存在しないアニメがある 2

「ここか」


 翌日、東たちは件の投稿者の元へ向かった。


「うーわー、かなり年季入ってますねぇー」

「そうだな、こういう団地ってお前くらいの年齢だとあんま見慣れないんじゃないか?」

「いや、昔ここじゃないですけど団地に住んでたことがあって、似ててなんかノスタルジックな気分です」


 東たちの訪れた住宅は、随分と寂びれた市営団地だった。元は明るい色だったであろう外壁は、長い年月で剝がれ落ち見る影もない。更に、ひび割れや点滅を繰り返す蛍光灯なども目立つ。市の設備としては当然の点検が行われているようにも思えない。


「ほんと懐かしいなぁ。保護とか受けてるおじいちゃんおばあちゃんが多くて、よくお菓子とかもらってたんですよね」

「まだ物価とか安かった時代か、ならそういう事もあるよな。まぁ、仮にも役所勤めなら他所の子に保護から買ったりなんだりするなと言っておくべきなんだろうがな」

「それはそうですね。子供なりに、このお菓子の元になってるのって……?とは思ってましたし」


 そうこうしているうちに、投稿者の住む4号棟へたどり着く。今にも崩れ落ちそうな階段をひっそりと慎重に上る。4階建ての最上階、4-5東。そこが、投稿者の住む部屋だ。


 ピンポーン

 鳴らしてみても反応が無い。


「おかしいな、この時間に向かうことは伝えてあるんだが」

「確か、在宅で働かれている方なんですよね。だったら、多少生活が自分たちとズレていてもおかしくはな……」

「あー、お前相手の前で絶対似たようなこと言うなよ。信用問題にかかわる」

「はい?そういえば、先輩の苗字って何でしたっけ?私って、人の名前覚えるの苦手で」

「お前さぁ、今聞くかね。え、3、4カ月は一緒に仕事してたよな。そもそも、異動の日に自己紹介したはずだが?」

「普通に、聞き逃してました。なんで、ずっと先輩と呼ぶことで逃げてました」

「はぁ、言われてみれば俺ここまでずっと先輩としか言われてねぇな。まぁ、聞いてなかったもんはしょうがない。いいか、もうこの一回だけだからな。ちゃんと覚えとけよ。俺の名前は、八木奏やぎかなで

「はい、ばっちり覚えました。八木先輩」

「うん、よろしい」


 ピンポーン、ピンポーン

 再度、二度ほど鳴らすとバタバタと音がしてガチャリとドアが開いた。


「あ、すみません。チャイムが少し壊れてまして、続けて2回鳴らさないと部屋まで届かないんですよ」

「あぁ、そうでしたか。ごめんなさい、役所としても市民の方々の生活に目を向けるべきなのでしょうが、中々に難しくて。点検等の頻度も上げられなくて申し訳ない限りです。改めまして、担当の八木と」

「東です」

「はい、よろしくお願いします。ただ、あまり役には立てないかもしれませんが」


 そこまで言って、投稿者の男は動きを止めた。パチパチと瞬きをして、再び口を開く。


「もし人違いだったら申し訳ないんですが、東さんの下の名前って里ですか?」

「え、あぁはい。私の下の名前は里ですが。失礼ながら覚えていなくて、どこかで会ったことがありますか?」

「あぁ、いえ人違いだったみたいです。急に変なこと言ってごめんなさい」


 お世辞にも綺麗とはいえなくて申し訳ないんですがと、男は部屋の中へと二人を案内する。その部屋の匂いを、東はどこかで嗅いだことのある匂いだと思った。どこだったかと記憶を遡る。


 そして、思い出す。


「あーーーーーーーーーーーーーーっ、思い出した!!!」

「東、お前さぁ人様の家で叫ぶのは流石にダメだと思う」

「ごめんなさい、虫とかいました?男の一人暮らしだとそこまで気が回らなくて」


 そうじゃなくてと、東は男へと向き直る。


「思い出したよ。久しぶりだね。ねぇ、悠希兄ちゃん」

「やっぱり、里ちゃんだよね。焦ったぁ、ほんとに人違いだったらオレ気持ち悪いヤツじゃんね」


 昔話に花を咲かせる二人を横目に、八木は思った。


 東、お前バリバリの関係者じゃん。被害者と知り合いなんじゃん。

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某美少女アニメの聖地が地元にあるんだが、変な噂が出始めた 柊アメヤ @kukakikakagura

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