ヨーヨーとイチゴ飴

梅林 冬実

ヨーヨーとイチゴ飴

「いや 行かない」


どうして素直になれないんだろう

咄嗟にそんな風に答えてしまう

素っ気なく可愛げもなく


今夜の夏祭りに誘ってくれた

一緒に行こうよって誘ってくれた


なのに素直になれなくて


こんなとき

お気に入りの浴衣を選べる子が羨ましい

好きな人と手をつないで

お祭りに行くのと笑顔で

話せる子が羨ましい


私はそんなの全てできないから

「行かない」

って短く答えてそっぽ向いてしまう


ヨーヨー釣りを失敗したら

金魚すくいを失敗したら

買ったたこ焼き落としたら

ガラの悪い人に絡まれたら

イチゴ飴を食べる姿が不格好だったら


どうしよう


そんなことをつい考えてしまう

すんなり

好きな人の胸に飛び込める子が羨ましい

「好き」って気持ちをぎゅっと抱きしめ

好きな人の瞳をそっと覗いて

視線が重なった瞬間

ふわっと微笑むことができる子が羨ましい


好きって気持ちを心の鉄扉に封じ込め

君なんかに関心ないよと素知らぬ顔して

友達とさも楽し気に話したりして


そんな私に何を言うでもなく

君は去っていく

悲しい

悲しくて死にたくなる


素直になれない自分に

微笑むことができない自分に

ヨーヨー釣りヘタクソなんだよねって

自嘲できない自分に

誘ってくれてありがとうって

私も君と行きたかったんだって

一緒にイチゴ飴食べようって

言えない自分に落胆する


あの子はどうしてあんな風に

儚げだけれど強かな

笑みを浮かべられるのだろう

華奢な腕や肩を

惜しみなく見せつけることができるのだろう

あの子に比べて

不格好な指先 逞しい二の腕


女の子らしく生まれたかった

どこか果敢無げな


どうして私なんて誘うの?


そんな軽口を叩く如才なさを

10代の半ばに身に付けている子が羨ましい

私には何にもない


ヨーヨー釣り全敗したって

イチゴ飴を食べる顔が垢ぬけなくたって

「君が好き」って確かな気持ちが

この胸に宿っているのだから


箪笥の奥に仕舞い込んだ浴衣を引っ張り出して

鏡の前で合わせてみるくらいの

屈託のなさが私にもあったなら

今夜は君とヨーヨー釣りをしたり

イチゴ飴を食べたり

空に浮かぶ花火を見つめる君の横顔を

そっと眺めいることができたのかな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヨーヨーとイチゴ飴 梅林 冬実 @umemomosakura333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る