ある駅の過去

口羽龍

ある駅の過去

 順平(じゅんぺい)は東京に住む小学生。中心部に近いところに住んでいて、両親とマンションに暮らしている。夏休み真っただ中で、順平は宿題にテレビゲームに、地区水泳にと、夏休みを楽しんでいる。


 順平は地区水泳帰りで、同じ日に地区水泳を楽しんでいた将(まさる)と共に家に帰っていた。2人は楽しそうな表情だ。まだまだ夏休みは続く。夏休みは何をしよう。長いからいろいろ考えられる。


「今日の地区水泳、楽しかったね」

「うん」


 順平は人が行きかう都会を歩いていた。この時期は夏休みで、多くの人々が行き交っていた。中には、外国人観光客の姿もある。とても賑やかな、夏の日の東京だ。


「盆休みはどうするの?」

「長野に行こうかと思ってる。順平くんは?」


 将は笑みを浮かべている。長野には実家にあって、盆休みや年末年始になると長野に帰省していて、今年もそのようだ。順平にその予定はなく、帰るのは年末年始ぐらいだ。


「特に決めてないよ」

「そっか」


 だが、順平は何も決めていない。ただ、いつものように東京の名所を巡るだけだ。だけど、いつかどこか遠いところに行ってみたいな。


「毎日暑いね」

「うん」


 毎日暑い日々が続いている。こんな日はアイスを食べたい気分だ。帰ったらアイスを食べたいな。


「帰ったらアイス食べよっかな」


 と、2人はコンビニの前を通り過ぎた。その時、2人は思った。コンビニでアイスを買ってから帰ろう。


「途中で買ってこうよ」

「そうだね」


 2人はコンビニに立ち寄る事にした。コンビニの中はとても涼しい。まるで天国のようだ。コンビニには何人かの客がいて、立ち読みをしたり、商品を見ている。


 2人はアイスを買って、レジに向かった。レジには1人が並んでいる。その男は、外国人観光客のようだ。


 1分も経たないうちに、順番が回ってきた。目の前には店員の女性がいる。


「いらっしゃいませ」


 2人はアイスを差し出した。会計は順平がする。


「2点で253円です」


 順平はお金を出した。それを預かった店員はレジを操作し始める。


「ありがとうございます。またよろしくお願いします」


 2人は外に出た。帰り道で2人はアイスを食べ始めた。アイスを食べていると、暑さなんて吹っ飛ぶ。食べている2人は笑みを浮かべている。


「おいしい!」

「暑さなんて吹っ飛ぶよ」

「確かに!」


 歩いているうちに、T字路に差し掛かった。ここで順平と将は別れる。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ!」


 順平と将は別れた。これからは1人で帰っていく。気をつけて帰らないと。変な人に目を付けられてはいけない。


「さてと、今日も疲れたな。帰ったらゲームだ」


 順平は帰り道を歩いていた。あと数分で家に着く。もうすぐ家に帰れる。それだけで気持ちが高ぶる。どうしてだろう。


 順平はJRの高架下に差し掛かった。高架線を10両編成の長い通勤電車が通り過ぎる。通勤電車には多くの人が乗っている。それを見て、順平は思った。いつは僕もこれに乗って通学、または通勤をしなければならないんだろうか?


 と、順平は高架下で何かの音が聞こえるのが気になった。その先は立ち入り禁止で、普段は何にも音がしないのに。何をやっているんだろう。順平は気になった。


「ん? 何だろう」


 順平はその音が聞こえる階段を上り始めた。その階段は古くて、ほこりだらけだ。もう何年も使っていないようだ。いつ頃、使われなくなったんだろう。とても気になる。


「この辺りに駅なかったよな」


 順平は思った。この辺りには駅があると聞いた事がない。だけど、どこか駅らしい雰囲気だ。その先には何があるんだろう。順平は興味の赴くままに先に向かった。


 階段の先には、ホームがある。だが、そのホームは古めかしくて、何年も前から回収されていないようだ。駅名票が右書きだ。


「ホーム・・・」


 と、ホームには何人かの乗客がいる。だが、彼らはどこかハイカラな服を着ている。一体ここはいつの時代だろう。まるでタイムスリップしたようだ。


「誰だろう」


 と、ホームに電車がやってきた。その電車は単行だ。都内では、今では都電荒川線でしか見ないような両数だ。


「古めかしい電車だなー」


 突然、大きな地響きが起きた。待っていた人々はうずくまり、驚いている。順平も驚いている。まさか、地震が起きるとは。しかも、かなり大きい。


「な、なんだ?」

「地震だ!」


 周りの人が辺りを見渡して、パニックになっている。何が起こっているんだろう。気になって、順平が顔を上げると、辺りが炎で包まれている。まるで空襲が起きたような光景だ。


