幸せの青い鳥

ツーチ

幸せにしてよ!!


 あたしは今、とある山に来ている。この山に来たのには理由がある。



 「うわぁ。すごい綺麗な景色。ここからの絶景を投稿したらいっぱい「いいな」もらえるかなぁ。……って、ダメダメ!! 今日はそんなことしないって決めてるんだから!」



 振り向いた先に広がる絶景を撮ろうと思わず取り出したスマホをカバンに戻し、あたしは目的地を目指す。






 ♦ ♦ ♦






 「……あっ、ほ、本当にいた」



 山の峠には青い鳥が1匹、仰向けになって寝転んでいた。その鳥は身体を地面の上でくねらせたり、ごろんごろんと身体を回転させている。



 (間違いない……。数年前、クビになったあの青い鳥だ)



 「クビになったワズ……。朝から何も食ってないワズ。腹減ったナウ……」



 地べたに倒れているその青い鳥は何やらぶつぶつと呟いている。あたしは意を決してその奇妙な動きを地べたでしている青い鳥に声をかけることにした。



 「あの……」



 「ん? ……何」



 声をかけるとあの有名な青い鳥はじっとあたしを見つめてきた。その目はうつろであの時のような輝きはなかった。いや、もともと目はなかったから分かんないけど。。



 「あの……青い鳥さんですよね?? あの有名な」



 「あ? ……元有名な、だな」



 青い鳥さんはあたしの顔を見てそうボソッと呟くとすぐに先ほどのように地べたを転がり始めた。



 「あ、あの!! 戻ってきてください……。あ、あたし達……あなたがいなくなって寂しいんです」



 「…………数年も経って寂しいもなにもねぇだろ……。今まで誰も俺を探しになんて来なかったんだからな」



 「そ、それは! ど、どこにいるのか分からなくて……。で、でも!! やっと見つけたんです。この山の峠に地べたに寝転がっている青い鳥がいたって目撃情報を。見つけた人は【多分あの青い鳥だと思うけどヤバいオーラがすごすぎて声掛けれんかった(笑)】って投稿してたけど……その投稿されてたあなたの姿を見て……ここに来ました」



 「………………」



 「お願いします。あたし達のとこに帰ってきてください」



 「俺がいなくたってお前らはやっていけるんだよ。今は無数のSNSがあるんだしな……。俺の役割はもう……終わったんだよ」



 「そんなことないって!! あたし達気がついたの! あなたの大切さに……。ほ、ほらっ!! あなたってその……リ、リモコンみたいなもんじゃない!?」



 「……リモコン??」



 「リモコンってなくても使ってる時には気がつかないじゃない? でも、見当たらないとめちゃくちゃ焦る。ほらっ、エアコンのリモコンが見当たらない時の絶望感といったらもう……ねぇ?」



 「峠に変な女がやって来たワズ」



 「…………え?」



 「俺のことをリモコン呼ばわりしているナウ」



 「これって……」



 「腹減ったからこれから山のふもとのコンビニに買出しに行くナウ」



 「そ、それだよ!!」



 「な、何がだ?」



 「あたしはそんなあなたを探しに来たんだよ。幸せっていうのは「いいな」の数やフォロワーの数なんかで決まるんじゃない!! 今のあなたが言ったみたいに心の底から思ってるクソどうでもいいことをなんとなくボソッっと言うことなんだよね!?」



 「く、クソどうでもいいことって……」



 あたしは感動した。あたし達の世代がSNSを使い始める前の太古のSNSは目の前にいる青い鳥さんが発したみたいにクソどうてもいいことを投稿してたらしい。それを実際に目の前で見た。あたしは今、とても感動している。



 「それがいつからかかしこまったご意見や宣伝の場という自己承認の権化のようなツールになり果てちゃって。……あたしはねぇ、もう疲れたんだよ……。だからあたしは、あなたを探しに来た。あたしの、いや……こんな生きづらさをかかえる世界を救ってくれる幸せの青い鳥を……。あたしもあなたみたいに自分の本当に思ってるどうてもいいことを呟ける人間になりたい!!」



 「…………そうか。そうだな! よし、分かった。俺がお前たちを幸せにしてやる。生まれた時からSNSに触れ続け、心も身体も疲弊しきっちまったお前たちを。誰からも否定されない、誰も否定したりしないどんな欲も介在しない。そんなSNSを俺が作ってやる!!」



 「ありがとう、青い鳥さん♪」



 あたしはそんな青い鳥さんの決意を聞き、山を後にした。



 それから半年程度が過ぎた頃、【ワッテバー】というSNSがリリースされた。その【ワッテバー】というSNSはその他のSNSとは大きく異なっている。

 【ワッテバー】には他のSNSに必ずある「いいな」や「写真投稿」の機能はない。さらに「フォロー」機能も一切装備されていない。そのためお気に入りのアカウントは毎回検索しなくてはならないというどうしようもないカスみたいなSNSだったけど、それが逆に新鮮だと言うことで瞬く間に世界中の若者を中心に浸透していき今では世界で50億人が利用する巨大SNSへと成長した。



 ワッテバーでは「いいな」、「フォロー」機能もなければ返信機能もない。そのため利用者は相手のコメントに対し一切の反応ができない仕様となっている。また、企業や団体での利用が不可であるため広告機能もないのである。



 何故そんなSNSがリリースされたのか、作った者は誰なのか、何が目的なのか。そのすべては謎に包まれている。



 でもあたしは知っている。それがあたし達、SNS世代に憑かれた人を幸せにしてくれる青い鳥さんが作ってくれた贈り物であることを。



 「さぁて、そろそろご飯食べようかな!」



 あたしはいつものようにご飯を食べる前にスマホの【ワッテバー】を開き、投稿する。



 【お昼ご飯食べるナウ!!】



 そしていつものように誰からの反応もない青い鳥さんが羽ばたいている画面を見ながらご飯を食べるのであった。



 「鳥さん、あたしは今、幸せだよ」






 ♦ ♦ ♦






 その後、あの幸せの青い鳥さんが峠のある山の山頂に青い鳥のどでかい看板を設置したらしいけど、夜間にあまりにも神々しく光り続け、景観を損ねるという理由で住民から多くの苦情が寄せられて青い鳥の山頂の看板は速攻で撤去されましたとさ。



 「…………え!?!? 俺の幸せは!?」

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幸せの青い鳥 ツーチ @tsu-chi

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