ねこじゃらしニャン次郎

吉冨いちみ

令和モコフワ与太噺・ねこじゃらしニャン次郎

 享保八年、春のこと。


 中山道の猫籠宿で猫争いが起こった。


 二匹の化け猫が木曽路の覇権を巡り、配下の猫を集めたのである。

 旅籠は毛だらけ猫だらけ。宿場の者ども、雁首揃え、これじゃ商いにならねえにゃあと困り果てていたところ、ふらりと一匹の旅猫が現れた。


「あっしは猫股旅のニャン次郎と申す、しがねえはぐれ猫でござんす。一飯までは求めやしませんが、せめて一晩、雨つゆしのがせてくれりゃそれでよし。よござんすか」


 猫でマタタビとはこれいかに。旅籠の主人、首を傾げつつも、同じ猫なら物は試しとニャン次郎に窮状を訴えた。


「あっしニャア関わりのねえことでござんす」


 ニャン次郎つれない言葉を放ちはしたが、根っこは生粋のお人好し、いやお猫好し。


「ちょっくら話つけてきてやらあ」


 重い尻尾を上げた。


 ニャン次郎、たちまち化け猫二匹と会合の場を設けるや、言葉巧みに間をとりなし、猫争いをするするにゃあーと和解へ導いた。


 感動した主人、深々と頭を下げた。


「あっという間に荒くれ猫ども二百余匹をなだめすかすたあ、おみそれしやした。さぞや名のあるお猫様に違いねえ。一晩と言わず、二晩でも三晩でも。朝飯、昼飯、晩飯、三食しっかりお世話させてもらいます」


 ニャン次郎、ニャアと苦笑し、こう言った。


「頭をお上げなせえ、ご主人。あっしはしがねえ流れの猫じゃら師。猫あしらいは朝飯前でござんすよ」


                ー完ー

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