修羅ではなく父として

最後の戦い//ブリーチ

……………………


 ──最後の戦い//ブリーチ



「俺たちはもう終わりだぜ、アーサー」


 TMCセクター13/6にある古びたアパートの一室で土蜘蛛がそう呟く。


「六道は今や分裂して殺し合ってる。俺たちを守ってくれるものは何もない。もう終わりだ。何もかも。クソッタレ」


「まだ終わりじゃない」


 土蜘蛛が当然ながら工業合成の缶ビールを握り潰して呻くのにアーサーが静かにそう言い放った。


「終わりじゃない? 何がどうできるってんだ……。何をすればいい……」


「メティスのTMC支社を襲撃する」


「何だって! あんた正気か……!」


 アーサーがこともなげに言うのに土蜘蛛が慌てふためいた。


「正気だ。俺はもう長くない。死がすぐそこまで迫っている。だが、死ぬ前にやるべきことをやらなければ」


「娘のためか……。それはあんたがやりたいことだろ。やるべきことじゃない」


「俺がメティスTMC支社を襲って得た情報を大井に売り込め。そうすればお前も生き残れる。そうだろう……」


「クソ。マジかよ」


 土蜘蛛がどうしていいか分からないように辺りをうろうろする。


「分かった。やろう。そうだよ。俺だってもう十分生きた。後はどう死ぬかだ。なら派手に死んでやるさ。はははっ! メティスの、六大多国籍企業ヘックスの度肝を抜いてやるぜ!」


「そうだ。やるぞ」


 自棄になったように笑う土蜘蛛にアーサーはそう言い立ち上がる。


「俺とネフィリムはマトリクスからあんたを支援する。メティス相手に仕掛けランをやってやる。あんたが行きたい場所まで行かせてやるから突入ブリーチは任せたぞ。やり遂げろよ」


「無論だ」


「じゃあ、おっぱじめようぜ」


 アーサーがアパートを出て、土蜘蛛はサイバーデッキに接続してマトリクスにダイブ。オリジンについて調べているネフィリムと合流した。


「アルマ。これで最後になる。もし、俺がお前を救えなかったら」


「もういいよ、お父さん。やめよう。こんなことをしたって意味はないから」


「意味はある。俺のエゴだ」


 アーサーはアルマにそう言い近くで土蜘蛛がハックした大井統合安全保障の下請けが使っている軍用四輪駆動車に乗り込むとハンドルを握ってメティス・グループのTMC支社を目指しアクセルを踏み込んだ。


『アーサー。ネフィリムがお手柄だ。メティスTMC支社のアイスは砕けた。内部は覗き放題で無人警備システムもハックできる。なんでもござれってことだ。それからネフィリムがあんたに情報だと』


『アルマのお父さん! オリジンについての情報があります。まさにメティスTMC支社にいるとの情報です。今の状況を考えればあなたをおびき出すための偽装工作の可能性もありますが、まだ希望はあるんです』


 土蜘蛛とネフィリムが相次いでそう言う発言。


「ありがとう、土蜘蛛、ネフィリム。今から突入ブリーチする」


 アーサーの目の前のメティス・グループのTMC支社たる巨大な高層建築が出現した。アーサーの乗る軍用四輪駆動車は全速力でその建物がある敷地に向かっている。


『警告。あなたはメティス・グループが有する敷地に進入しようとしています。我々には無警告の武力行使であなたを排除する権限がTMC自治政府より与えられており──』


「うるさい」


 車に流れて来たメティスからの警告を無視し、アーサーは軍用四輪駆動車を敷地内に突っ込ませた。ゲートは自爆テロ防止のためのバリケードを瞬時に展開し、軍用四輪駆動車は潰れるが、もうそこにアーサーの姿はない。


「何もかも。何もかも燃やし、破壊し、奪ってやる」


 アーサーはそう言ってメティスTMC支社に侵入。


「侵入者だ! 応戦しろ!」


 社内にはメティス系列の民間軍事会社PMSCであるベータ・セキュリティのコントラクターたちが展開しており、アーサーを迎え撃とうとする。


時間停止ステイシス空間天使ジャンプ並列同時起動」


 そして、殺戮の嵐が吹き荒れた。


「クソ! クソ! 弾が当たらな──」


「一般職員を避難させろ! 急げ──」


 次々に斬り殺されて行くベータ・セキュリティのコントラクターたち。


「ど、どうなって──」


「どこに逃げれば──」


 一緒に切り殺される非武装のメティス職員。


『アーサー。ネフィリムの情報はビンゴかもしれない。今のメティスTMC支社に妙に厳重なアイスがあるのを確認したのと特殊執行部隊SEUの存在を確認した。連中、精鋭を動員してる』


「皆殺しだ」


『オーケー。じゃあ、やってやろうぜ。死ぬまであがいてやるさ』


 アーサーはメティスTMC支社を破壊と殺戮を振りまきながら前進し続ける。


『バルバロイ・ゼロ・ワンより各員。敵はサイバーサムライで未知のサイバネティクス装備を使用している。全力で叩きのめせ』


『了解』


 ここでベータ・セキュリティの誇る精鋭部隊である特殊執行部隊SEUが展開。全員が生体機械化兵マシナリー・ソルジャーであり、第6世代の熱光学迷彩を使用する特殊部隊だ。


『見えてないつもりみたいだが、マトリクスからは丸見えだぜえ!』


『無人警備システムで攻撃ですよ!』


 しかし、マトリクスのトラフィックを分析していた土蜘蛛とネフィリムが特殊執行部隊SEUの位置を特定して無人警備システムで攻撃を仕掛ける。


『クソ。バルバロイ・ゼロ・フォーよりバルバロイ・ゼロ・ワン。無人警備システムはハックされている。どうにかしてくれ』


『現在、サイバーセキュリティチームが対応中だ。それまで電磁パルス兵器で凌げ』


『了解』


 そこは訓練された精鋭であり、警備ドローンや警備ボット、リモートタレットの攻撃に対して電磁パルスガンや電磁パルスグレネードを使って無力化する。


『アーサー! 急げ! 奴らがサイバーセキュリティチームを送り込んできた! こいつら電子サイバー猟兵イェーガーだ!』


「もう少し持たせてくれ。頼む」


『ああ。分かったよ。任せときな』


 アーサーは進む。ひたすら進む。進み続ける。


 殺そうと、壊そうと、燃やそうと彼は進み続けた。


『バルバロイ・ゼロ・ワンより各員。目標ターゲットを捕捉。交戦規定ROEは射撃自由、生存者ゼロだ』


『了解です』


 そして特殊執行部隊SEUがアーサーと接敵。


 アーサーは見えない敵から電磁ライフルで無数の大口径ライフル弾を叩き込まれる。一発でも当たれば重傷は確実で最悪即死だ。


「止まるわけにはいかない。今はまだ決して」


 特殊執行部隊SEUの攻撃を回避しながらアーサーは敵に肉薄し、一気に斬撃を叩き込む。敵の位置情報は土蜘蛛とネフィリムが把握してアーサーの拡張現実ARに表示している。


『なんだこの動きは……』


 アーサーは突然消え、突然現れ、特殊執行部隊SEUの隊員たちを斬り殺す。


『まるで鬼だ』


 そう言って特殊執行部隊SEUの指揮官は息を飲んだ。


……………………

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