Sid.94 帰国後は結果報告

 帰国すると出迎える俺の母さんと綾乃の母親だ。

 それぞれの父親は来ないし、心陽も来てないし陽奈子さんも。

 帰る前に自分の気持ちを伝えたからな。改めて伝えるつもりだが、心陽は相当ショックを受けたんだろう。待っていたのに裏切られた、そう考えたかもしれない。

 陽奈子さんは明日にも家に来るそうだ。元より自分と交際なんて、考えてもいなかったとか。本心は知らんけど。


「久しぶりの日本だね」

「日本人の方がマナーがいいなあ」

「自分は自分、人は人だからだよ」

「まあそうみたいだけど」


 外国人は自己をしっかり持っている。自己主張が激し過ぎて、衝突し易そうだけどな。実際、口論になることも多いが、互いに主張することで着地点も探す。

 日本人は和を貴ぶ。その違いがマナーに現れるのかもしれんけど。無用な衝突を避ける国民性かもしれん。そのせいで着地点も曖昧なままだ。


 空港ロビーで親と合流すると「あんた、ずいぶん大人びたね」だそうで。

 綾乃は可愛らしくなったと言われてる。

 こっそり綾乃の母親が「抱いた?」とか聞いてくるし。そうなると頷くしか無いわけで。


「まあ、良かった」

「いいんですか?」

「ずっと煩かったからね」


 綾乃の母親からは「これからが本番だから」と言われた。つまり将来綾乃と結婚するならば、相応のものを得て欲しいってのが親心。

 以前は自信が無さ過ぎて、それを言えば挫けるのが目に見えていた。間違いなく逃げ出して二度と戻らないだろうと。様々なものに背を向け、後ろを向いて全力疾走していた、と見えていたらしい。

 今は自信があるのが見て取れる。だから親としての期待も込めるそうだ。


「いい経験を積んだみたいで、お金を出した甲斐があったわね」


 俺の母さんが恐縮して「本当にこの度は」なんて言ってる。

 綾乃の家に育ててもらって、一生頭が上がらないとか。足を向けて寝られないとも。


「気にしなくていいですよ」

「でも、お世話になりっ放しで」

「娘が惚れた相手です。育て甲斐もありますよ」


 親同士の会話は聞くに堪えん。

 車に乗ると、うちまで送ってくれるそうだ。かなり遠回りになるんだがな。


「いいのよ。綾乃が佑真君と離れたがらないのだから」


 やっぱり恐縮する母さんだな。

 ナビシートに座り「本当に何から何までお世話になりまして」なんて言ってるし。気にするなと言う綾乃の母親だ。

 俺と綾乃が留学している間、時折、母さんが鴻池家にお邪魔していたらしい。

 うちに招くことはしなかったとか。ぼろ屋に招いても居心地悪かろうってことで。あの家じゃなあ。持て成しなんて不可能だし。


 後席でべたべたする綾乃が居る。


「ねえ」

「なんだ?」

「泊まりに来てよ」


 もうこうなるとなあ。


「校則で禁止されてる」

「バレないってば」


 そう言う問題じゃない。と言っても聞き入れないし。


「佑真君の家にも泊まりたいな」

「床が抜けるし、あれだ、いろいろ音が漏れる」

「聞かせてもいいんだけど」

「変態め」


 変態上等とか言ってるし。開き直りやがった。

 家に着くと名残惜しそうだな。暫く俺の手を取り撫で回して「泊まって行きたいなあ」とか言ってるよ。

 それでも荷物の片付けや、明日にも学校に行く必要がある。だから今日は素直に帰れと言うと。


「今日は、ってことは明日なら」

「アホか」

「アホじゃ無いもん」

「あのなあ」


 明日には陽奈子さんが来る、と言うと「浮気だ」とか抜かすし。家庭教師としてくるんだ、と言うと「あたしも一緒に」となるし。どうしたものか。

 母親に「無理を言わないの。少ししたら自由にしていいから」と言われ、渋々応じたようだ。

 気持ちが強過ぎるのは相変わらずだ。時々手に余るが、それでも愛らしさを感じる。ずいぶん変わったものだな、俺も。


 翌日、学校に行くのだが、電車内で心陽と合流した。待ち構えていたようだ。

 俺を見て落ち込む姿を見せるが「なんか、収まるところに収まったのかな」と言ってる。

 申し訳ないことした気分だ。


「ごめん。俺が優柔不断過ぎた」

「いいの。だって鴻池さんだよ。あたしじゃ敵うわけ無いもん」

「そんなこと無いんだけどな」

「変な希望持っちゃうから、煽てないで」


 そうなるのか。

 目を見ると涙がな、少しずつ流れてきてるんだよ。本気だったんだよな。俺も少しは気持ちがあったから、半端に接して却って悲しませることになった。


「ひとつくらい、我がまま言ってもいいけど」


 俺の顔を見て「じゃあ、諦めるからエッチして」と言われて困った。

 もっと大事にしろっての。俺なんかにくれる必要無いだろうに。しかし「我がまま聞いてくれるって言った」と言って譲らん。何がそこまでと思わなくもないが。

 後日改めて、としておいた。


 その日の夕方、陽奈子さんが来る。


「変わりましたね。自信を持てたのでしょう」

「少しですけど」


 今も気持ちはあるのか問われ、薄れてしまったと言うと。


「それで良いのです。私とでは幸せになれませんから」

「そんなこと無いと思いますけど」

「いいえ。佑真君には勿体無いですから」


 それこそ俺に勿体無いのが陽奈子さんだと思うけどなあ。優秀だし。

 とりあえず合格までは、みっちり面倒見ますよってことで。


「そう言えば全国模試ですけど」

「ああ、えっとですね」


 全国レベルで言えば、まだまだトップは見えてこなかった、と言うと。


「では更なる底上げを図りましょう」


 達成したら性行為のご褒美は有効だとかで。ただし、綾乃の許可は必須だそうだ。

 言い出せない。体だけの関係もその一回だけ、であってもだ。それは心陽も同じなんだよな。

 でも、陽奈子さんの体はまじで欲しい。俺って肉欲の権化だ。

 だってさあ、凄いんだぜ、揺れ捲る爆乳。試してみたいじゃん。男なら。


 アホだなあ俺。

 微笑みながら「私にとっても記念になるよう、全国トップを目指してくださいね」だそうだ。

 模試でのトップ、なんて言うと大変そうに聞こえるが、実施すれば必ず誰かが一位になる。一日に何時間も勉強してトップを取る、そんな人ばかりではなく、むしろ適度な学習習慣を持つ程度だそうだ。


 久しぶりに会って話をしてみて、やっぱり陽奈子さんには魅力が、なんて思う俺も大概だ。

 この日は報告だけと言うことで、帰り支度する陽奈子さんを駅まで送ることに。


「では、また来週から始めましょう」


 改札前で見送る際「佑真君。魅力が増しましたよ」と笑顔で言っていた。

 変化を見て取れて嬉しいそうだ。

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