000、なにはづに咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花
ボランティア部の紹介で、柿本さん梨壺さんと知り合った。
柿本さんと梨壺さんは学生時代の同級生同士だが、卒業後四十年の同窓会で再会して、映画作りを始めたらしい。二人とも映画好きというだけで、映像に全く関係のない職種だったため、右も左も分からないところからのスタートだった。パソコン教室に通ったり、知人に教えを乞うたりしている中で、近隣の大学で映画関係の活動をしている縁でうちを紹介されたらしい。
映像研究会といっても、映画好きがだらだら集まるだけで、映像製作は申し訳程度にしかしていない。
「百物語をモチーフにホラー映画を作っています」
活動内容を問われて、そう答えた。
「面白そうだな。それでは僕らは百人一首の愛の歌をモチーフにして、ショートムービーを作っていこう」
柿本さんはそう言った。梨壺さんもテーマがあった方が脚本を作りやすいと言って乗り気だ。
やめといた方がいい。内心そう思ったが、口には出さなかった。百話撮り切る前に寿命がきちゃいますよ。
現に、うちの映研も先代が始めた百物語だが、年に四本新作を撮ったらよく頑張ったってなもんで、かれこれ六代続いているが、ようやく二十話に至るところだ。
しかし、彼らはパワフルだった。
梨壺さんの書く脚本はどこかで見たことあるようなありきたりな話だし、柿本さんの監督する映画の構成も。けれど、彼らは貪欲に映画製作をした。
「僕らには時間がないからね」
と笑う。
彼らの影響を受けたのか、我々の映画製作もいつになく進んだ。三ヶ月で四本も
「百作完成する前に僕らの寿命がきたら、あとは君たちに託すからね」
柿本さんは冗談めかして言う。「脚本はちゃんと用意しとくわ」と梨壺さん。
せっかく百物語が進んだと思ったら、また新たな仕事が増える。
「分かりました。部長責任として、『百物語』も『百人一首』も必ず後輩に継承して完成するようにします」
宣言すると、やんややんやの大喝采。部員は「ぎょえー」と奇声を上げているけれど。
僕には柿本さんたちの気持ちが少し分かる気がした。柿本さんも梨壺さんも独身で子どもがいない。同性愛者の僕もまた子のない人生を歩むだろう。自分の血を繋ぐことはできない。しかし、映画が完成するまでは僕らの思いが継承される。完成したあとも、作品は残り続ける。さすがに永遠とはいかないかもしれないけれど。それはとても心強いことだ。
僕が彼らの思いを継いだみたいに、僕の思いも誰かが引継いでくれれば嬉しい。
もしかしたら、僕らの思いを受継いで、いつか誰かがさらにまた新しい「百」の物語を創るかもしれない。花が散っても、春が来ればまた新しい花が咲くように。そうしてその花を見て、さらに次の花が芽吹くかもしれない。
誰の目にも留まらないかもしれない。けれど、たくさんの花を咲かせれば、その香りはどこか遠くまで届くかもしれない。そう信じて、僕らは百の物語を紡ぐ。
〈了〉
「百」物語――愛のうた 香久山 ゆみ @kaguyamayumi
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