五十年に一度の奇祭、陸の孤島と化した村、伝説をなぞるような異変の数々。 怪奇小説ファンに嬉しいお約束を押さえつつ、遊びの氷鬼の特性とゾンビを掛け合わせた、新しい可能性を見せてくれるホラーです。 文章力、構成力も高く、前提が次々と覆されるミステリ要素も楽しく読めました。翻弄されながら必死で争う人々の切実さが、底冷えする寒冷地の極限の状況で際立つのも魅力的でした。 土着ホラーとゾンビ映画の融合など、定番と斬新の双方を押さえた、自信を持って薦めたい作品です。

（特別審査員・木古おうみ）

ゾンビ以上に恐ろしい。
死ねばゾンビになるのは同じだが、作中に登場するゾンビに該当する氷鬼が恐ろしい。
元は人間なのは、違いないが、ゾンビが動く死体なら、これは動く氷像である。
しかも噛みつきひっかきと原始的な攻撃ではなく、スキー用具やバスと生前関りある道具や乗り物で殺しに来るのだから恐ろしい。
加えてその元凶が氷ではなく生きた人間に憑依しているときた。
一体誰なのか、よくよく読み返してみればヒントがあるときた。
あー確かにそうである。納得できてしまう。
何故、この村だけ悪霊が現れる理由もまた。

　５０年に一度執り行われる奇祭のために、村へ戻る主人公と、帰る途中で一緒になったスキーツアーの４人組。そして途中からバスに乗った地元の弟分の高校生。描写が少しずつホラーな雰囲気になっていく予兆。まだ導入部ですが、惨劇に繋がる確かな予感がします。