ドッグ・イート・ドッグ//襲撃者たち
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──ドッグ・イート・ドッグ//襲撃者たち
オールド・ワグナーの偵察部隊は密かにアーサーと土蜘蛛が潜伏するセーフハウスに近づいていた。彼らにとって誤算だったのは隠れているつもりの自分たちの姿が土蜘蛛の監視装置に捕捉されていたことだ。
「上には何もない。地下だな」
建物の地上階を偵察し終えたオールド・ワグナーの武装構成員がそう言う。
「了解。地下なら逃げ場もないだろう。本隊を誘導──」
そして、その報告を受けてオールド・ワグナーの指揮官が指示を出そうとしたとき、その首が宙を舞った。
「なっ──」
「
突如として姿を見せたアーサーにオールド・ワグナーの武装構成員たちがカラシニコフの銃口を向けようとするも虚しく時間が止まった中でアーサーが彼らを鏖殺。
元々は栄誉ある旧ロシア軍に所属し、ウクライナ戦争と第二次ロシア内戦で戦犯となった上官とともに母なるロシアから逃げだしたロシア人が異国の血で屍を晒す。
『アルマのお父さん。敵はまだいますよ。気を抜かないでください』
「ああ。分かっている。支援してくれ、ネフィリム」
『お任せあれ』
マトリクスからネフィリムと土蜘蛛がアーサーを支援する。
『TMC上空を飛行中のドローンの目を借りた。分析してくれ、アルマ、ネフィリム』
『分かった。解析を始めるよ』
アルマもまた父のために力を貸していた。
アルマたちが解析したドローンや民間宇宙開発企業の偵察衛星の画像から、オールド・ワグナーの送り込んだ武装構成員たちの位置が推測される。
「なるほど。次は狙撃だな」
アーサーがそう呟いた次の瞬間、口径12.7ミリの大口径ライフル弾が飛来する。しかし、それはアーサーの手前でその動き止め、アーサーは銃弾を“毒蛇”を振るって叩き落とした。
「
大口径弾を放ったオールド・ワグナーの狙撃班たちはアーサーの姿を見失った。
「クソ。
「どういうことだ……。あの野郎、どこに……」
旧ロシア製対物狙撃銃を構えた狙撃手が叫ぶのに、狙撃班を構成している観測手が高倍率かつレーザーレンジファインダー付きの双眼鏡で周囲を見渡す。
『──畜生! 狙撃班! 援護はどうな──』
「おい。どうした? 何があった、イワノフ軍曹?」
そこで友軍からの悲鳴がマトリクスを介した無線通信に混じる。
「奴を急いで探してくれ。ドローンもあるだろ」
「ドローンがいるはずなんだが応答しないんだよ」
「不味いぞ。ここは奴の庭だ」
「だが、奴はひとりだもうひとりの
そこで観測手の首が飛び、狙撃手が目を見開いた。
「俺と土蜘蛛が狙いか……」
「てめえ! この野郎──」
そして、狙撃手が咄嗟に自動拳銃を抜こうとした右腕が切断される。
「後ろにいるのはメティスか……。連中に雇われたのか……」
そう尋ねるアーサーの姿は幽鬼のようであり、狙撃手の背筋に冷たい汗が流れた。
「し、知らない。俺たちは何も──」
「なら死ね」
狙撃手が袈裟懸けに切られ、循環型ナノマシンの混じった血液を流して倒れる。
「土蜘蛛。狙いは俺たちだ。奴らは六道を襲う以外に
『なるほどね。こうなるとは思ってたさ。俺はあんたみたいな
「すまん。巻き込むつもりはなかった」
『気にするな。巻き込んでくれなきゃ野垂れ死んでただけだ』
アーサーの謝罪に土蜘蛛が力なく返した。
『アルマのお父さん。次が来ますよ。準備して!』
「ああ。連中がやろうというなら徹底的にやってやる」
さらにオールド・ワグナーが部隊を送り込んでくる。
「先見の偵察部隊との連絡が途絶えた。だが、構うものか。皆殺しにしてやれ」
「派手にやれって命令だしな」
どこからTMCに持ち込んだのか口径14.5ミリの重機関銃を
「おい。あれは
「間違いない。撃て──」
射撃命令を出そうとした指揮官がいる車両が乗員ごと引き裂かれる。小銃弾を防げるほどの装甲が“毒蛇”によって横に引き裂かれ、車体が上部と下部で分かれた後にバッテリーごと爆発した。
「何が起きた!」
「降車して視界を確保しろ! 急げ!」
だが、流石は元ロシア軍の将兵なだけあり、動きは早く、すぐさま自身の安全と部隊にとって有利な地形を抑えようとする。
「ドローンとの連絡途絶! 周囲が確認できません!」
「なら目視で確認──」
しかし、アーサーは周囲にめぐらされたオールド・ワグナーの車両部隊の内側に現れ、士気を引き継いだ指揮官の首を刎ね飛ばした。
「冗談だろ! 敵は内側にいるぞ!」
「くたばりやがれ!」
カラシニコフが火を噴きけたたましい銃声が響き渡る。
「クソッタレ! また消えやがった。熱光学迷彩か……」
「どうなってるんだよ。TMCのサイバーサムライってのはみんなこんな──」
またひとり切り裂かれ、アーサーがその姿が目撃された次の瞬間消える。
「クソ、クソ、クソ! あの野郎──」
まるで漂流者がひとり、またひとりとサメによって海中に引きずり込まれ、食い殺されるようにオールド・ワグナーの武装構成員が斬り殺されて行く。
「た、助け──」
そして、最後のひとりも斬り倒された。
「残りは……」
『気を付けろ。まだ連中のトラフィックがこの付近に存在する。今、アルマとネフィリムが分析しているが、どうも熱光学迷彩を使ってやがるみたいだ』
「こちらでも探しておく」
『無茶するな。俺はあんたに命を預けている状況だし、あんたの娘もいるんだぞ』
「……そうだな。安全な場所にいる」
『そうしてくれ』
土蜘蛛にそう言われ、アーサーは土蜘蛛たちが確保している建物に入る。そこは六道の関係施設である酒場が、この騒ぎで非武装の構成員は逃げだし、武装構成員は動員されもぬけの殻になっていた。
アーサーはそこでじっと敵を待つ。
『お父さん。来たよ。備えて』
「ああ」
そして、アーサーが再び“毒蛇”を握る。
『クズネツォフ。先遣部隊は全滅している。サイバーサムライにやられたな』
『気を付けろ。どうも事前の情報と違う。確実に潰すぞ』
『了解だ』
オールド・ワグナーの武装構成員たちは第4.5世代という旧式の熱光学迷彩を使用して、アーサーが待ち受ける六道関係施設に迫っていた。
『アーサー。こいつら、旧ロシア空挺軍の機械化ボディを使ってる。旧ロシア空挺軍の
「だが、斬れば死ぬだろう……」
『それはそうだが。今、周囲のセンサーが読み取った連中の位置情報をアルマとネフィリムが解析してる。そっちの表示できるはずだ。斬って殺せるなら殺しといてくれ』
「任せておけ」
土蜘蛛が軽くそう言い、アーサーは静かに頷いた。
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