後の想い出に一発くらいはと。

 いいのかよ。以前とは違うんだから、断って当然なんだがなあ。


「好きにならないよね?」

「ならない、と思う」

「断言して」


 心配になるのか。


「もう好きになることは無い」

「じゃあ一発だけ」

「一発って、品が無いぞ」

「二発は許可しないから」


 なんだそれ。

 まあいい。心陽が抱いてと言ってきたら、一回だけはってことで。そんなものは無い方がいいんだけどな。若さゆえの過ちとして経験しておけばいいのか。

 口にぐいぐい押し付けてる。箸の先に抓んだ飯だ。まだ「あーん」なんてのをやるのか。新入生が呆れるぞ。


 その後、学校が終わると心陽と一緒に下校する。

 エントランスで綾乃に会うが、一瞥すると「今日だけだからね」と言って、さっさと学校をあとにしたようだ。

 綾乃を見た瞬間、緊張したのか、指先に力が篭もったようだが「なんか、許可してくれたんだね」と、ふっと力が抜け安堵した表情を見せていたな。


 一緒に家に帰ったのだが、部屋に上がると寂しげな表情だ。

 軽く話をして「諦めるね。でも、友人としてはありだよね」と。それでもキスだけは所望されたけどな。濃厚な奴をすると「佑真君、好きだった」と言って泣き出すけど、これをどうにかできるわけもなく。

 泣き止むと「帰らないと」と言って、バッグを背負い部屋を出ようとするが。


「やっぱり、無理」


 涙を流しながら抱き着いてきて、そのあとは流れに身を任せる感じになった。


 やっちまった。とんだ失態と思うも許可は出てる。いや、出てるからって、これは無いよなあ。

 心陽、やっぱり可愛らしいんだよ。

 でもな、綾乃が居て心陽と縁ができた。そして綾乃が居て陽奈子さんと縁ができた。綾乃無しには何も始まらなかった、そう考えると綾乃抜きの人生は俺の中には無い。

 心陽には今後前を向いてもらいたい。きっと良縁があると信じて。


 駅まで送り去り際に「今からは、ただの友だち」と言って、笑顔を見せ手を振りホームに消えて行った。

 心が痛い。出会いは楽しいが別れは悲しい。ましてや好意を寄せてくれた相手だ。


 もうひとり、陽奈子さんだが、まだ先の話だな。

 無事合格すれば抱ける、なんて欲望全開ではあるが、やっぱり寂しさを感じるんだろうな。


 翌日学校に向かうべく、電車に乗ると。


「佑真君、おはよう」


 妙に元気な心陽が居る。満面の笑みを見せ腕を取り「昨日の無し」とか言ってるぞ。

 おい、あれで終わりのはずだろ。


「やっぱり無理だよね。好きだから」


 笑顔で「再宣言して奪う」と息巻いてる。いや、俺の気持ち。

 でも、なんか可愛い。

 学校最寄り駅の改札前。綾乃が居て腕を組む俺を見て。


「浮気者!」


     ―― おしまい ――

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学園の頂点に君臨するお嬢様は俺にだけ超デレるようだ 鎔ゆう @Birman

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