噂の着ぐるみ
着ぐるみ、それは夢のある物。
俺みたいなヒトになり切れなかった存在は、あこがれてやまないもの。
ガワさえあれば、誰とだって話せる。
そのはずだった。
本当にヒトではないアレを見るまでは。
その日は、遊園地を借りて行われるコスプレイベントに参加していた。
俺含む着ぐるみレイヤーってのは、ほとんどが等身のコスプレをすることが多い。
だから、物珍しくて。
つい、話しかけちまった。
二頭身の着ぐるみに。
ところで、二頭身着ぐるみで何を想像する?
大体が、公式的なイベントに使われている画じゃねぇかな。
俺もそう。
そういうのって、手助けするスタッフもいるもんだよな。
ソレもそうで、側に手助けする相方みたいなのがいた。
それだから、俺は気づけなかった。
最初は、二頭身って珍しいですねみたいなことを尋ねた気がする。
若干戸惑う様子を見せたから、あっ失敗したなって思った。
10秒くらいの沈黙の後、相方に声を掛けられた。
「すいません。こういったイベントが初めてのものだから、私たち一同戸惑っちゃって」
「そうですよね、急に話しかけてごめんなさい」
「いえいえ、話しかけてもらえて嬉しいです。自分たちがいることの証明になるから。そもそも、どうして声を?」
「あー、二頭身ってのが珍しかったからですね。着ぐるみレイヤーって、自分みたいに等身が多いんで」
「あぁ、それで」
「はい、それにしても完成度高いですね。なんて作品なんですか?」
それで、作品名を教えてもらったんだ。ってね。
帰ったら、見てみますねなんて言って解散した。
でもな、調べてみても何も出ないんだ。
大手配信サービスで見れますよって、言われて検索しても何一つ出てこない。
仕方なしに、検索エンジンでも調べてみた。
そしたら、出てきたんだ。
存在しないアニメとして。
特徴は、視える人とそうでない人がいること。アニメシリーズを完走した人から、広がっていくこと。ファンアートやコスプレ写真などを確認できるが、視えない人の場合はエラーメッセージが表示されること。
この辺りまで調べて俺は、電源を消した。
疲れから見えた幻だと思おうと、寝ようとした。
その日の夢は、今でも覚えてる。
赤い彼岸花が咲いた河原に、相方によく似た女が座っていてこう呟いている。
「視えたのでしょう。なのになぜ、広げてくださらないの?邪魔してるのね、マモリガミ。あぁ、嫌になる。生んだ癖に責任を取らない、持たないのだもの」
何を言ってるか、分からなかった。
「離してあげるわ。広げてくれないのなら、いらないもの。でもね、視える人に伝えて頂戴。そうしなきゃ、マモリガミを喰べるわ。嫌でしょう。あなた、カゾクが大事なのに」
何を言ってるか、分かってしまった。
コレは、俺のカゾクを取れる立場にいるのだと。
やめてくれ、そう願っても口も何も動かない。
「帰すわ」
目が覚める。
いつもと変わらない。全部夢だったのだと、壁掛け時計を見る。
ゾッとした。
お札が破れている。
破れるはずのないものが。
新しいものに、張り替える間はずっと怯えていた。
こういう時にクルものだから。
でも、来なかった。わざわざ行くまでもないと思われている。
伝えなければ、終わらない。
なぁ、これを見てる中に視えた奴はいないか?
いないか?
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