第33話 陽炎祭閉幕
多くを回れたわけではないけど、陽炎祭が閉幕するまでの一時間を、胡桃と一緒に思う存分楽しむことが出来たと思う。どこを回るか、何カ所回れるかももちろん大事だけど、何よりも大切なのは、誰と一緒に楽しむかなのだと強く感じた。そういう意味では、とても濃い時間が過ごせたのではないだろうか。
印象深かった陽炎祭も、間もなく終わりを迎えようとしている。
全ての撤収作業が終わった後、全日制、定時制を問わず、最後まで作業に参加していた生徒たちが中庭へと集まり、細やかな解散式が執り行われることとなった。陽炎祭には後夜祭が存在しないが、その代わり、最後まで残った生徒で集合し、先生方が用意してくださったキンキンに冷えた飲み物で乾杯するのが、定番の流れだそうだ。
「皆さんのおかげで、今年度の陽炎祭も無事に閉幕を迎えることが出来ました。本日はお疲れ様でした! 乾杯!」
陽炎祭の実行委員長を務めた、全日制の生徒会長である
「お疲れ、胡桃、猪口くん。無事仲直り出来たようで何より」
「長丁場だったけど、その分最高の一杯だな」
同じく最後まで残っていた風花さんと楠見くんとも乾杯する。二人も本来は午前中で仕事が終わりだったのだけど、どうせならお祭りを最後まで楽しみたいと、撤収作業まで残っていた。
「やあやあ、楽しくやってるか黎人」
「初めての陽炎祭だったけど、楽しかったね」
所属する部活の関係者との懇談を終えた、風雅と東さんが僕の元へと合流した。校舎に戻った後、胡桃と最初に見に行ったのは、東さんも所属する演劇部の、陽炎祭での最終公演だった。僕たちの陽炎祭の思い出として、東さんの芝居もしっかりと記憶に刻まれている。
そして、あまり姿を見せない中でも、きっと僕のためにお節介を焼いてくれたのであろう功労者。
「胡桃と銅先輩を繋いでくれたの、風雅だろ?」
「さて? 俺は今日も忙しなく動き回っていたから何のことやら」
なるほど。あくまでもそのスタンスか。それでも僕は。
「人違いだとしても、僕は君に感謝するよ。ありがとう、親友」
「……は、恥ずかしいからそういうのやめろ。とりあえず、陽炎祭に乾杯」
「ああ、乾杯」
照れくさそうな風雅の表情は新鮮だ。それを肴に飲み物も進む。
中庭の様子を見回してみると、数名の生徒と談笑する銅先輩と目が合ったので、会釈を交わした。後で先輩にもお礼を言わないとな。
よく見ると先輩と談笑する面子は、瀬尾先輩、羽里先輩、それとヴァンパイア先輩(そういえば一人だけ名前を聞いていなかった)。スタンプの番人をしていた三人のようだ。
「色々あったけど、楽しい文化祭だったね。黎人」
「うん。こうして最後は胡桃と一緒に過ごせたしね」
大好きな胡桃と一緒に、無事に最後まで陽炎祭を楽しむことが出来た。途中、危機には見舞われたけど、最後はこうして二人で笑顔で締めくくることが出来た。終わり良ければ総て良し、の一言でまとめるつもりはないけど、最後に笑顔になれた。これはとても大切なことだと思う。
「黎人。これからも一緒に謎解きしようね」
「いいの? だって僕は今回」
「それとこれとは話が別。黎人と一緒に謎解きするのは私も楽しいもの」
何て眩しい笑顔と優しい言葉なのだろう。普段の運動不足が災いして、この二日間でかなり披露していたけど、そんな疲れも一瞬で吹っ飛んだ。
「胡桃。もう一回乾杯しよう」
「何に?」
「謎解きコンビの再結成に」
「いいね」
「乾杯!」
「乾杯!」
僕らは再び、お互いのペットボトルを触れあわせた。
コーヒー牛乳とチョコレート 了
コーヒー牛乳とチョコレート 湖城マコト @makoto3
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