Sid.93 三か月の留学は終了

 結論から言おう。

 食われた。


「佑真君とやっと繋がれた」


 全裸で迫りくる綾乃の猛攻に抗いきれず、体を許してしまったわけで。

 かなり大きなブツをぶるぶる云わせ、俺の入浴中に雪崩れ込み襲われたのだ。互いに全裸だからな。隠しようも無いし握られたし。反応しちゃったし。

 体を洗われベッドに引き摺り込まれ、一線を越えるのに時間は要らなかった。

 実に嬉しそうな反面「痛いんだね」だそうで。俺は痛くない。自分でするのとは比較にならんかった。


 一度やってしまうと歯止めが効かなくなっても困る。と言うことで週一のペースを守ること、とした。

 俺は月に一回を主張したが、それだと留学期間中に三回しかない。週に三回とか抜かしたから、月一を押し通そうとしたのだが。


「佑真君。もう諦めてやり捲ろうよ」

「やらねえんだよ」

「週に二回は?」

「無し」


 ぶーぶー文句が途絶えず。

 しな垂れてきて握ろうとしてきて、拒否すると暴れ出すし。

 周囲に迷惑になると言ったら「スタジオの意味、分かってないんだ」とか言ってる。


「スタジオって」

「防音」

「つまり?」

「大声出しても音が漏れない」


 そのスタジオかよ。

 少々騒いでも迷惑にならず、大声で悶えることも可能だとか。いや、無いから。

 結局、俺が折れに折れて週一となったわけだ。勝ち誇る綾乃の表情が憎らしい。


 留学自体は面倒事も無く、他の留学生たちと交流し、良い環境だったと言えそうだ。綾乃は外国慣れしているのか、どんどん他の留学生と馴染んで、俺が振り回される感じだった。

 ネイティブの発音はなかなか聞き取れず、挙句、訛りがあったりして意味不明なことも。

 英語に関しては綾乃はさすがだったわけだ。


「幼い頃からの英才教育の成果かな」

「日本で?」

「小学生の頃は外国人の友だちも居たよ」


 日本人の男子はクソだったが、外国人の男子は多少まし。積極的過ぎて慣れるのに時間が掛かったとも。あと、異様なノリの良さもあって、疲れることもあったそうだ。

 その辺では日本人が大人しくて、扱いやすさはあるようだ。


 外国人と多く接すると考え方の相違もあって勉強になる。

 黙っていても意思疎通が図れる日本人と異なり、沈黙は損をすることも学べた。まじで損をする。自己主張をしないと埋もれてしまう。

 間違っていても正しくても、とにかく主張するべきはする。にこにこ笑顔で居れば、察してくれるわけでもない。

 気持ち悪いと受け取られるのがオチで。


「ディスカッションは勉強になるなあ」

「なるでしょ。言わないと通じないからね」

「自己主張か。日本じゃ考えられん」


 日本だと主張が強いと叩かれる。それこそ袋叩きだ。出る杭は徹底的に打つ。突出した才能が現れないのも、風変わりな考えが認められないのも、日本人の特性のひとつだ。だから世界に通じなくなる。和を乱す奴は許さない風潮。どこまでも右へ倣え。バカらしい。

 それにしても、全て物怖じしない綾乃が居てこそだった。

 なんか自分の力で、ってのは無くて、綾乃におんぶに抱っこだったけど。ただ、これも初と言うことで大学で留学の機会があれば、次は今回の経験を生かせばいいそうだ。


「最初から上手くなんて行かないから」

「まあそうだけど」

「お父さんがね、海外に人脈があると、それが強みになるって」

「だろうなあ」


 凄く実感できた。日本人同士だと似たような思考、似たような行動に流される。それだと海外では通じない。発想も似たようなものにしかならないし。

 日本が凋落してる原因のひとつだろうなあ。もっと海外に目を向けないと。

 無理やりなグローバルじゃなくて、そこは日本人お得意のアレンジも加えて、だな。


 三か月の留学期間を終えて、帰国する際には綾乃に「胸張った感じがいいよ」と言われた。背筋が伸びて自信を持ってる感じだそうだ。

 短い期間でも外国人と触れ合ったことで、視野が少し広がったのかもしれない。


 そして、俺の心境にも変化が。

 綾乃が愛らしく見えるんだよな。いや、気持ちが向いた。きっと好きだと思う気持ちが出てきたんだろう。

 一緒に居ることで、支えられたことで、綾乃の存在が大きくなったようだ。


「佑真君。結婚」

「まだ先の話だ」

「断らないんだ」

「そう言えばそうだな」


 嬉しそうに腕を絡め寄り添う綾乃が心地良い。

 定期的に家と陽奈子さん、それと心陽に連絡は取っていたが。陽奈子さんへの気持ちは薄れて、心陽への気持ちも微妙になってる。

 俺ってある意味薄情なんだ。

 連絡する際の心陽の言葉には待ってる、ってのが良く伝わってきてた。でも、離れている間に、綾乃と一緒に過ごす間に薄れてしまう。


「俺、薄情なのかな」

「なんで?」

「心陽への気持ちが」

「本気じゃなかったんでしょ」


 ならば普通だと。陽奈子さんへの気持ちはどうかと問われ、そっちも微妙になってると言うと。


「憧れでしか無かったんだよ」

「そうかも」

「お姉さんだし、あたしたちから見れば、凄くしっかりして見える」


 だから憧れる。でも自分が成長して行くと、差が縮まることで気持ちに変化を生じる。当然と言えば当然。


「少し大人になれたんだよ」


 絶対無い、と思っていた綾乃と本気の付き合い。体の結び付きも行く前は、絶対拒否するなんて思っていたのに。

 一度流されると雪崩の如しだな。綾乃が愛しくなってしまうのだから。

 エロい体で迫りやがって。しっかり絆された。


 でも、これで良かったのかもしれない。

 ずっと俺に尽くし続けてきたのは綾乃だ。何を言ってもめげずに傍に居た。突っ撥ねて泣かせて怒らせて、それでも離れることは無かったわけで。

 愛が重過ぎると思うも、今はそれも心地良い。


「あのさ」

「何?」

「俺さ、綾乃のこと、利用してやるなんて思ってた」

「利用してって言ったよ」


 それも込み。利用して利用価値があるなら、どんどん使えと。それで愛してもらえるなら幾らでも利用していいと。

 やっと自分の気持ちが通じて嬉しいそうだ。


「結婚しようね」

「だから早いっての」

「いいじゃん。今年結婚できる年齢になるよ」

「あのなあ、大学卒業してからだ」


 そこは譲らないのかと憤慨してるが、高校生で結婚なんてあり得ん。

 それぞれ社会に出てからでも遅くはない。右も左も分からない子どもが結婚しても、不幸になるだけだっての。


「ってことで」

「佑真君、現実的過ぎる」

「将来を左右するからだ」

「真面目だ」


 じゃあ毎日やろう、じゃねえよ。相変わらずアホだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る