第6話

 一昨日、昨日と必死の練習を重ねたボクはどうにか的を燃やして再試をパスし、満足げなモンラディク先生と再試の様子を見に来てくれたインフルーミン先生にお礼を述べた。


「エメちゃんと、一応グレースもありがとう!」

「ううん、クロちゃんおめでとう!」

「一応ってなんだよ、おもしろくない奴だなぁ」

「とか言ってグレース本当はボクのこと大好きなんでしょー?最初の実技考査のときボクが言ったことも覚えててくれたしぃ?」


 いつものお返しに言ってやると、グレースは急に凄くまじめな顔でボクの目を見つめてきた。

 そして。

 妙なことになり、うっと詰まるボクに向かって。


「……ああ、好きだよ」

 ――えッ!?

「えッ!?」

「初めて寮で話したときはちんちくりんな獣人が、昔森で魔物に襲われたときに駆け付けてくれた魔術師様が、ボクと弟をカッコいい魔術でカッコよく助けてくれて、それからずっと魔術師になりたかったんだー!なんて言うから変な奴と一緒になっちまったなぁと思ったけどさ」


 ――確かに言った。あの日からエメちゃんとは仲良くなれたのに、グレースはずっとボクのところにやって来ては、ボクをからかい続けてきた。


「座学でも実技でもずっと一生懸命なお前を見てたら、あたしもなんだか魔術も良いものかもなって思えてきて、いつの間にかクロエのことも……」


 ――心臓はバクバクするし、顔は火球の匂いを嗅いでたときよりずっと熱いし、尻尾は何故か大きく揺れようとするから押さえつけないといけないし、グレースの顔、見れないし……。


「あっあのねっ!えっと……!ボク、グレースのこと、最初ヤな奴だーって思ってたけど、この間見本を見せてくれたときね……凄く丁寧だったしっ……よく考えるとボクがつらいときはエメちゃんと一緒に必ず来てくれるし……本当は――」

「――ぷふ!」


 ……え?

 ぱっと顔を上げると、まじめな顔のグレースなんてどこにもいなくて。いつもの、ボクの仕返しを、更にやり返すときのニヤニヤした――

「っ!!グレース!本当にイジワル!!なんでボクにばっか!」

「ああー、おもしれぇー!ちんちくりんは健康に効くぜぇー」


 最悪!!

 へらへら走って逃げるグレースをボクは追いかけた。


 だからボクは聞こえない。


 インフルーミン先生の「ああ、それでテルヴィレアさん入学後に座学の成績が上がってきたんですねー」というつぶやきも、「グレちゃん全然素直じゃないんですよ」ってにこにこ笑うエメちゃんの声も。


 獣人は耳もいいけど、聞こえない。

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獣人と魔術学院 あかば雨期 @rainyseason_akaba

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