第一章

存在しないアニメがある 1

 アニメやらドラマやらに使われた、元ネタにされたそういう場所、物をと呼ぶ。


 そして、聖地とされた場所の多くは観光地になる。


 そんな貴重な観光資源を、国は県は市町村は無視しない、できないのだ。


 ここは、静岡県西部の観光課。他と変わらず、忙しいはずなのだが?


 今、ある問題を抱えていた。


 それは、


 しかも、観測できる側とそうでない側がいる。


 そして、これが厄介なことに現担当者である東里あずま さとは、そうでない側の人間なのだ。


「ねぇ、先輩。これって、霊障案件ですよね。なら、私たちがやることはないんじゃ?」

「バカ言え、お前。霊障は、。今回のは、該当しないんだよ」

「うわーん、せっかく同期の中でも一足先に出世コース!って思ってたのに。体のいい厄介払いじゃないですか」

「いや、お前はよくやってるよ。若者世代として、SNSの使い方も上手いし。ただ、これを解決しないことにはその頑張りも水の泡なんだが」


 そう、この奇妙な現象は観光客をも遠ざけているのだ。


「現状分かっている範囲を、まとめたので先輩確認してもらえませんか」

「分かった、足りないところは補足する」


『存在しないアニメ』

 ・1クール完結のオリジナルアニメシリーズ

 ・全話にわたって県西部モチーフだったとする人と、一話だけとする人がいる

 ・視えた人は、ファンアートやコスプレといった二次創作物も観測している

 ・視えた人曰く有名な配信サービスすべてで視聴可能

 ・作品の放映時期で検索可能な場合、2010年代後半か2018~2019との表記あり

 ・作品内で訪れた箇所に、霊的存在として表れている

 ・黒髪で長髪のキャラクターか着ぐるみ、この二種が現在報告されている

 ・着ぐるみは、等身が多い(一部報告に、二頭身あり)

 ・キャラクターは、登場人物の顔が混ざったようなものとの報告もあり


 補足

 ・2021年から観測され始め、報告数そして被害は少ないものだった

 ・そのため、対策難度は低く様子見状態だった

 ・2023年に入り、報告数急増

 ・観測できた者にのみ影響があったが、その周辺への被害も確認済み

 ・現在、視えた人間による伝聞の書き起こしと視えたが視えなかった人間によるブログの1記事が出回っている


「とりあえず、こんなとこですかね」

「そうだな」


 ホワイトボードへひとまずまとめてみる。みたはいいものの、ここからどう動けばいいか皆目見当もつかない。


「あれ、でも今年から周辺被害も確認済みってことはやっぱり霊障案件?」

「そう思いたいのも分からんが、ちょっとばかり違くてな」


 そう言うと、先輩と呼ばれている男は再びホワイトボードへ向き直る。


『霊障案件とは、区別なくその被害にあっているもの』


『被害者に何らかの区分けがされているものは、霊障案件としない』


『非霊障案件被害者の周辺被害は、非霊障案件』


 以上の3件を書き加える。


「つまりどういうことです?」

「視えない側って、本当に理解できてないんだな」


 更に書き加える。


『被害者に一定の条件がある場合は、その周辺人物は満たしているものとする』


「被害者とは何の関わりもない、面識もない奴が被害にあってない限りは等しく非霊障案件なんだよ。分かったか」

「何となく分かった気がします」

「よろしい」

「あれ、何で先輩はそんなに詳しいんですか?元々それ系の担当だった訳じゃないですよね」

「昔、いろいろあったんだよ。いろいろな」


 ほう、と東は頷く。役所仕事をしていると、中々に突っ込みづらい方も多い。そういう時は、なにも言わないのが一番いいのだ。


「明日、件のブログ投稿者に会いに行くか」

「会いに行って、変わることあります?」

「変わる変わらない問わず、動かないと上からやいのやいの言われるからな」

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