「えっ、えっ、炎に包まれてる!」


 そして、次に広がったのは、駅員が何人か集まって、何かを焼いている光景だ。駅員は何をしているんだろう。彼らはとても寂しそうな表情だ。


「今度は何?」


 順平は首をかしげた。今度はどんな光景だろう。全く想像がつかない。


「何かが焼かれてる。何だろう」


 ふと、順平は足元を見た。そこには死体が転がっている。そして、焼かれているものをよく見ると、人の腕がある。死体を焼いてるようだ。今さっきの地震で大量の人々が死に、それらをここで焼いているんだろうか?


「な、なんだ? し、死体?」

「おい、起きろ! 順平、起きろ!」


 と、順平は父の声で目を覚ました。どうやらホームの跡で寝ていたようだ。まさか、ホームの跡で寝ていたとは。全く気付かなかったな。


「こ、ここは?」

「中世川という駅があった場所だよ」


 父は中世川駅の事を知っている。これは父の父、つまり順平の祖父から聞いた話だ。ここにはかつて中世川という駅があった。中世川は開業当時はターミナル駅で、大きくて立派な赤レンガ造りの駅があったという。だが、東京まで路線が伸び、乗客が減少した。そして、関東大震災で駅舎は焼失した。ホームでは関東大震災の死者が焼かれたという。その後、中世川駅の駅舎は再建されたものの、かつてとは比べ物にならないほど簡素だったという。その後、乗客の減少により、中世川駅は戦前に廃止。駅舎は解体されたが、ホームはそのまま残っているという。


「中世川?」

「ここに昔あった駅なんだけどな。戦前に廃止したんだ」


 じゃあ、あの時見たのは中世川駅の幻だったんだ。だとすると、あれは中世川駅で起こった悲しい出来事の夢だろうか?


「まさか、あの夢は・・・」

「どうしたの?」


 それを聞いて、父は驚いた。まさか、この中世川で起こった悲劇を夢で見てしまったんだろうか?


「地震に遭ったり、死体が焼かれる夢を見たんだ」

「えっ!? この駅ではこんな事があったんだよ」


 やはりその夢を見てしまうとは。ここには関東大震災で死んで、焼かれた人々の霊がいて、ここに来るとこのような夢を見るという。


「そんな・・・」


 順平は開いた口がふさがらなかった。こんな悲劇があったなんて。そして、今年で関東大震災が起こってからちょうど100年になる。もう忘れ去られているけど、その出来事がきっかけで、9月1日は防災の日になったという。だけど、防災の日がこうなった理由は知ってほしいな。


「調べてみるかい?」

「うん」


 こうして、2人は家に帰っていった。もうこんな所に行きたくないな。またあんな夢を見たくないから。




 家に帰ってきた順平は、父から中世川駅の事について聞いた。その資料は、祖父が残していたものだ。祖父の父、つまり順平の曽祖父は、中世川駅に勤務していて、廃止の時にもここで仕事をしていたという。まさか自分の先祖にこんな人がいたとは。驚きを隠せない。


「これが、中世川駅?」


 順平は、白黒の写真にくぎ付けになった。こんなに立派な駅だったとは。まるで東京駅のようだ。東京駅のようなターミナル駅だから、こんなに立派だったのかな?


「うん。かつては終点で、大きな駅だったんだけど、途中駅になって、乗客が減少したんだ。そして、関東大震災でこんなに小さな駅になったんだ」


 父は寂しそうな表情だ。あっという間に栄光が去っていき、あっという間に廃止されてしまった。まるで盛者必衰があっという間に来たようだ。


「そうなんだ」


 順平はその話に感心していた。自分が住んでいるマンションの近くに、こんな数奇な運命をたどった駅があったなんて。これは自由研究のネタになるかもしれない。もっと調べてみよう。

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