第11話 ドラキュラ、買い物を手伝う
「ごめんね、お買い物手伝わせちゃって」
「なに、かまわん」
今日はナツミの手伝いで隣町のスーパーにやって来た。コンビニよりも大きく、品揃えも豊富だ。
「そう言えば日の出はどうだった?」
最近のナツミはやけに砕けた口調になってきた。こっちの方がナツミらしくて良いのかもな。
「うむ、とても美しかった。今度ナツミにも見せてやろう」
「あはは、お願いね〜」
ナツミは笑いながらどんどん商品をカゴに入れていく。
日本にたどり着いてから二週間くらいが経つだろうか。
濃密すぎる日々に、時間の流れがとても速く感じられる。
「うん、じゃあレジに行こっか」
「ああ」
「あれ、柊木さん?」
ヒイラギ、確かナツミの姓だったか。振り返ると、小柄な男がカゴを持って立っていた。
「さ、ささ、桜井くん!?」
「学校ぶりだね〜」
サクライと呼ばれた男は、ナツミと知り合いなのか、親しげな様子だ。
「柊木さん、この人がもしかしてドラさん?」
「あ、そうなの!」
「我はガルニ・ドラ。夜の怪物であり、闇の帝王であるドラキュラだ」
「おー…、じゃあはい」
サクライはカバンに一瞬手を入れたかと思えば、唐突に十字架を取り出した。
「うぶぁあ!?」
「あ、本当に効くんだ」
「早くそれをどけろ!」
「ごめんごめん」
こいつ、トウカと同じ匂いがするぞ…。
「柊木さんが急にドラキュラを居候させてるって言うから信じられなくてさ。でも皆んな普通に信じてるの、田舎っぽいって言えば田舎っぽいよね」
「あれ、信じてなかったの?」
「確かに、現代ではドラキュラと言った類は空想のものとして描かれているしな」
ナツミを見てみると、純粋な瞳で見つめ返してくる。疑うと言うことを知らなさそうな女だ。
「でも良かったよ、ドラさんが良い人そうで」
「お前はトウカと似た雰囲気を感じるな」
我がそう言うと、サクライはにこやかな表情で笑った。
「じゃあ僕はもう行くね。お邪魔しました」
「あ、あの桜井くん!」
「どうしたの?」
「こ、今度の花火大会さ、一緒に行かない?」
これは、まさかナツミはこの桜井と言う男を好いているのか。
顔の火照り、心拍の上昇、潤んだ瞳。これは恋をする乙女の特徴に合致する。
さあ、なんて答えるサクライ。もし断りでもしたら貴様を引き裂くぞ。
「もちろん良いよ!」
「ほ、本当!?」
よくやったサクライ!
「他には誰を呼ぶ?」
ん?
「え、えーっと、ひーちゃんとか呼ぼっかな〜みたいな…?」
「じゃあ僕も友達呼ぶね。良かったらドラさんも来てくださいよ」
「あ、お、うむ。時間があればな」
こいつ、察しが悪すぎるのか? 見てみろこのしょんぼりしたナツミの表情。
そして我もこやつらの関係性を壊しかねないがために、二人で行けと言えない…。
「柊木さん、連絡先交換しよ」
「へ?」
「ほら、集合場所とか後で決めないとじゃん」
これは…?
「うん!」
恋する乙女の表情は目まぐるしく変わり、そしてとんでもなく眩しいものなのだな。
ドラキュラに日本の生活は難しい りょ @ooooiotya630
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