第8話 なりたいけど言っちゃダメ!
ジュリに何を話しましょうかと聞かれたラフィはさっき聞こうと思って聞けなかったダンジョンについてせがむ。
するとジュリは右手の人差し指を顎に当てると「ダンジョンですか」と呟く。
「もしかして話せないこととかあるの?」
「あ、いえ。そうではありません。ただ、私も人に聞いた程度の知識しかないので、先程の魔法と同じ様に誤った情報を教えてしまうのではないかと思いまして……」
「ん~僕は別に気にしないけど」
「ですが」
「だって、この家の中でもジュリしか話し相手がいないんだよ。父様達はいるけど、そんな話を聞いてくれる時間なんかないし……」
「ふふふ、それもそうですね。では……」
暗に放置され話し相手が侍女であるジュリしかいないと言われたことでジュリも例え誤った情報を話してしまったとしてもそれが誰に伝わる訳でもないことが分かる。それならばと自分が伝え聞いているダンジョンについてをラフィに対し絵本を読み聞かせるように面白おかしく話しても問題はないだろうと自己完結したことでゆっくりと話し出す。
曰くダンジョンとはこの世界のあらゆるところにあるらしく、その殆どは地下にあると言われている。殆どと言うのは中には山中の洞窟や、古代遺跡の建物がダンジョン化しているものもあるという。この街の外にもいくつかのダンジョンがあるが、それは地下型で階層もそれほど深くはないと言われているが、実際に最下層まで行った者がいないことから、真相は不明だ。
そしてダンジョン内は地下だから狭いのかと思えば、階層の入口を抜けるとそこは森林だったり平原だったり、中には海が広がっている空間もあるそうだ。だが、一般的には人が三人並んで歩けるくらいの幅の狭い通路が迷路のように入り組んでいる迷宮型が殆どだと言われている。
更に大事なのはもう一つ、ダンジョンには魔物が住み着いていてスクロールやダンジョン内で採れる鉱石や食材を求めて入ってくる冒険者を襲ってくる。そしてその魔物は階層を進むに連れて強くなるのが通常だということ。
例えば、入口に近い階層では魔物が出ることは殆どないが、出て来るのはゴブリン程度の冒険初心者向けの魔物が多いが、その先へと進むとコボルトやオークといった具合に強くなっていく。だが、中には種族特有の進化を遂げた魔物が率いている場合もあるらしく弱いからと言って油断は出来ない。
種族進化についてはゴブリンを例にするとゴブリンからゴブリン
だから弱いからとゴブリンの集団を放置していると、その中から統率力に優れている者が進化を続け、やがてキングへとなる場合があるのでダンジョン内でも地上でもゴブリンの集落を見つけたら、すぐに冒険者ギルドへの連絡と討伐することが大事である。
また、ゴブリンやオークなど繁殖目的で女性を連れ去ることからも見つけたら即殺が冒険者達の間では常識とされている。だがゴブリン単体なら一人でも行けるが殆どのゴブリンはその弱さ故か少なくとも三体ほどの集団で行動するのが習性であるため、油断すると一人では返り討ちにされる場合もある。それにオークの場合は個体での行動が目立つが、その体格は一般男性よりも大きく身長が二メートルを超すのも珍しくはない。またオークはその膂力の強さからも生半可な攻撃力では跳ね返されてしまう為、少なくとも三人以上で対応することが一般的とされている。
「……と、私が知っているのはこの程度ですが」
「……」
「ラフィ様?」
「あ、ごめん。あのね、スクロールってダンジョンで発見されるって聞いたけど、それってどういう風に発見されるの?」
「ああ、そのことは話していませんでしたね。スクロールなどはダンジョン内に放置されている宝箱の中にあるそうですよ」
「宝箱!」
「ええ、ですが……その宝箱の回りには当然の様に魔物がウロついていますから、そう簡単には入手出来ないそうですよ。それと宝箱に擬態する魔物もいるらしいですから」
「え~そうなんだ」
「はい。ですから、冒険者の方も深い場所に行くほど危険度も増すので大変らしいですよ」
「冒険者……」
「はい、そうです。ここでは冒険者と言われる人達が街の周辺で魔物を狩ったり、ダンジョン内でお宝を求めたりと働いています」
「へ~僕もなれるかな?」
「ラフィ様がですか?」
「うん!」
「ん~ラフィ様が冒険者……」
ラフィが冒険者になりたいと言いだしたのでジュリは少し困ってしまう。ジュリが話したことに興味を持ったまではいいが、その好奇心を満たすには冒険者になるしかないと思っているようだ。だが、伯爵家の三男が冒険者になるとなれば話は別だ。確かにラフィは三男である為に嫡子とはなれず、別の貴族家に婿として入るか、法服貴族として宮廷勤めになることが通常とされている。
それにこのことがラミリアにバレたらどうなるかとジュリは一瞬身震いしてしまう。
「どうしたの?」
「ラフィ様、お願いですから……他の方には冒険者になりたいとは言わないで下さい! お願いします!」
「え? え? ジュリ、どうしたの?」
「どうしてもです! お願いしますから!」
ジュリはラフィに縋るように泣きだしてしまったのを見て、ラフィは自分が冒険者になるというのは絶対に口外してはいけないことだと何となく察してしまう。特にラミリアに知られたらと思うとラフィの背筋にヒンヤリとしたものが伝うのだった。
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