第6話 知りたい! 魔法のこと

「ふふふ、ではあちらの方へ行きましょうか」

「うん!」


 ジュリが指差した先には庭園内に用意された休憩所『ガゼボ』である。和風であれば東屋であろうか、その建物は塔の上部の様な形をしており、少し段差を付けた高台の上に立てられている。そして、その下には大人六人が輪になって座れるように椅子が用意されており、中央には小さなテーブルが用意されていた。


 ジュリはラフィを一つの椅子に座らせると、自身も近くの椅子に座り「いいですか」と前置きをしてから話し始める。


「私も一般教養としての知識しかありませんので、私が言うことが全てではないと言うことは了承してもらえますか」

「うん、いいよ。それでそれで!」

「ふぅ~ホントに魔法が見たいんですね。では、ケガしないように『ウォーター』からお見せしますね」

「うん!」

「では……『ウォーター』……と、こんな感じですが……どうでしょうかガッカリされました?」

「あ……そんなことはないよ」


 ジュリは両手で掬うような形にすると『ウォーター』を唱えると、その両手の平からちょろちょろと水が溢れ出す。だが、それは本当に水が手の平から溢れ出るだけで、ドバッとかいう感じでもなくちょろちょろとしか出てこないのを見てラフィがガッカリしていたように見えたのでジュリも申し訳なさそうにしている。


「ラフィ様、これは生活魔法の一部です。なのでラフィ様が思われているような敵や魔物を攻撃出来る威力はありません。期待させてしまいましたね」

「そ、そんなことはないよ。でもさ、その生活魔法って誰でも使えるの?」

「ふふふ、興味津々ですね」

「だって、魔法だよ!」

「まあ、そうですよね。中には適正がないと魔法を使えない人もいるのですから」

「え? じゃあ、そういう人はその生活魔法も使えないってことなの?」

「ええ、そうなります。ご心配ですか?」

「ちょっと……」

「ふふふ、その辺りはご心配は不要だと思いますよ。なんせ伯爵家なんですから」

「ん? それはどういうことなの?」

「まだ、伯爵様からはお聞きになっていないのですか?」

「えっと、まだ教えてもらってないけど……」

「そうなのですね。では、僭越ながら私から……」

「うん!」

「ふふふ、いいですか……」


 魔法に興味津々なラフィに対しジュリはゆっくりと話し始める。まず、ラフィの生家でもある『ティグリア伯爵家』は代々魔法使いを輩出してきた家柄であることから、ラフィが魔法を使えないということはないだろうと言うことだったが、ラフィは魔法神とも言うべきサリアの加護持ちなので『魔法を使える』ことは確信しているので魔法を使えるかどうかの心配はしていない。ただ一般教養として知っておくべきだろうとジュリの話を黙って聞いている。


「そして生活魔法についてですが……」


 続いてジュリは生活魔法について話し始める。ジュリが説明してくれたのは生活魔法を覚えるにはまず教会に行き対価を払い、その場で司祭から生活魔法を授けて貰うという。だが、ここで魔法に対し適正がない場合は生活魔法を覚えることは出来ない。しかも払った対価を返してもらうことも出来ずにそのまま帰される。従って対価を惜しむ人は生活魔法を覚えたいが『もし使えなかったら』という思いが拭えないため、生活水準が低い一般家庭では生活魔法を取得するまでのハードルが高くなってしまう。だが、ジュリのように貴族家に侍女として働く場合は、勤め先の貴族が対価を支払い生活魔法を授けさせる場合が殆どだと言う。なぜならば、生活魔法が使えるか否かで家事の出来具合が左右されるかららしい。それに『貴族の義務ノブレス・オブリージュ』としても当然だということも関係している。


「じゃあ、他の魔法はどうなの?」

「他の魔法と言うと攻撃系とかですか」

「そう、ソレ!」

「ふふふ、それはですね……」


 ラフィが生活魔法以外の魔法はどうやって覚えるのかとジュリに問い掛けると、ジュリが話し出す。曰く魔法は産まれた時に持っている場合もあるが、持っていない場合には『スクロール』を取得することで覚えると。では、そのスクロールとはとなり、続けて説明されたのはそのスクロールを広げて読み取ることで魔法を覚え、スクロールは消失する。だが、ここでも魔法適正がない場合はただスクロールが消失するだけである。では、そのスクロールはどこで入手されるのかと言えば、魔法ギルドで売り買いされているらしい。


 魔法の種類、属性としては『水』『火』『土』『風』『光』『闇』『時空』の七つがあるが、時空魔法は既に遺失した魔法なため、現時点での使用者は誰もいない。また聖属性でもある光魔法の使い手は光魔法が使えると判明した時点で教会へと招聘される為、教会所属者以外での使用は基本認められていないことになる。また、闇魔法も呪術などに使用される為、例え持っていたとしても口外することはないと言われている。


 では、スクロールとは何かと言うとその魔法を所持している者が、魔法紙と呼ばれるスクロール専用の紙に特殊なインクを用いて自身が持つ魔法を魔法陣へと書き写す。そして、そのスクロールに書かれた魔法陣を読み取ることで脳内へと魔法陣が転写され、その魔法が使えるようになると説明された。


「へ~魔法を覚えるにも大変なんだね」

「そうですよ。ですが、火球ファイアボールの様な初歩的な魔法は安価で買えますが、それ以上に威力や効果を高めたい場合には更に高価なスクロールが必要となります。ですから、冒険者の間ではダンジョンの中でスクロールを見つけようとする者もたくさんいるそうです」

「え? ダンジョン?」

「はい、ダンジョンです。あら、また興味があるようですね」

「うん!」

「ふふふ、残念ですが時間切れの様です」

「え?」


 ジュリの視線の先にはラミリアが立っており、ラフィに向かって手招きをしていたのだった。



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