よく見るおじさん
よるがた
よくみるおじさん
これは幼少期から私に起きている奇妙な話です。
私は小さいころから女の子らしくないと言われるほど活発な子で、
男の子ともよく遊び、よく怪我をする子供だったそうです。
そんな私が「それ」に気づいたのは小学6年生の頃、
母と一緒に旅行で北海道に行っていた時でした。
私と母は北海道の広大な大地が一望できるリゾートホテルに到着しウキウキでした。
私はホテルの部屋に入ると荷物を降ろしすぐに窓辺に駆け寄り、
窓から見える景色を確認しました。真っ白い雪景色がとても綺麗でした。
しかし、その中に違和感のあるものがありました。
スーツのおじさんでした。
真っ白い紙にある小さなシミのようにポツンと存在するそれは、黒いスーツを着た中肉中背の40代くらいのおじさんで、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ており、
私がおじさんに気づくとさらに大きく口を開け、口角を上げて不気味に笑いました。
このホテルは大きく、いくつもの部屋がありますが、
その中からこの部屋のこの私の目を見ている…。
おじさんとの距離はそれなりにあったはずなのですがそう確信しました。
恐怖した私はすぐ目を離し、荷物を開けている母の元へ駆け寄りました。
私は母に何と言っていいのかわからず、
私「ねぇ外見て・・・?」
とだけいい、母を窓辺に連れて行きました。
母「わぁ、綺麗だね」
黒いスーツのおじさんに気づいていない様子の母。
私がもう一度おじさんに目を向けると、すでにそこにおじさんは居ませんでした。
私が母を呼んでもう一度おじさんの居た位置に再び目を向けるまでに数十秒しか経っていません。外は一面雪景色、こんなにも早く姿をくらませることができるのか。
また、おじさんがいた場所の付近には雪を踏んだ足跡もなく、
どうやっておじさんがあの場所に行ったのか、立ち去ったのかも分かりません。
そして一番怖かったことは、スーツのおじさんに既視感があったことです。
あの黒スーツのおじさんはたまに近所で見かける人でした。
最後に見かけたのがいつかは覚えていませんでしたが数年前に1度か2度、
近所で見かけた記憶があります。つまりこのあたりに住んでいる人ではない。
恐らく、
私を追いかけてここに来たのだ。
そう直感的に思いました。
その後私は、このおじさんを人生で何度か見かけることになります。
ショッピングモールで、テニスの大会会場で、
大学で地元から離れても、就職し上京しても、
何の前触れもなく街中で、
あの黒いスーツのおじさんを見かけました。
そして昨日も。
見かける頻度はまちまちで、再び見るまで数か月の時もあれば、
3、4年開くこともありました。
そして黒いスーツのおじさんを見かけると決まって必ず『怪我』をしました。
刃物で指を切る、電柱に頭をぶつける、車にひかれるなど。
怪我の程度は様々ですが、
どうあっても大体10日以内くらいには何らかしらの怪我をしていました。
しかし、前回は例外でした。
通勤時、駅の向かいのホームで例の黒いスーツのおじさんのを見たはずですが、
10日経ってもケガをすることはなかったのです。
ただ、私がおじさんを見てから1週間後。
私の仲の良かった同僚がケガをし、
そのままそれを理由に退職してしまいました。
偶然なのか、スーツのおじさんの呪いが同僚の子に移ったのか…
私と仲が良かったから?
いや、仲が良かった人なら学校にも家族にもいました。
では前回と今までの違いは何だったのでしょうか。
話したんです。
生まれて初めて「黒いスーツのおじさんを見た」と、
同僚の子に話したんです。
あの子が、「元気ないけどどうしたの?」って
聞いてくれたから。
皆さんごめんなさい。
ありがとう、私の話を聞いてくれて。
よく見るおじさん よるがた @yorugata-aratame
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